肺がんに対する、がん免疫療法新薬tiragolumab試験が不成功に

肺がんに対する、がん免疫療法新薬tiragolumab試験が不成功に

Roche社が展開する新たながん免疫療法薬の開発は、5月11日水曜日、免疫療法薬の2つ目の試験で肺がん進行を遅らせることができず先行きが不透明となり、このスイス製薬会社の株価に打撃を与えた。

研究において、抗TIGIT新薬tiragolumab(チラゴルマブ)、およびRoche社既存の抗PD-L1薬テセントリク(成分名:アテゾリズマブ)の免疫療法薬2剤併用は、新たに進行非小細胞肺がんと診断された症例において、テセントリク単剤投与と比較して病状進行を遅らせなかったことが同社により発表された。

3月にtiragolumabが悪性度の高い別の型の肺がんの進行を遅らせることに失敗した直後であり、アナリストは、2つ目の試験の成功を期待していた。

今回の失敗は、抗TIGIT薬(*サイト注:TIGITを標的とする次世代免疫チェックポイント阻害薬)と呼ばれる薬剤で、同様の薬剤を研究している6社以上の企業の開発努力を揺るがす可能性がある。この開発競争ではMerck & Co社がRoche社に追随している。

Roche社は、今回の残念な中間報告後も試験を継続し、試験参加者におけるtiragolumabの延命効果についてより多くのデータを収集する予定であると付け加えた。

「今回の結果は、最初の解析で想定していたものではありませんが、次のステップを決定するために、本試験で全生存期間の十分な改善がみられることを期待しています」とLevi Garraway氏(Roche社主席医務官)は述べている。

投資家らは、この新薬ががん免疫療法における重要な次世代療法となり、数十億ドルの売上が見込まれると期待していたとクレディ・スイスのアナリストらは述べる。

「有効性の明確な徴候がみられるまではRoche社のTIGITフランチャイズ全体が投資家から低評価を受けるだろうと予測されます」と、アナリストは付け加えた。

TIGITは、免疫系細胞に存在する受容体で、正常な体組織に対する誤った免疫攻撃を防ぐ補助的な役割を担っている。しかし、一部のがんは、TIGITを悪用して、細胞を殺す免疫細胞に気づかれずに増殖する。

Merck & Co 社のキイトルーダ(成分名:ぺムブロリズマブ)やBristol-Myers Squibb社のオプジーボ(成分名:ニボルマブ)など、PD-1やPD-L1と呼ばれるブロックバスター(超大型新薬)クラスの免疫療法薬にも同様の作用機序がある。

この数十億ドル規模の成功により、製薬業界では同様の抗がん剤コンセプトの研究が推進されるようになった。具体的には、忍容性が高いとされ、既存のPD-1またはPD-L1薬との薬剤カクテルで試験されることが多い抗TIGITなどである。

Gilead Sciences社は、昨年11月、抗TIGIT薬 domvanalimab[ドムバナリマブ]に関して、Arcus Biosciences社と業務提携するためオプション権を行使した。

GlaxoSmithKline社は、2021年6月、iTeos Therapeutics Inc社と抗TIGIT候補物質に対して最高20億ドル相当のライセンス契約を結んだ。

Bristol-Myers Squibb社とAgenus社は、2021年5月の提携に基づき医薬品を共同開発している。

Coherus BioSciences社は、1月、米国およびカナダ市場に向けてShanghai Junshi Biosciences社が開発中の新薬候補品のライセンス取得のためにオプション権を行使した。

Roche社は現在、既存の抗がん剤3種の安価なコピーがもたらした競争による売上減少の埋め合わせに取り組んでいるところであるが、今年度末に臨床試験結果が出る予定のアルツハイマー病の実験薬に期待を寄せている。

翻訳担当者 山口みどり

監修 廣田 裕(呼吸器外科、腫瘍学/とみます外科プライマリーケアクリニック)

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