KRAS阻害薬adagrasibが肺がん、大腸がんなどの固形がんで客観的奏効を達成

・adagrasib(アダグラシブ;MRTX1133)により、非小細胞肺がん患者の約半数が客観的奏効を達成
 ・臨床試験において、大腸がん、膵臓がん、子宮内膜がんに対する有望な暫定結果が出る

研究者らは、臨床試験において、KRAS変異を標的とした新薬がほとんどの患者の腫瘍を縮小し、副作用は管理可能であったと、10月24〜25日にオンラインで開催された第32回EORTC-NCI-AACR Symposium on Molecular Targets and Therapeutic(EORTC-NCI-AACR共催、分子標的治療シンポジウム)で報告した。KRAS遺伝子変異はヒトのがんに最も多くみられるが、これを標的とする治療薬の開発は、長い間、困難(undruggable:創薬不能)だとされてきた。

KRYSTAL-1(NCT03785249)第1/2相試験は、非小細胞肺がん(NSCLC)、大腸がん、およびその他の固形がん(膵臓がん、子宮内膜がん、卵巣がんなど)患者に対して、adagrasib(MRTX849)を評価した。本日のシンポジウムで、ダナファーバーがん研究所の胸部腫瘍Loweセンター所長Pasi A. Jänne医学博士は、本試験に参加した非小細胞肺がん患者51人のうち、45%で客観的奏効、すなわち30%以上の腫瘍の縮小を認め、増大や他部位への進展がなかった、と報告した。病勢コントロール率は96%であり、49人の患者において部分奏効、完全奏効、または安定の腫瘍縮小効果が確認された。

第1/1b相試験で、より長期間の(中央値9.6カ月)追跡調査を行った14人の患者のうち、6人(43%)が客観的奏効を達成した。この6人のうち5人が、データカットオフ時点において、治療継続中で、うち4人の治療期間は11カ月以上に及んでいる。

adagrasibは、予後不良および治療抵抗性を伴うKRAS G12C変異を標的としている。この変異は、非小細胞肺がんの中でも最も多い肺腺がん患者の約14%、大腸がん患者の3~4%、膵臓がん患者の2%に発現している。つまり、この変異を有する患者が、全世界で年間10万人以上いるということになる。

adagrasibは、不活性状態にあるKRAS G12Cに、不可逆的かつ選択的に結合して細胞増殖シグナルの伝達を阻害することにより、がん細胞を死滅させる。

近年まで、KRAS阻害薬の開発は前臨床試験にとどまっていた。しかし、2018年に、米国食品医薬品局(FDA)は、2019年1月から始まる臨床試験においていくつかのKRAS阻害薬を評価することを承認した。adagrasibはそのうちの一つである。KRYSTAL-1第1/2相試験に参加したのは、化学療法や免疫療法などの前治療歴がある進行がん患者であった。

試験の一環として、研究者らは、大腸がんや他の固形がん、非小細胞肺がん患者を含む、第1/1b相および第2相試験に参加した患者110人全員の治療に関連する副作用を分析した。副作用として、悪心(54%)、下痢(51%)、嘔吐(35%)、倦怠感(32%)、軽度の肝酵素上昇(20%)などがみられた。複数の患者にみられた重篤な副作用は、低ナトリウム血症のみで、2人の患者にみられた。

「KRAS G12C変異を有する患者には、確立された標的療法がありません。化学療法や免疫療法に抵抗性を示すと、治療の選択肢は限られてしまいます」とJänne医学博士は語る。「adagrasibが45%の患者に対して効果を示したということは、新たな肺がん治療法としての可能性を示唆し、非常に重要な意味を持つのです」。

31人の大腸がんおよびその他の固形がん患者に対する臨床試験の結果は、サラキャノン研究所テネシー・オンコロジーの肺がん研究プログラムおよび創薬アソシエイトディレクターMelissa L. Johnson医師から発表された。

測定可能病変を有する大腸がん患者18人のうち、3人(17%)が客観的奏効を達成し、うち2人は治療を継続している。病勢コントロールは17人(94%)で認められ、うち12人が治療を継続し、これには4カ月以上の治療を継続した18人中10人を含む。

測定可能病変を有する他の固形がん患者6人のうち、子宮内膜がん、膵臓がん、卵巣がん、胆管がん、各1人に部分奏効がみとめられた。治療を受けた2人の虫垂がん患者は安定を達成した。6人全ての患者が治療を継続している。

研究者らは、adagrasibと他の標的治療薬の併用治療を検討している。非小細胞肺がんに対するペムブロリズマブ(販売名:キイトルーダ)、結腸がんに対するセツキシマブ(販売名:アービタックス)、非小細胞肺がんまたは結腸がんに対する開発中のSHP-2阻害剤TNO-155、および非小細胞肺がんに対するアファチニブ(販売名:ジオトリフ)などである。

本試験は、Mirati Therapeutics社から資金提供を受けている。Jänne医学博士はMirati Therapeutics社の科学アドバイザーを務めている。

Abstract no: 3 LBA, “KRYSTAL-1: Activity and Safety of Adagrasib (MRTX849) in Advanced/Metastatic Non–Small-Cell Lung Cancer (NSCLC) Harboring KRAS G12C Mutation”, by Pasi Jänne, presented in the Late Breaking and Best Proffered Papers Plenary session 2, channel 1, 15.45 hrs CET on Sunday 25 October: https://cm.eortc.org/cmPortal/Searchable/ENA2020/config/normal#!abstractdetails/0000902150

Abstract no: 4 LBA, “KRYSTAL-1: Activity and Safety of Adagrasib (MRTX849) in Patients with Colorectal Cancer (CRC) and Other Solid Tumors Harboring a KRAS G12C Mutation”, by Melissa Johnson, presented in the Targeting Oncogenic RAS signalling: New Approaches To An Old Problem scientific session, Channel 2, 19.30 hrs CET on Sunday 25 October: https://cm.eortc.org/cmPortal/Searchable/ENA2020/config/normal#!abstractdetails/0000902140

翻訳担当者 為石万里子

監修 稲尾崇(呼吸器内科/神鋼記念病院 呼吸器内科)

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