大腸がん転移は病気の初期段階で起きている可能性

多くの大腸がんは、原発巣の腫瘍が現行の検査で検出可能になるよりずっと前の段階で、原発巣から他の部位に広がっている可能性があると、新しい研究結果が示唆した。

ほとんどのがん研究者は、腫瘍の広がり(転移)が、典型的には病気の後の段階で起こると想定していた。つまり、腫瘍が大きくなり、がん細胞に遺伝的な変化(遺伝子変異)が蓄積するにつれて、一部の細胞が原発巣から血流またはリンパ系に移動する能力を獲得し、体内の遠い場所に移動し、新しい場所で腫瘍を形成すると考えられてきた。

しかし、スタンフォード大学医学部のChristina Curtis博士のチームが発見したのはそうではなかった。同じ患者の元々の腫瘍、つまり、原発巣にある腫瘍と、転移先にある腫瘍をゲノム解析し、コンピューター・シミュレーションをかけたところ、大腸がんは原発巣ができてから非常にすぐの段階で転移することがあるという結論に達したのだ。しかも、大腸がんと診断される数年前にそれが起きているかもしれない。

Nature Genetics誌を通じて6月17日に発表された彼らの発見は、転移した大腸がんを非常に早期に発見する機会を与えただけでなく、より積極的な全身治療(腫瘍の外科的切除後に術後化学療法を行うなど)が必要な患者の特定に役立てるかもしれないとCurtis博士は述べた。

米国国立がん研究所のがん生物学部腫瘍転移科のチーフであるNancy Boudreau博士によると、転移した腫瘍を特異的に標的とする治療法はまだ存在していない。転移したがんは治療が困難なことが知られており、がん関連死のほとんどは転移が原因である。

米国国立がん研究所の資金提供を受けたこの研究は「腫瘍細胞の一部が当初から転移可能であることを初めて患者において示した」という意味で重要だとBoudreau博士はいう。そしてこの新たな知見は、血中においてそのような細胞を標的にし、排除する方法のヒントをくれるかもしれない、と同博士は話した。

転移した大腸がんの系統図を作成する

「転移がいつ起こるかについては長年議論されてきました」とCurtis博士は話す。人における転移プロセスを研究するのは、研究者がそのプロセスを直接観察できないため、難しいと同博士は述べた。

大腸がんは、ドライバー遺伝子変異として知られる、大腸がんの発症を引き起こす遺伝的変化がよく解明されているため、ヒト腫瘍の遺伝的変化を経時的に研究するための優れたモデルであるとCurtis博士と共著者は書いている。

転移に関与する遺伝的変化についての洞察を得るため、チームはまず、転移のある大腸がん患者21人の原発巣にある腫瘍と転移先である肝臓または脳にある腫瘍を使い、遺伝子変異のパターンを比較した。

Curtis博士の説明によると、研究者らは、その変異のパターンを利用して、各患者の原発巣にある腫瘍と転移先にある腫瘍の遺伝的関連性を示す「系統図」を作成した。 21人中17人の患者(約80%)では、原発巣にある腫瘍が病気のごく初期において転移を生じさせているようだった。

研究チームは、これら17人の患者においては転移先の腫瘍に固有なドライバー遺伝子変異をほとんど発見しなかった。「むしろ、転移先の腫瘍に見られたドライバー遺伝子変異は、原発巣腫瘍にすでに存在していました」とCurtis博士は述べた。 さらに、これら遺伝子変異のほとんどは、原発巣腫瘍の様々な領域と細胞の大部分に存在していた。これは、それら遺伝子変異が腫瘍形成の早い段階で発生したことを示唆している。

これらの発見が示唆するのは、ほとんどの転移大腸がんが1つの細胞、もしくは遺伝子的に近い細胞小集団から始まり、形成の早い段階で原発巣から分離されてできることを示唆すると、著者らは書いている。

原発巣腫瘍と転移先の腫瘍との間に共通するドライバー遺伝子変異が多く存在したという事実は「腫瘍形成に必要なドライバーと転移のドライバーが重複していることを示唆しています」とCurtis博士は述べた。

