トリプルネガティブ乳がん術前免疫療法の効果予測に有望な単一細胞の空間解析

イメージングマスサイトメトリー(Imaging Mass Cytometry)がアテゾリズマブと化学療法を併用した大規模臨床試験で実現可能

単一細胞レベルでのタンパク質発現と腫瘍微小環境(TME)内の細胞位置研究を可能にする次世代技術が実用可能で、早期高リスク局所進行トリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者に対する術前療法として、化学療法への免疫チェックポイント阻害薬アテゾリズマブ(販売名:テセントリク)追加による効果予測情報を提供すると、2021年12月7日から10日に開催されたサンアントニオ乳がんシンポジウム(San Antonio Breast Cancer Symposium)で発表された試験結果で明らかになった。

「腫瘍の分子の複雑さの特徴を捉えるために利用可能な技術に革命が起きています」と発表者で、ミラノのIRCCS Ospedale San Raffaele病院の臨床腫瘍科の乳がんグループのグループ長であるGiampaolo Bianchini医師は語る。「その中でもイメージングマスサイトメトリーを使用すると、腫瘍とその周囲の微小環境の不均質性について今までにない情報が収集可能となります」。

イメージングマスサイトメトリー(IMC)により、単一組織切片で40以上のマーカーを同時に分析し、組織内の正確な位置を考慮しながら個々の細胞に存在する一連のタンパク質を特定することが可能であるとBianchini医師は解説する。IMCは、単一または複数のレーザーを通過しながら単一細胞や粒子の分析を行うフローサイトメトリーと、質量を正確に測定してサンプルに存在する分子を特定する質量分析の原理を組み合わせたものである。

トリネガ乳がんに単核球やリンパ球が浸潤していることが新たなエビデンスで明らかになっている。免疫チェックポイント阻害剤と化学療法の併用はKEYNOTE-522試験で高リスクのトリネガ患者に対し有意な効果を示し、高リスクトリプルネガティブ乳がんの術前療法として化学療法と併用したペムブロリズマブ(販売名:キイトルーダ)のFDA承認に至った。

「残念なことに、ある治療法がすべての患者に合うわけではなく、化学療法のみで効果を示した患者がいる一方で、当初は免疫療法で効果を示してもいずれ再発する患者もいます。さらに、免疫療法は全体的に良好な忍容性を示しますが、まれだが重篤になる可能性のある免疫関連の副作用が報告されています」とBianchini医師は見解を述べた。「このような理由から、化学療法のデ・エスカレーションや化学療法省略につながる可能性のある免疫療法を追加することが最も効果のある患者や、化学療法のみで十分な患者を特定する手助けとなるバイオマーカーが、緊急に必要とされています」。

Bianchini医師らはイメージングマスサイトメトリー(IMC)この治療手段の理想的な候補者を特定するのに役立つかどうかを調査した。治療終了後6週間以内に外科手術を受けた早期高リスク局所進行トリネガ乳がん患者の術前療法として、化学療法のカルボプラチンとナブパクリタキセル(商品名:アブラキサン)のみの場合とカルボプラチンとナブパクリタキセルにアテゾリズマブ(商品名:テセントリク)を追加した場合を比較するようデザインされた第3相NeoTRIPaPDL1試験でIMC解析が実施された。

「単一細胞解析により腫瘍およびイメージングマスサイトメトリー(IMC)内に存在する様々な表現型を特定する予測値と細胞間の相互作用の関連性を評価しました」とキャンサーリサーチUKケンブリッジ研究所およびケンブリッジ大学のグループリーダーであり、本研究の主要な貢献者であるH Raza Ali医学博士は語る。「細胞間の物理的相互作用が免疫の活性化と腫瘍細胞の殺傷の両方に必要なため、腫瘍組織の空間的構造に関する情報は免疫療法の奏効を研究するうえで非常に重要です」。

研究者らは、治療前の生検で患者243人(試験対象母集団の86.8%)から採取した組織サンプルに含まれる100万以上の単一細胞に発現する43のタンパク質の解析に成功した。各サンプルに対し、腫瘍、腫瘍間質界面、隣接する間質を網羅する3つの高次元画像を作成した。腫瘍および腫瘍微小環境細胞のタンパク質発現、細胞表現型および組織の空間的構造と、外科手術中に採取した組織サンプルに浸潤がん細胞がないと定義される病理学的完全奏効率(pCR)との関連性を調査した。

