分子標的治療薬カボザンチニブは希少腎がんの進行を抑制

乳頭状腎細胞がん(PRCC)という希少なタイプの腎臓がんの患者にとってこれまでで最も有効な治療選択肢が新しい研究により明らかになった。

体の他の部位に転移のある乳頭状腎細胞がん患者を対象として初めて完了することができた臨床試験において、標的治療薬カボザンチニブ(販売名:カボメティクス)を投与した患者の無増悪生存期間は9カ月(中央値)であった。

一方、別の標的治療薬であるスニチニブ(販売名:スーテント)を投与された患者は、無増悪生存期間は約5カ月半であった。臨床試験の初期に試された他の二つの薬(クリゾチニブ[販売名:ザーコリ]と試験段階の薬剤であるサボリチニブ)はいずれも、がんの進行を抑制あるいは阻止する効果においてスニチニブに優ることはなかった。

米国国立がん研究所(NCI)が実施した臨床試験(SWOG S1500)の結果は、2月13日に米国臨床腫瘍学会(ASCO)泌尿生殖器がんシンポジウムで発表され、Lancet誌に掲載された。

転移性乳頭状腎細胞がん患者は、現在の治療法ではいずれはがんが進行するので、複数の分子標的薬で治療することが多い、と、Loyola大学医学センターのStephanie Berg医師(オステオパシー医師)は説明した(Berg医師はこの試験に参加していない)。しかしこの試験の結果から、転移性乳頭状腎細胞がんの初期治療として現時点では「カボザンチニブにより、最大の費用対効果が得られそうであるとBerg医師は述べた。

転移性乳頭状腎細胞がんは希少なだけでなく複雑な疾患であると、米国国立がん研究所がん研究センターのRamaprasad Srinivasan医学博士は述べた(Srinivasan医学博士もこの試験に参加していない)。この疾患は単一の疾患名を与えられてはいるが、実際には異なる遺伝子変化を持つ疾患の集合体であると付け加えた。

これらの病因が多岐にわたることを明らかにする研究が始まっており、より個別化した治療の道が開かれることが期待される、と、Srinivasan医学博士は説明した。一人ひとりのがんの分子的変化に基づいて治療を個別化することで、将来的には「無増悪生存期間を9カ月以上にすることができるはずです」と、Srinivasan医学博士は期待している。

まれな疾患の集合体

ほとんどの腎臓がんは淡明細胞型と呼ばれるタイプである。淡明細胞型腎臓がんを引き起こす多くの遺伝子変化が、1990年代初頭に米国国立がん研究所やほかの施設の研究者らにより明らかにされた。そして、このような遺伝子変化の影響を阻止できる標的薬が次々と開発された。

しかし、腎臓がんと診断された患者のうち約15%は、異なるタイプの腎細胞から生じる転移性乳頭状腎細胞がんである。転移性乳頭状腎細胞がんの分子基盤は最近までわかっていなかった。

しかしながら、乳頭状腎細胞がんの一部の症例はMETと呼ばれる遺伝子の変化により引き起こされることが、最近のがんゲノムアトラスデータやその他の研究努力により明らかになった。いくつかの既存薬剤は、遺伝子変化の結果生じる異常なMETタンパク質に特異的に作用することにより、その活性を弱めたり阻止したりできる可能性がある。

淡明細胞型腎臓がんへの有効性が示された初めての分子標的薬のひとつであるスニチニブは、乳頭状腎細胞がん治療にも用いられてきたが、スニチニブにより腫瘍が縮小したり増殖が阻止されたりする乳頭状腎細胞がん患者は4分の1にも満たない、と、SWOG臨床試験を主導したシティー・オブ・ホープ統合がんセンターのSumanta Pal医師は説明した。

さらに、乳頭状腎細胞がんは希少であるため、複数の薬剤を相互比較するランダム化試験で完了したものはこれまでにない、とPal医師は米国臨床腫瘍学会会議で説明した。

SWOGチームは、転移性乳頭状腎細胞がんを対象に、METを阻害する3つの薬剤とスニチニブを比較するためにS1500臨床試験を企画した。

カボザンチニブはMETを標的とするだけでなく、腫瘍が生体の血液供給を乗っ取るために利用するVEGFという他のタンパク質も阻害することで、二重の役割を果たしている。クリゾチニブとサボリチニブはともにMETを標的とするが、VEGFは標的としていない。スニチニブはVEGFを阻害するが、METは標的としていない。

可能性のある治療法を絞り込む

SWOGがん研究ネットワークが主導したSWOG S1500臨床試験は、米国国立がん研究所がん治療評価プログラム(CTEP)が統括する米国国立がん研究所臨床試験ネットワーク(NCTN)を通じて実施された。