「これは重要な洞察です。なぜなら、転移ドライバーは捉えどころがなかったからです」。「転移を促進する遺伝子変異を特定することで、転移細胞を標的にして排除する治療法の開発が促進される可能性があります」。

一部の大腸腫瘍は生まれつき悪である

転移のタイミングをよりよく把握するため、研究チームはコンピューターモデルを開発し、数百万のバーチャル腫瘍の進化をさまざまな条件下でシミュレーションした。

「その後、さまざまな統計的手法を駆使し、シミュレーションされたデータと観察された患者データを比較することができました」とCurtis博士は説明した。

モデリングによるデータでは、原発巣腫瘍がまだシャープペンシルの先よりも小さいくらいの腫瘍形成の非常に早い段階で転移が始まることを示した。

言い換えれば、一部の腫瘍は「生まれつき悪」なのかもしれない、と言う。

研究チームは次に、患者から得られた原発巣腫瘍と転移先にある腫瘍をペアに組み合わせた少数サンプルセットの結果がより多くの患者に適用できるかを調査した。

彼らは、転移のある大腸がん患者938人と、病歴が知られていて転移していない初期の大腸がん患者1,813人に関する公開データを分析した。これらの患者の原発巣腫瘍は、すでに知られているがん関連遺伝子の遺伝的変化を特定するためにプロファイリングされた。

この分析によると、特定の遺伝的変化は一緒に起きる傾向があり、3〜5つの遺伝子変異の特定の組み合わせが、転移していない患者と比べて、転移した患者の方に多く認められることがわかった。これは、初期の遺伝的変化の特定の組み合わせが、腫瘍細胞が転移する可能性を与えることを示唆する。

「これら遺伝的変化は腫瘍のすべての細胞に存在し、かつ、非常に早期に起こっています。これは、転移のリスクが高い患者を特定するマーカーとして使用できることを示唆しています」とCurtis博士は述べた。

将来の研究で確認された場合、この情報は治療の決定を導くために使用される可能性がある、と同博士は言った。

早期検出方法の必要性

「私たちの発見により、がん早期発見の必要性が強調されました」とCurtis博士は述べた。

がん研究者はすでに、原発巣から逃げ出して血中に見つかった腫瘍細胞か腫瘍細胞のDNA片を分析することにより、早期にがんを検出できる非侵襲的方法を模索している。

リキッドバイオプシーと呼ばれることが多いこの手法は、転移リスクがある患者を特定し、可能であれば化学療法や標的療法で治療して、体内に拡がった転移細胞を手術前に除去することに役立つかもしれない、とBoudreau博士は述べた。

「これは初期段階の研究ではありますが、転移が非常に早期に発生する可能性があるという最初の定量的証拠を提供するとともに、転移リスクがある個人を特定する方法の手がかりも提供しています」とCurtis博士は述べた。

新たな研究結果が患者ケアを決めるために使用される前に「はるかに多くの患者集団で、今回の発見がどれほど一貫しているかを確認する必要があるでしょう」とBoudreau博士は述べた。

実際、同博士の研究チームは、今回の分析をより多くの患者に拡大する計画を立てているとCurtis博士は言う。最大の課題は、初期の大腸がん患者を追跡し「特定の遺伝子変異組み合わせがあることが、実際に病勢予測になるかを調査することです」と言う。「そして、それが本当なら、臨床研究を進められる根拠となります」。

同チームは、新しい計算モデルを他の腫瘍に適用しているという。たとえば、肺や乳がんなどだという。

最後に、Curtis博士は、さまざまな民族、性別、年齢層の方、また既往症を持っている方や健康状態の人にとって「何が正常なのかを知る」ことも重要であるという。これにより、害のない遺伝子変異と転移に関連した遺伝子変異を区別できるようになるからだ。

翻訳担当者 関口百合

監修 中村能章(消化管悪性腫瘍/国立がん研究センター東病院 消化管内科)

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