タンパク質発現のバルク解析は各タンパク質が発現している細胞コンパートメントを考慮しないため、予測情報が限定される可能性があると著者たちは語る。例えば、腫瘍微小環境内細胞のKi67と上皮細胞のHLA-DRの評価は、全組織標本で評価した同様のバイオマーカーと比較して、より予測的な情報を提供するようであった。

細胞型や機能状態を含む様々な細胞表現型の正確な特定が可能になることにより、特定の細胞集団の密度を予測する役割が可能性としてあることがこの治療手段で明らかになった。PD-L1や免疫抑制分子IDOを高発現する抗原提示細胞やCD56神経内分泌マーカーを高発現する上皮細胞の密度が高い場合、アテゾリズマブと化学療法を併用した患者の病理学的完全奏効率(pCR)は高く、化学療法のみを受けた患者の病理学的完全奏効率(pCR)は高くなかった。

加えて、上皮細胞と特定の腫瘍微小環境内細胞、例えばグランザイムBまたはPD-1が発現し、疲弊したCD8+T細胞との間の空間的結合性が高いこととアテゾリズマブによる治療後に病理学的完全奏効率(pCR)率が有意に上昇することに相関がみられた一方で、これらのマーカーの発現が低い場合、アテゾリズマブ群と化学療法単独群のpCR率は同等であった。

「化学療法に加えるアテゾリズマブのような免疫チェックポイント阻害剤がもたらす効果について、腫瘍微小環境内の特定の細胞間の相互作用に関する空間データは非常に有益であると、われわれの研究結果で示されました」とBianchini医師は見解を述べた。「このような情報は、単一細胞とその空間的局在の特徴を正確に同時に捉えることが可能な技術によってのみ提供されます」。

また、腫瘍細胞の組成および腫瘍微小環境内に存在する細胞の量、種類、機能状態の両方の面でトリプルネガティブ乳がんの極めて高い不均質性がこの治療手段により確認された。

「イメージングマスサイトメトリー(IMC)で得た予測情報は、PD-L1発現や間質性腫瘍浸潤リンパ球の量など一般的に用いられる免疫バイオマーカーで得られるものを補完するものでした。さらに、免疫細胞の種類や機能を捉える免疫に関連する遺伝子発現シグネチャーのいくつかは、IMCで評価した類似のバイオマーカーよりも情報が少ないことが分かりました」とBianchini医師は語った。

イメージングマスサイトメトリー(IMC)技術は複雑なため、日常の診療で採取されるような腫瘍サンプルなど大規模な一連の腫瘍サンプルに適用が可能かどうか疑問視された。「既存の価値を打ち壊すような技術が、大規模臨床試験で前向きに収集されたサンプルにうまく適用できることが今回の研究で実証され、プレシジョン免疫学を支援するがん研究へ幅広く導入する道が開かれました」とBianchini医師は付け加えた。

本研究で得た知見はすべて独立した検証が必要であり、また正式な多重比較の調整が適用されておらず、結果の解釈には注意が求められると著者らは語る。最後に、研究以外の場でのIMC技術の再現性や適用性については、依然として検討が必要である。

この研究は、Associazione Italiana per la Ricerca sul Cancro(AIRC)、キャンサーリサーチUK(Cancer Research UK)、乳がん研究基金(The Breast Cancer Research Foundation)、Fondazione Michelangelo、Fondazione Gianni Bonadonnaにより資金提供を受けており、Roche社およびCelgene社による無制限の助成金により実施された。

Bianchini医師は、本研究以外でAmgen社、AstraZeneca社、中外製薬、第一三共、エーザイ、Exact Science社、Gilead社、Eli Lilly社、MSD社、Novartis社、Pfizer社、Roche社、Sanofi社、Seagen社より謝礼金を受けている。

翻訳担当者 松長愛美

監修 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立国際医療研究センター 乳腺腫瘍内科)

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