頭皮冷却は化学療法による脱毛を防げるか

Prema P. Peethambaram医師は、ミネソタ州ロチェスターにあるメイヨークリニックの腫瘍内科医であり腫瘍学准教授です。女性のがん治療と心のこもったがん治療の提供に熱心に取り組んでいます。

Charles L. Loprinzi医師(FASCO)はメイヨークリニックで腫瘍内科学科の名誉学科長および腫瘍学部の名誉副学部長を務め、欽定教授として乳がん研究を行っています。Cancer.Net精神腫瘍学共同編集者でもあります。

Ashley*は乳がんに罹患し、治癒の可能性を高めるための化学療法を数回受けることになりました。担当のがん専門医は、彼女に脱毛など想定される副作用について説明しました。彼女はがんになったことを同僚たちに隠していたため、毛が抜けたらわかってしまうのではないかと心配しました。この不安を聞いた担当医は、頭皮冷却法を用いた脱毛防止の試みについて彼女と話し合いました。幸い、頭皮冷却法は彼女によく効きました。彼女は化学療法を受けている間、多量の毛髪もプライバシーも失わずにすみました。

これはあり得る話でしょうか?あり得ます。頭皮を冷却することで、頭皮の血管が収縮し、化学療法が毛包まで到達しにくくなります。さらに、冷却することにより毛包が不活性状態となり、治療の影響を受けにくくなります。その結果、脱毛の抑制につながると考えられています。

これまで、頭皮冷却法の有効性および安全性に関して、1970年代以降30以上の臨床試験が実施されています。2015年以降、米国食品医薬品局(FDA)は、化学療法による脱毛に対する2種類の頭皮冷却装置システム、DigniCapおよびPaxmanを承認しています。

頭皮冷却システムはどのように作用するのでしょうか?

数十年にわたり、頭皮を冷却するさまざまな方法が試みられています。最近まで最も多くみられたのが、ドライアイスで冷却しておいた冷凍キャップをかぶる方法です。この方法では、化学療法を受けている間20~30分ごとにキャップを交換しなければなりません。氷のように冷たいキャップを頭皮に載せるたびに感じる衝撃は、一部の人には不快なものです。さらに、キャップ交換を手伝う人が必要であり、さらに患者は化学療法を受ける際に、キャップ冷却保管用のドライアイスを入れた大きな容器を持って行かなければならない場合もあります。

現在、最も多くみられる頭皮冷却システムは、冷凍キャップ方式よりも扱いやすく有効性が高いです。臨床試験では、FDAが承認した頭皮冷却システムが、ほとんどの人において忍容性が高く、化学療法による脱毛を低減させることが示されました。これらの頭皮冷却システムは、患者に合わせたキャップの管に冷却液を循環させ、より時間をかけて頭皮を冷却することが可能です。冷却液の温度は管理され、必要な温度範囲内に保たれます。頭皮冷却システムを使用する場合、患者が医療センターやクリニックにいる時間は長くなります。というのも、頭皮冷却システムは、注入化学療法を開始する30分以上前から始める必要があるからです。冷却は、化学療法の間および注入完了後最長90分間続けます。

頭皮冷却について、これまでの研究でわかっていることは?

頭皮冷却療法で報告された全体的な成功率は50~80%です。この成功率は、頭皮冷却で脱毛が完全に阻止されたことを意味するわけではありません。ある患者の脱毛が50%未満であり、通常その患者がウイッグまたは頭部を覆う帽子類を必要と感じないほど頭髪が十分残っていることを意味します。化学療法の種類と用量によっても結果は異なるため、期待できる効果については担当医やケアチームに質問してください。患者としては、自分の頭にぴったり合うサイズのキャップを作ってもらい、化学療法中、指導された毛髪手入れ方法をきちんと実行することが重要です。

どんな人が頭皮冷却を用いることができるのでしょうか?

頭皮冷却は現在、ほとんどのがんに対する化学療法を受けている、あらゆる年齢の男女に承認されています。しかし、白血病など一部の血液関連腫瘍の患者には頭皮冷却は推奨されません。

大部分の患者には副作用もほとんどなく使用可能です。よくみられる副作用は頭痛と冷感です。低温が本当に辛いようであれば、頭皮冷却療法はあなたには合っていないかもしれません。治療前や治療中に脱毛および頭皮冷却について質問があれば、主治医に相談してください。

頭皮冷却はどこで受けられますか?

ここ数年で、頭皮冷却療法はがんセンターでさらに利用しやすくなりました。現在、脱毛を防ぐための頭皮冷却療法は一般的に保険が適用されませんが、保険会社に確認してみてください。HairToStayやRapunzel Projectなど、患者が頭皮冷却療法をさらに利用しやすくなるように取り組んでいる患者支援団体もあります。

*この話は、複数のがん患者から聞いた多くの話に基づいて創作したものです。

翻訳担当者 太田奈津美

監修 前田 梓(医学生物物理学/トロント大学)

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