AIツールによる画像検査報告により、がんの転帰を判定

ダナファーバーがん研究所の研究者らは、肺がん患者の非構造化型の放射線レポートから腫瘍変化に関する臨床情報を抽出することにおいて、人工知能(AI)ツールが、人間のレビュアーと同等レベルで、なおかつはるかに迅速に実行できることを立証した。

AIツールは、がんの存在、治療介入への反応、変動がないあるいは悪化しているがんの検出で、訓練を受けた人間の「キュレーター」と同等に機能した。

この研究の目的について、責任著者であるダナファーバーの人口統計学部門の教員で腫瘍内科医のKenneth Kehl医師・公衆衛生学修士は、どこにでもあるが非構造化型のデータソースである放射線レポートから、AIツールが最も重要ながんの転帰を抽出することができるかどうかを判断することだったと述べた。

Kehl氏によると、電子医療記録は現在、ダナファーバーのようなセンターでは、何千人もの患者の膨大な情報を収集している。しかし、患者が臨床試験に登録されない限り、治療に対してがんが拡大しているのか縮小しているのかなどの転帰情報は、医療記録の文字列内でしか記録されない。これまで、このような非構造化型情報はコンピューター分析の対象ではなく、治療の有効性の研究に使用することができなかった。

ダナファーバー/ブリガム&ウィメンズ病院がんセンターのプロフィール研究では、患者の腫瘍サンプルを分析してプロフィールを作成し、治療に対する反応性を予測する可能性のあるゲノム多型を明らかにしている。ダナファーバーの研究者らは、このような研究で、患者のがんに関する分子情報を豊富に蓄積している。「しかし、この情報を適用してどの分子パターンが治療の有益性を予測できるかを理解するのは、患者の医療記録を徹底的にレビューして転帰を評価しない限り困難です。これは、高精度医療(Precision Medicine)の可能性を最大限に活用するにあたり、大きな障壁になっています」とKehl氏は述べる。

この研究のために、Kehl氏らは、1,112人の患者の14,000件以上の画像レポートを入手し、「PRISSMM」フレームワークを使用して目視で医療記録をレビューした。 PRISSMMはダナファーバーで開発されたフェノミクス解析に用いる基準で、電子医療記録の文字列レポートから非構造化型データを取り出し、それらを容易に分析できるよう構造化するものだ。PRISSMMは、がん患者の履歴の全体像を作成するため、患者の病理、放射線/画像、徴候/症状、分子マーカー、腫瘍内科医の評価に関するデータを構造化する。

まず、人間のレビュアーが、画像の文字列レポートを分析し、がんの有無、ある場合は悪化しているのか軽快しているのか、がんが特定の部位に広がっているのかについて記録した。次に、これらのレポートを使用して、コンピューターの「ディープラーニング」モデルを訓練し、文字列レポートからこれらの転帰を認識させるようにした。「私たちは、ディープラーニングアルゴリズムが、日々作成される放射線レポートの文字列部分を使用して、がんの存在とその範囲の経時的変化を識別できるという仮説を立てました」と著者は述べた。

研究者らは、無病生存期間、無増悪生存期間、軽快あるいは反応までの時間といった転帰について、人間とコンピューターの評価を比較した。その結果、AIアルゴリズムが人間による転帰の評価を再現できることが判明した。その後、ディープラーニングアルゴリズムを適用して、目視によるレビューが行われていない1,294人の患者記録の15,000件のレポートに注釈が付けられた。著者は、これらの患者のコンピューターによる転帰の評価が、目視でレビューした患者の人間による転帰の評価と同等の精度で生存期間を予測したことを明らかにした。

人間のキュレーターは、1時間に約3人の患者の画像レポートに注釈を付けることができた。これは、1人のキュレーターがコホートの患者の30,000件近い画像レポートのすべてに注釈を付けるには、約6カ月かかる計算となる。これに対し、研究者らが開発したAIモデルは、そのコホートの画像レポートに約10分で注釈を付けることができると、研究者らはJAMA Oncology誌の報告で述べた。

「真の自己学習能力を持つ腫瘍学の医療情報システムを構築し、大規模な高精度医療の提供を促進するには、電子医療記録からのがんに関する転帰の収集・整理を加速させる方法が必要です。この技術が広く適用されれば、がん患者のすべてのリアルワールドデータを使用して、治療アプローチの有効性に関するエビデンスの作成を大幅に加速させることができます」と著者は述べた。次の段階では、他のがんセンターの電子医療記録データで今回の手法をテストし、そのデータを使用して、どの治療がどの患者に最適であるかを見つけ出すことになるだろう。

研究の統括著者は、ダナファーバーの人口統計学部門長で腫瘍内科医のDeborah Schrag医師・公衆衛生学修士。

この研究は、米国国立がん研究所(K05CA169384、RO1CA203636、U01CA20)、the Claude Dauphin Philanthropic Research Fund、the Simeon J. Fortin Foundationから助成金の支援を受けた。

Kenneth Kehl氏は、Aetion Inc社のコンサルタントを務めていると報告している。Deborah Schrag氏は、利益相反として、Cureus社とPfizer社のコンサルタント/アドバイザーを務めていること、米国がん学会より研究資金を受けていること、JAMA誌で編集者として務めており、関連業務以外に個人報酬を受けていること、QQQなどの複合型のバイオテクノロジーファンドの株式を保有していることを報告している。また、商標を保有しており、PRISSMMフェノミクス解析に用いる基準に金銭的利害関係があると報告している。

翻訳担当者 白石里香

監修 石井一夫(計算機統計学/久留米大学バイオ統計センター)

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