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一部の「不活性」医薬品成分が、生物学的に活性である可能性

医薬品成分に対するより厳格な再調査の必要性が、包括的な実験室での研究により指摘される

着色料や防腐剤など、一般的な医薬品に含まれると考えられる不活性成分の一部は、生物学的に活性である可能性があり、予期せぬ副作用を引き起こす可能性があることが、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)薬学部と ノバルティス生物医学研究所(NIBR)による新しい予備研究の結果、明らかになった。

多くの医薬品には、医薬品有効成分は比較的少量しか含まれていない(例えば、タイレノールや他の医薬品に含まれるアセトアミノフェンなど)。処方された錠剤、液剤、または注射剤の有効成分以外の部分は、防腐剤、着色料、抗菌剤や医薬品添加物とされる化合物を含む成分で構成されていることが多い。これらの成分は、医薬品の有効成分が安全かつ効果的に届けられるようにする上で重要な役割を果たすだけでなく、常温保存における安定性や色で錠剤を素早く区別できるようにするなどの重要な付加価値をもたらす。

医薬品添加物は、長期に渡る使用歴や動物実験において明らかな毒性を示さないことから、一般的に生物学的に不活性であると考えられている。しかし、これらの化合物への長期暴露によるよりわずかな影響や、これらの成分を含む複数の異なる医薬品を服用している人々における相互作用を調べた研究はほとんどない。

UCSFのDepartment of Pharmaceutical Chemistryの研究員である Brian Shoichet博士とNIBRの前臨床安全性プロファイリングのグローバルヘッドであるLaszlo Urban博士は、これらの物質のすべてが本当に不活性であるかどうかについて疑問を持ち、共同研究に力を注いだ。2017年、彼らは最もアクセス容易な純粋な医薬品添加物を文書化しているデータベースを用いて研究を開始した。このデータベースはUCSFグループが使いやすい、医薬品添加物インターネット閲覧ソフトにまとめたものである。また、このデータベースはFDAが資金を提供しているUCSF-Stanford Center of Excellence in Regulatory Science and Innovation(CERSI)の支援を受けて、より専門的なFDAの不活性成分データベース(IID)を利用し作成されている。

2020年7月23日に Science誌オンライン版で発表された新しい研究で報告されているように、研究チームは現在、不活性成分データベースに含まれる3,296種類の医薬品添加物を系統的にスクリーニングし、134種類の重要なヒトの酵素や受容体と相互作用する38種類の医薬品添加物の分子を同定した。

今回の研究は、患者への実際の影響を調べておらず、健康に悪影響を及ぼす可能性のある分子の同定を目的としているに過ぎず、今回リストアップされた分子は、それらが含まれる薬剤の副作用にどのように寄与するかを理解するために、さらに研究を進める必要がある、と研究チームは強調している。

「今回のデータは、多くの医薬品添加物の分子は実情では不活性であるが、相当な数の分子が、健康や病気に重要な役割を果たすと知られているヒトタンパク質に、これまでは認識されていなかった影響を及ぼす可能性があることを示している」とShoichet氏は述べている。「われわれは、将来的に製薬会社が製剤に使用する医薬品添加物を評価し、生物学的に活性な化合物を真に不活性な同等の分子に置き換える方法を示している」。

研究チームは、数種の異なるアプローチを用いた。UCSFのShoichet氏のチームは、公開されているChEMBLデータベースに登録されている3,117種類のヒトタンパク質に対する既知の生物学的に結合するパートナー分子と物理的に類似している医薬品添加物の分子をコンピューター計算により同定した。次に、これらの医薬品添加物とヒトの標的タンパク質の、200万の相互作用の可能性から、化学的に最も起こり得る2万の相互作用までコンピューター計算により絞り込んだ。研究者らは、目視で、ヒトの標的タンパク質と相互作用する可能性が最も高い69種の医薬品添加物群を同定し、University of North Carolina, Chapel Hillの薬理学教授であるBryan Roth博士と、UCSFのバイオエンジニアリング教授でUCSF-Stanford CERSIセンターの共同ディレクターでもあるKathy Giacomini博士のグループと共同で、実験室レベルでこれらの相互作用を検討した。

これらの実験により、19の医薬品添加物の分子と12の薬理学的に重要なヒトタンパク質が関与する、25の異なる生物学的相互作用が同定された。

また、NIBRで行われた補足実験では、薬剤性毒性に関与する、または医薬品候補の安全性試験に通常使用されているヒト標的タンパク質のパネルを用いて、一般的に使用されている73種の医薬品添加物のこれらの標的タンパク質に対する相互作用を評価した。その結果、32種の医薬品添加物とこれらのヒト安全性標的との間に更に109の相互作用を見出した。

「われわれの研究は、特定の製剤において認められる予期せぬ生理作用の原因が医薬品添加物である可能性があるという事例証拠を詳しく調べることを目的としている」と、Shoichet研究室の元博士研究員、モントリオールにあるMolecular Forecaster Incの現CEOである、研究筆頭著者のJoshua Pottel博士は述べている。「何十年も前から「不活性」とされてきた、研究が不十分な化合物の新たな特性を発見したことはそれほど驚くべきことではないが、いくつかの分子は作用が強く、特に一般的な医薬品の処方にかなり大量に含まれることがあることを考えると驚きである。」

今回の実験室レベルでの研究で同定された生物学的に活性な医薬品添加物は、実際に患者に望ましくない副作用を引き起こす可能性があるかどうかを確認するために、動物モデルでのさらなる研究の価値があると著者らは述べている。多くは、同様の機能を持つ真の不活性な医薬品添加物に容易に変更できるはずであるが、それ以外の医薬品添加物に関しては、新しい代替化合物を開発する必要があるかもしれない、と著者らは述べている。 「薬剤の製剤方法にほとんど革新が見られなかった数十年の後に、学術・規制・製薬分野の間で官民が連携して、新たなより良い医薬品添加物を模索する機会を得ることができたと考えており、私たちはその方法を示している」とShoichet氏は述べた。「この研究が医薬品の現状に与える課題を考えると、このプロジェクトが主にFDAから、そして国立衛生研究所(NIH)に加えてノバルティスとの共同研究を通じて受けた先見性のある支援に感謝している」。

著者: 筆頭著者:元 UCSF のJoshua Pottel 共責任著者:UCSFのBrian Shoichet、NIBRのLaszlo Urban その他著者: (UCSF)Ling Zou、Hayarpi Torosyan、John J. Irwin、Kathleen M. Giacomini (NIBR)Duncan Armstrong、Alexander Fekete、Dallas Bednarczyk、Steven Whitebread、Barun Bhhatarai、Guiqing Liang、Hong Jin、Nassir Ghaemi (University of North Carolina, Chapel Hill)Xi-Ping Huang、Samuel Slocum、Bryan L. Roth (National Heart and Lung Institute at Imperial College, London)Katalin V. Lukacs (Eurofins DiscoverX in South San Francisco)Ellen L. Berg

資金提供:この研究は、米国国立衛生研究所(NIH)の助成金 GM122481 および GM71896、米国国立精神衛生研究所(NIMH)のPsychoactive Drug Screening Program、UCSF-Stanford Center of Excellence in Regulatory Sciences and Innovationを支援している FDA の助成金 U01FD004979 および U01FD005978 の支援を受けた。研究の内容は、著者に責任があり、必ずしもUS Department of Health and Human ServicesまたはFDAの公式見解を表すものではない。

COI開示:著者らは、開示すべき本研究に関連する利益相反はない。

翻訳後藤 若菜

監修峯野 知子(薬学・分子薬化学/高崎健康福祉大学)

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