臨床的リスクと再発スコアによる乳がん術後化学療法の検討ーTAILORx最新データ

事前に定めていたTAILORx副次的解析の結果が、最新情報として追加される。本日、New England Journal of Medicine誌に掲載。

50歳以下または閉経前の女性における乳がん再発予防のための術後化学療法に関する最新情報が、画期的試験であるTAILORx(Trial Assigning Individualized Options for Treatment (Rx):個別化した治療選択肢を割り当てる試験の意)試験から本日発表された。この史上最大規模の乳がん治療試験の中で事前に定められていた副次的評価項目の解析の結果、腫瘍サイズと組織学的グレードという従来の臨床的特徴に基づく女性の再発リスクの評価は、追加の予後予測情報として21遺伝子再発スコア検査を補完することがわかった。再発スコアと臨床的リスクの統合により、化学療法なしで済むと思われる若年女性を当初報告よりも多く特定できるようになる可能性がある。また、より効果的な抗エストロゲン療法が有益と思われる若年女性の特定にも役立つ可能性がある。この解析結果は本日、NEJM誌に掲載され、シカゴで開催された2019年米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表された。

今回の知見は、昨年報告されたTAILORxの当初確定的結論を補完するもので、最も一般的なタイプの乳がん、すなわち、ホルモン受容体(HR)陽性、HER2陰性、腋窩リンパ節転移陰性の乳がん女性の70%は、再発スコアによる判断で化学療法を受けずに済む可能性があるということである。TAILORx試験は、国立衛生研究所(NIH)の一部である国立がん研究所(NCI)の支援を受け、ECOG-ACRIN がん研究グループが企画、主導した。

NCI指定のアルベルト・アインシュタインがんセンターおよびモンテフィオーリ・ヘルス・システム(ニューヨーク市)の臨床研究担当副所長、ECOG-ACRINがん研究グループ副委員長を務める研究筆頭著者のJoseph A. Sparano医師は、「昨年のTAILORxの結果では、臨床医が女性患者に各患者に応じた推奨治療法を提示できる質の高いデータが得られた」と言う。「今回の最新解析からは、再発スコアが16〜20で臨床的リスクが低い50歳以下の女性は化学療法を必要としないことが明白です。さらに、再発スコアと臨床的リスク情報を統合すれば、卵巣機能抑制療法や、より積極的な抗エストロゲン療法が有益と思われる臨床的高リスクの閉経前女性の特定が可能になると思われます」。

事前に定められていた副次的解析の目的は、臨床的リスクが再発スコアに対して追加の予後予測情報となるかどうかを評価することであった。TAILORx試験に登録され、再発スコアと臨床的リスクの情報がそろっている女性9,427人において、70%が臨床的低リスク(腫瘍3cm以下かつ低グレード、2cm以下かつ中グレード、または1cm以下かつ高グレード)、30%が臨床的高リスク(臨床的低リスク基準未満)と判定された。臨床的リスクはすべての再発スコア群で追加の予後情報となったが、無病生存期間および遠隔無再発期間は、再発スコア11~25群全体で臨床的リスクに関わりなく化学療法を受けても受けなくても同様であった。

対象患者全体に関しては、臨床的リスクのみでは化学療法の有益性を予測することはできなかった。これは、50歳を超えた女性の3分の2についても言えることであった。一方、50歳以下の女性については、臨床的リスクに関わりなく、有意と言えるほどではないが化学療法を支持する傾向がみられた。この結果は、年齢/閉経状態、再発スコア、および化学療法有益性の相関性について最初に報告された治療相互作用と一致する。

研究者らは、TAILORxに登録された若年女性(50歳以下)のうち再発スコア16〜25であった患者群で診断時年齢と化学療法有益性の相関性を調べた。この患者群を研究対象としたのは、TAILORxの当初知見で化学療法を選択肢として提案された30%の中に彼女ら(14%)が含まれていたからである。研究者らは、再発スコアと臨床情報の統合がこの患者群の定義付けに役立つかどうかを調べた。その結果、再発スコア16〜20で臨床的に低リスクの若年女性(50歳以下)には化学療法の有益性がないことが判明した。

次に、より効果的な抗エストロゲン療法が有益と思われる閉経前女性の特定において、再発スコアと臨床的リスクの統合が役立つかどうかを判断するために、上述の患者群における診断時年齢と化学療法有益性の相関性を調べた。TAILORxの当初報告では、この患者群でみられた化学療法の若干の有益性が微小転移根絶での細胞障害効果によるものか、早期閉経誘導での閉経効果によるものか、またはその両方によるものかは不明であったと研究者らは述べる。再発スコアと臨床的リスクの統合により、閉経後ではなく閉経前の46〜50歳の女性で化学療法の有益性が確認され、41〜45歳の女性では化学療法を支持する傾向が認められたが、化学療法で閉経が早まる可能性が低い40歳以下の女性では化学療法の有益性は認められなかった。さらに、高齢女性では化学療法を支持する一貫した効果は認められなかった。以上のことから、今回の知見は、再発スコア16〜25群で認められた化学療法の有益性が細胞傷害性療法に伴う閉経効果によるものである可能性を示唆する。

21遺伝子発現を調べる「オンコタイプ DX 乳がん再発スコア」 (Oncotype DX Breast Recurrence Score) 検査は、複数の先行研究から得たエビデンスに基づいて、10年以内の乳がん再発リスクに関する予後情報の提供と、化学療法で大きな利益を得る可能性が最も高い患者の予測のために広く利用されている。この検査は腫瘍生検標本で行う。低スコア(0~10)の女性はホルモン療法のみを受けるのが一般的で、高スコア(26~100)の女性はホルモン療法と化学療法を受ける。

翻訳担当者 山田登志子

監修 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立がん研究センター 中央病院)

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