肺がんやメラノーマ死亡数の急速な減少が全がん死亡率の減少傾向を牽引ー『米国がん年次報告』

最新の「がんの現状に関する米国年次報告書(Annual Report to the Nation on the Status of Cancer)」によると、米国内のすべての人種・民族の男女において、全がん死亡率は減少し続けている。2001年から2018年の間に肺がん死亡率の減少は加速し、メラノーマ(悪性黒色腫)の死亡率は、特に近年転移性メラノーマの生存率が大幅に向上したことを反映して、大きく減少した。しかし前立腺がん、大腸がん、女性の乳がんなど、主だったがん数種については、以前は見られた死亡率の減少傾向が鈍化または消失した。

本報告書(JNCI:The Journal of the National Cancer Institute誌に掲載)はまた、女性、小児、思春期および若年成人(AYA)の全がん罹患率が増加し続けていることも明らかにした。本報告書における調査はすべて、COVID-19パンデミックより前の期間を対象としている。

本年次報告書はアメリカがん協会(ACS)、米国疾病対策予防センター(CDC)、米国国立衛生研究所の一部である米国国立がん研究所(NCI)、および北米がん中央登録所協会(NAACCR)が共同で作成した。

本報告書により、ごく最近の期間(2014年~2018年)において、男性に頻発する19のがん種のうちの11種、および女性に頻発する20のがん種のうちの14種で死亡率が減少したことがわかった。この期間に肺がんとメラノーマの死亡率の減少傾向は加速したが、大腸がんと女性の乳がんの死亡率は前期間までの減少傾向が鈍化し、前立腺がんの死亡率は減少傾向から横ばいに転じた。また、男女ともに脳その他の神経系のがんや膵臓がん、男性の口腔がんや咽頭がん、女性の肝臓がんや子宮がんなどで死亡率が増加した。

アメリカがん協会の会長、Karen E. Knudsen経営管理学修士・博士(M.B.A., Ph.D)は、「肺がんとメラノーマの死亡率減少は、がん予防につながる喫煙率の低下、あるいは標的薬物療法や免疫チェックポイント阻害薬の開発など、がんに関連するすべての分野における進歩がもたらした成果です」という。「われわれはこのような進歩をたたえる一方で、引き続き全力で研究や患者支援を行い、さらなる進歩を後押しして、がん患者とその家族の生活を向上させなければなりません」。

また本報告書では、がん死亡率の長期的傾向を分析した結果、2001年~2018年にかけて、男女ともに死亡率の減少が加速したことがわかった。男性では、2001年〜2015年は年1.8%の減少だったが、2015年〜2018年には年2.3%に加速した。女性では、2001年〜2015年の年1.4%が、2015年〜2018年には年2.1%に加速した。2014年~2018年の間に、すべての人種・民族で全がん死亡率が減少していた。

米国疾病対策予防センター(CDC)の国立慢性疾患予防・健康増進センター所長、Karen Hacker医師・公衆衛生学修士(M.D., M.P.H.)は、「頻度の高いがんの多くで死亡率が減少し続けているのは、心強いです」という。「われわれは、健康格差を解消し、すべての人に可能な限り健康でいてもらうために、検診や早期発見、治療、そしてサバイバー支援など、がん医療のあらゆる場面で必要な人々に手が届く革新的な方法を見つけていかなければなりません」。

その一方、大腸がんや女性の乳がんなど他の数種のがんにおいて、がん罹患率および死亡率が増加、または前期間までの減少傾向が減速しているのは、肥満などの危険因子によるものと考えられる。 

米国国立衛生研究所の一部である米国国立がん研究所の所長、Norman E. “Ned” Sharpless医師は、「がん死亡率の持続的減少は、数十年にわたる科学の進歩によって、国全体の治療成績が確実に改善している証拠であり、がん研究界にとって喜ばしいことです。肥満は喫煙を抜いてがんに関連する修正可能な危険因子の第1位になる可能性がありますが、この肥満の問題に取り組めばさらなる改善も可能だと思います」という。

本報告書によると、2001年~2017年にかけて、小児(15歳未満)ならびに思春期および若年成人(AYA、15~39歳)のがん罹患率が増加したにもかかわらず、がん死亡率は減少し続けていた。小児およびAYAの全がん罹患率は、アメリカ先住民およびアラスカ先住民の小児で横ばいであったことを除き、すべての人種・民族で増加した。AYAで最も多いがんは、女性の乳がんであった。

北米がん中央登録所協会(NAACCR)の事務局長であるBetsy A. Kohler公衆衛生学修士(M.P.H.)は、「健康格差を測定するには、地域社会の保健や医療アクセスに影響を与える社会的要因を把握しなければなりません。とりわけ小さな地域単位の評価に基づいた社会・経済指標は、がんの負担を理解する上でますます重要になっています」という。

他の主な知見は以下のとおりである。

全がん罹患率は、、すべての人種・民族において、男性の方が女性よりも高かった(ただし、アジア太平洋諸島系では男女同程度であったことを除く)。

・黒人の全がん罹患率は白人よりもわずかに低かった。

・対照的に、全がん死亡率は、黒人の方が白人よりも高かった。

・肝臓がんの罹患率は以前は増加していたが、データによると男女ともに横ばいになった。

・2001~2009年に診断された進行期メラノーマ症例の2年相対生存率は横ばいだったが、2009~2014年に診断された症例では年3.1%増加した。

・2001~2014年に診断された早期および中間期のメラノーマ症例では、2年相対生存率はわずかに増加した(それぞれ、年0.03%と年0.4%)。

以上の知見はがんの予防、早期発見、治療に対し一層尽力する必要性や、特に医療資源が不足する地域の人々に対して公平に効果的な介入を行う必要性を医療従事者に伝えるものである。

本報告についての詳細は、https://seer.cancer.gov/report_to_nation/を参照のこと(英語)。

翻訳担当者 奥山浩子

監修 東 光久(総合診療、腫瘍内科、緩和ケア/福島県立医科大学白河総合診療アカデミー)

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