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早期肺がんに術前の化学療法とニボルマブの併用が有効

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肺がんが肺の外に広がる前に発見された場合、通常、手術で腫瘍を除去する。残念ながら、がんが早期に発見され手術によって腫瘍がすべて取り除かれたとしても、がんが再発することはよくある。

今回、大規模臨床試験の結果から、手術前に免疫療法薬ニボルマブ(販売名:オプジーボ)による治療と化学療法を行うことで、がんの進行や再発を大幅に遅らせることができることが明らかになった。

CheckMate 816と呼ばれるこの試験では、早期の非小細胞肺がん(NSCLC)患者は、ニボルマブと化学療法、または、化学療法単独による術前療法(ネオアジュバント療法として知られる)のいずれかを受けた。ニボルマブと化学療法を併用した患者は、がんの再発を含む重篤なイベントを経験することなく、より長く生きられた。併用療法が全体的な寿命を改善するかどうかを判断するのに十分な期間にわたる試験参加者の追跡調査は行われていない。

この試験結果に基づき、3月に米国食品医薬品局(FDA)は、ニボルマブを早期非小細胞肺がん患者に対する化学療法と併用する術前療法薬として承認した。CheckMate 816試験の結果は、4月に米国がん学会(AACR)の年次総会で発表され、同時にNew England Journal of Medicine(NEJM)誌に掲載された。

「肺がんの治療法は、飛躍的な進歩をはさみながら、通常、ゆっくりと進歩していきます」と、この試験に関与していないオハイオ州立大学のDavid Paul Carbone医学博士がAACR年次総会で述べている。「今回の結果は、そのような飛躍の一つであるかもしれません」とCarbone医学博士は続けた。

「(免疫療法を)手術と組み合わせることは、新しい標準治療であり、ほぼ間違いなく数十年ぶりに早期がんの全生存期間を改善するでしょう」とCarbone医学博士は述べた。

早期の肺がんに対する治療法の転換
肺がんの中で最も一般的な非小細胞肺がんは、診断された時点ですでに肺の外に広がっていることが多いため、研究は主に進行した状態の人を対象として行われてきた。

しかし、この10年、肺がんのリスクが高い人が検診を受けるようになり、早期肺がんと診断される人の割合が徐々に増えている。

早期の非小細胞肺がん患者に対して手術前に化学療法を行うことは、新しいことではない。しかし、患者の生存期間をわずかに延ばすだけであるため、日常診療での使用は制限されてきた。

過去数年間に、FDAは早期非小細胞肺がん患者の術後(補助)治療薬として2つの薬剤を承認している。それらは、EGFR遺伝子に変異がある腫瘍の患者に対して承認されたオシメルチニブ(販売名:タグリッソ)と、腫瘍のPD-L1という免疫チェックポイントタンパク質のレベルが上昇している患者に使用が承認された免疫療法薬アテゾリズマブ(販売名:テセントリク)である。免疫療法薬は進行した肺がんに対する標準的な治療法であるが、より早期の肺がんに対する承認は今回が初めてとなった。

小規模な臨床試験で得られた有望な知見に続き、早期非小細胞肺がんにおける術前化学療法に免疫療法を追加することの有効性についてより明確な回答を得るために、第3相CheckMate 816試験が開始された。この試験は、ニボルマブを製造しているBristol Myers Squibb社がスポンサーとなった。

ニボルマブと化学療法の併用で無イベント生存が改善
本試験には、早期、すなわちIB期からIIIA期の非小細胞肺がん患者358人が登録された。これらの患者は、化学療法とニボルマブを3回投与される群と化学療法のみを行う群に無作為に割り付けられ、その後6週間以内に手術が予定された。

21カ月以上の追跡調査の結果、ニボルマブ治療を受けた患者は、がんの再発や悪化、何らかの原因による死亡などの重篤なイベントを経験することなく、平均11カ月長く生存した(無イベント生存期間と呼ばれる指標)。

さらに、ニボルマブと化学療法を受けた患者の組織サンプルの24%にはがん細胞が認められず、病理学的完全奏効と呼ばれる状態になった(化学療法のみを受けた患者ではわずか2%)。また、術前療法後に病理学的完全奏効を得た患者は、そうでない患者に比べて、全体的にみて無イベント生存率が非常に優れていた。

また、ニボルマブと化学療法を受けた患者では、より多くの患者で標準的な開腹手術ではなく低侵襲手術を受けた。

本試験は、ニボルマブの追加が最も有効であった患者では腫瘍に特定の特徴が認められるのかを確定的に判断するためにデザインされたものではなかった。しかし、いくつかの示唆的な結果が得られたと、本試験の主任研究者であるCurie-Montsouris胸部センターのNicolas Girard医学博士がAACRミーティングの発表で説明した。