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協力を促進する

今回のランダム化臨床試験の主な成果は、肯定的な結果が得られたことに加えて、3つの製薬企業が各社の薬剤について評価されることを了解したことであると、米国国立がん研究所でがん治療評価プログラムの試験開発を主導したJohn Wright医学博士は説明した。「ランダム化臨床試験においてはこのようなレベルの協力はまれであり、この協力なしにはこの試験は実施できなかったでしょう」と述べた。

「米国国立がん研究所臨床試験ネットワークの貢献も、この臨床試験の成功に不可欠でした」。「臨床試験ネットワークの確立されたインフラのおかげで、この希少で悪性度の高いがんの患者を米国、カナダ全土から速いペースで試験に組み入れることができました」と述べた。

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米国とカナダの65の治療施設の研究者が、約4年間にわたり、転移性乳頭状腎細胞がん患者147人をランダム化第2相試験に登録した。登録患者は研究チームにより試験開始時に、スニチニブあるいは3つのMET阻害薬(カボザンチニブ、クリゾチニブ、サボリチニブ)のいずれかを投与するように無作為に割り付けられた。

予定されていた初期の解析により、無増悪生存期間を延長する効果についてクリゾチニブとサボリチニブはいずれもスニチニブに優らないことが明らかとなり、それ以後これら2剤は使用されなかった。その時点以後、新しく試験に参加した患者はカボザンチニブまたはスニチニブのいずれかを投与された。

治療期間中に腫瘍の縮小が認められた患者の割合は、カボザンチニブ投与群では23%であったのに対して、スニチニブ投与群では4%であった。カボザンチニブ投与を受けた44人のうち2人(5%)は、治療期間中に腫瘍が完全に消失し、完全奏効として知られる状態となった。他のいずれの薬剤で治療された患者でも完全奏効は認められなかった。

最終解析の時点で、カボザンチニブ投与群では無増悪生存期間が9カ月(中央値)であったのに対して、スニチニブ投与群では5.6カ月であった。臨床試験に参加した患者がいずれかの試験薬剤に反応しなくなった場合にはさらなる治療を受けることができたため、カボザンチニブとスニチニブで全生存期間に差があったかどうかは判断できなかった、と、Pal医師は会議で報告した。

いずれかの薬剤を投与された患者のほとんどが少なくとも一つの重篤な副作用を経験し、両剤ともに高血圧が最も多かった。両群とも約4分の1の患者が副作用のため治療を中止した。カボザンチニブ投与群では一人が最後の投薬から30日以内に血栓のため死亡した。

さらなる個別化が必要

これまでのところ、乳頭状腎細胞がんに特化した治療薬として米国食品医薬品局により承認された薬剤はない、と、Srinivasan医師は説明した。有効な選択肢が少ないことから、カボザンチニブはすでにこの希少ながんに対して広く使われているが、「今回のデータは、カボザンチニブの使用を正式なものとする根拠を与えるものです」と、彼は説明した。

標的薬や免疫療法を含むより個別化された併用療法の開発を進めるためには、乳頭状腎細胞がんの原因となるさまざまな遺伝子変化に対する理解がきわめて重要であると付け加えた。

例えば彼の研究チームは最近、すでに知られているあるタイプの遺伝性乳頭状腎細胞がんの患者が、このサブタイプで見られる特有の変化を標的として作用する薬剤であるベバシズマブ(販売名:アバスチン)とエルロチニブ(販売名:タルセバ)に強く反応することを発見した。この小規模の臨床試験では、患者の無増悪生存期間は中央値でほぼ2年であった。

また、S1500臨床試験では3種類のMET阻害薬が試験されたが、すべての試験参加者が実際にMETにより引き起こされる腫瘍を持っているかどうかは検査できなかった。分子検査をおこなって患者を選択すれば、MET阻害薬についてはもっとよい結果が得られたかもしれないと、研究者チームはLancet誌に書いている。

強力なMET阻害薬であるサボリチニブが今回の試験や2019年初頭に中止された別の試験で有効でなかったことに乳頭状腎細胞がんの研究者は驚いているとBerg博士は説明した。研究者らは、腫瘍に他の分子マーカーがある患者がサボリチニブの恩恵を受けられるかどうかを探る予定であると述べた。

「こういった事例は、乳頭状腎細胞がんにおいて、この種の研究を進める時にバイオマーカーテストが大きな役割を果たすと考える理由です」と、Srinivasan医師は述べた。「まだそこに至ってはいませんが、私たちが向かうべき方向はそこだと思います」。

今のところは、疾患の希少性を考慮して、乳頭状腎細胞がんと新たに診断された人は可能な限り腎臓がん専門家を紹介してもらうことを彼は勧めている。

「希少なタイプのがんに対処するには専門家が必要です」と彼は述べた。「患者には現在あるさまざまな治療選択肢が何であり、どれが自分にとって最適であるかを話し合える人が必要です」。

翻訳担当者 伊藤 彰

監修 野長瀬祥兼(腫瘍内科/市立岸和田市民病院)

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