ビタミンEが免疫チェックポイント阻害薬の効果を高める可能性

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ビタミンEが樹状細胞のSHP1チェックポイントを阻害し、抗原提示を強化して、抗腫瘍免疫を刺激することを発見

テキサス大学MDアンダーソンがんセンターでは、カルテ(診療録)の後ろ向き解析と実験室での詳細な研究を組み合わせ、ビタミンEが腫瘍内の樹状細胞の活性を刺激することにより、免疫療法の効果を高めることを発見した。この知見は、4月14日、Cancer Discovery誌に掲載された。

研究者らは、ビタミンEが樹状細胞のチェックポイントタンパク質であるSHP1に直接結合してその活性を阻害し、抗原提示を増加させてT細胞を抗腫瘍免疫反応のための準備状態にすることを明らかにした。この結果は、樹状細胞のSHP1を直接標的とするだけでなく、ビタミンEとの併用など、免疫療法の効果を改善させる新しい治療法の可能性を指摘している。

「本研究は、免疫療法の効果に影響を与える要因について、私たちの理解を深めるものです。私たちは、ビタミンEが、SHP1の阻害を介して樹状細胞の抗原提示を再活性化することができることを実証しました。これらの結果は、ビタミンE処理またはSHP1を抑制した樹状細胞や樹状細胞由来の細胞外小胞が、将来の臨床応用に向けた有効な免疫療法として開発される可能性を示しています」と、分子細胞腫瘍学の教授代理である責任著者Dihua Yu医学博士は述べた。 

ビタミンEは免疫療法の反応性の改善に関連

免疫療法の一種である免疫チェックポイント阻害薬は、多くのがん患者に長期的な効果をもたらすが、すべての患者に効果があるわけではない。より多くの患者の治療効果を高めるために、このような多様な反応を理解する必要がある。

サプリメント(栄養補助食品)は免疫機能を強化すると考えられているが、免疫療法の活性に対するサプリメントの効果についてはほとんどわかっていない。この関連性を探るため、研究者らは、MDアンダーソンで免疫療法を受けた患者の臨床データの後ろ向き解析を行った。

抗PD-1/PD-L1チェックポイント阻害薬投与中にビタミンEを摂取したメラノーマ患者は、ビタミンEやマルチビタミンを摂取しなかった患者と比較して、生存期間が有意に改善された。この知見は、乳がん、大腸がん、腎臓がんの患者からなる独立した混合コホートで再現された。一方で、化学療法を受けながらビタミンEを摂取している患者には同様の効果が得られなかったが、この結果は化学療法に特有のものであることが示唆された。

次に研究者らは、乳がんおよびメラノーマの免疫原性マウスモデルにおいて、ビタミンEがチェックポイント阻害薬の効果を高めることを明らかにした。しかし、腫瘍浸潤性樹状細胞の量が少ないモデルではビタミンEによる効果は得られず、このような効果は腫瘍浸潤性樹状細胞に依存していることが示唆された。

ビタミンEの樹状細胞への作用を読み解く

樹状細胞は、抗原と呼ばれる異常なタンパク質をT細胞に提示する役割を担う免疫細胞の一種で、それは抗腫瘍免疫反応に不可欠なステップである。しかし、腫瘍に関連する樹状細胞は、腫瘍微小環境の抑制シグナルにより機能不全に陥ることがある。

研究者らは、ビタミンE処理により、樹状細胞上の一部の活性化マーカーの発現が上昇することを明らかにした。さらに、ビタミンEで処理した腫瘍の樹状細胞は、対照群に比べてより多くのT細胞増殖を促しており、ビタミンEはプライミングの段階を促進すると示唆された。

分子・構造研究により、ビタミンEが樹状細胞に入り、樹状細胞の活動を制御するチェックポイントとして働くSHP1タンパク質に結合してその活動を阻害し、樹状細胞がT細胞を準備状態にする機能を高めることを発見した。

SHP1を遺伝的に阻害すると、ビタミンEによる結果を模倣し、T細胞の抗腫瘍反応を刺激する抗原提示を増加させることにつながった。同様に、SHP1を阻害すると、樹状細胞から放出される細胞外小胞での抗原提示が増強された。これも樹状細胞とT細胞との間の重要なコミュニケーション様式である。

SHP1を標的とした新たな治療戦略の可能性

ビタミンEは樹状細胞の抗原提示を改善すると考えられることから、腫瘍抗原を放出し樹状細胞の浸潤を促すことがわかっている治療法の効果を、ビタミンEが高めることができるかどうかを調べた。

免疫療法抵抗性の膵臓がんモデルを含む実験室内研究の結果において、ビタミンE処理が、チェックポイント阻害薬と組み合わせたがんワクチンや免疫原性化学療法の効果を増強できることが明らかになった。

SHP1は、有効な免疫療法の開発のために樹状細胞を効果的に活性化する興味深いターゲットです。この研究は、ビタミンESHP1の相互作用に関する重要な洞察をもたらし、より特異的なアロステリックSHP1阻害薬を開発するための洞察を与えてくれます。SHP1を阻害することによって樹状細胞を活性化させることは、抗腫瘍免疫の強化に有利な戦略になる可能性があります」と、分子細胞腫瘍学の研究者である筆頭著者Xiangliang Yuan博士は述べた。

現在研究チームは、MD アンダーソンの臨床研究協力者とともに、チェックポイント阻害薬やその他の免疫療法との併用によるビタミンEの効果を前向きに評価する最適な条件を検討している。また、研究チームのメンバーもまた、SHP1標的阻害薬、SHP1修飾樹状細胞、樹状細胞由来細胞外小胞を、将来の新たな治療法として開発する機会を探している。

本研究は、National Institutes of Health (R01CA184836, R01CA208213, R01CA231149, P30CA016672, P01CA092584, R35CA220430), METAVivor (56675, 58284), the MD Anderson Duncan Family Institute for Cancer Prevention and Risk Assessment, the Cancer Prevention and Research Institute of Texas (RP180813), the Robert A. Stringer Distinguished Chair for Basic Science、Welch Chair in Chemistry、Hubert L. & Olive Stringer Distinguished Chair in Basic Scienceにより支援されている。

共同研究者の詳細なリストとその開示情報は、こちらの論文で確認できる。

<*監修 者注>今回の記事で紹介した内容は、後ろ向き研究及び動物実験の結果になります。人での治療効果を明らかにするためには、よくデザインされた介入研究(前向き研究)による検証が必要になります。

翻訳担当者 白鳥理枝

監修 大野智(補完代替医療、免疫療法/島根大学 臨床研究センター)

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