例えば、ニボルマブが標的とするPD-L1タンパク質のレベルが高い腫瘍の患者では、無イベント生存期間が長く、病理学的完全奏効が得られる確率が高いことがわかった。

免疫チェックポイント阻害薬には重篤な副作用があるが、「この試験では、化学療法にニボルマブを追加しても毒性や手術合併症の増加はみられませんでした」とGirard医学博士は述べている。ニボルマブを投与された患者のうち、免疫関連の副作用(例えば、皮膚の発疹)があったのはほんの一握りで、しかもそれは軽度のものであったという。

早期肺がん治療への影響は?
ニボルマブと化学療法が術前療法としてFDAに承認されたのはつい最近なので、この治療法が広く使われるようになるには時間がかかるだろうというのが専門家の大方の意見だった。

例えば、最大の課題の一つは、患者が実際に術前療法の選択肢を与えられるようにすることであると、バンダービルト・イングラムがんセンターで肺がん治療を専門とするChristine Lovly医学博士が述べている。早期の肺がんと診断された人のほとんどは、腫瘍を取り除く手術を受けた後でないと、この治療法を処方する腫瘍内科医に診てもらえない。

「術前療法を行うのであれば、腫瘍内科医と外科医とでそのタイミングを計画できなければなりません。複数の医療専門家の間で、治療に当たっての協力がより必要になるでしょう」と、この試験には参加していないLovly医学博士は述べた。

術前療法の成功例がすでに存在していることから、ありがたいことに「この課題は解決可能です」と彼女は続けた。

「乳がんのような他のがんでは、術前療法が日常的に行われており、集学的チームが同じ施設に集まっている乳がんセンターがあります」と、NEJM誌にこの試験結果に関する論説も書いているLovly医学博士は言う。「このようなことは肺がんでも可能だと思いますが、医療制度が適応しなければならないでしょう」。

利用可能な術前療法および術後療法の最適な使用方法を理解するためには、さらなる研究が必要であるとCarbone医学博士はAACR年次総会で述べている。

同氏は、術前免疫療法を万能の解決策として用いることには反対であると主張した。「患者の腫瘍はそれぞれ異なっており、患者ごとに治療を個別化するために、より優れた腫瘍バイオマーカーが必要である」と述べた。

また、病理学的完全奏効と無イベント生存期間の延長との間に予備的な相関を示した試験結果に基づき、病理学的完全奏効は「最適な術前療法を選択するための一助となる代用指標」となりうるとも述べている。

もう一つの疑問は、早期病変を有するすべての患者が術前療法を受けるべきかどうかであるとLovly医学博士は指摘した。

例えば、この試験のデータから、IIIA期のがん患者は、より早期(IB-II期)のがん患者と比較して、無イベント生存期間と病理学的完全奏効の両面でニボルマブ併用の効果が良好であったことが示唆された。しかし、これらの結果を患者の治療計画にどのように反映させるかについては、さらなる研究が必要であるとLovly医学博士は述べている。

CheckMate 816試験では、術後の治療は任意であった。術前療法と併用した術後療法が最も有効なのは誰か、どの治療法を用いるべきなのかは、未解決の問題であるが今後数年で答えが得られるであろうとLovly医学博士は述べた。

「早期非小細胞肺がんの治療をより洗練されたものにするために、今後何年にもわたって追加的な研究が行われるでしょう。患者に選択肢があるのは非常にありがたいことですが、最終的には、誰が最も治療の恩恵を受けるのか、この新しい治療法をどのように使うのがベストなのかを解明するのに時間がかかります」と同氏は述べた。

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*研究共著 兼 監修者(田中文啓)注:今回の臨床試験の結果は、切除可能非小細胞肺癌の治療戦略を変える大きな意義のあるものです。非小細胞肺癌は、手術が可能であっても高頻度に術後に再発が生じます。このために手術前(ネオアジュバント)や手術後(アジュバント)に抗がん剤治療を行って手術成績を向上させる取り組みが行われてきましたが、その効果は限定的でした。今回の試験では、手術前の抗がん剤治療に免疫療法(抗PD-1抗体ニボルマブ)を加えることにより、手術成績が顕著に向上することが示されました。この数年、手術後(アジュバント)の治療として、免疫療法(抗PD-L1抗体アテゾリズマブ/IMpower010試験や抗PD-1抗体ペムブロリズマブ/KEYNOTE-091試験)やEGFR遺伝子変異陽性であればEGRF阻害剤(オシメルチニブ/ADAURA試験)の有効性を示す試験が相次いで報告されました。今後、これらをどのような患者さんに使用するかが臨床医にとっての大きな課題になると思います。

最後に、本CheckMate-816試験に治験の段階から参加し、ニボルマブ併用療法の有効性を示す大きなエビデンスつくりに貢献できたことをうれしく思います。本論文の共著者の一人として、本治療法によって一人でも多くの肺がん患者さんが救われることを願うばかりです。

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翻訳伊藤彰

監修田中文啓(呼吸器外科/産業医科大学)

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