クラウドファンディングサイトがインチキ療法を推進?

「インターネットの資金調達サイトはがんのインチキ代替療法の使用をあおっていると専門家たちが警告している」とMail Online紙が報じている。The Independent紙でも次のように警告している。「クラウドファンディングのサイトは、にせ医療への出資を助長したり、エビデンスによる裏付けのないがん治療法を広めようとするインチキ代替療法師のもとへ患者を駆り立てている可能性がある」。

「インチキ医療」とは、証明されていない治療法を表す言葉であるが、そういう治療法は高額であることが多く、場合によっては有害なこともある。

複数の記事によると、英国では2009年以降、クラウドファンディングサイトでの呼びかけにより、代替療法を用いたがん治療に対して少なくとも8百万ポンド(約11億3800万円)の資金が集まっている。英国の『JustGiving』というサイトでは、がん関連の資金募集企画が2016年だけで2,300件以上も立ち上げられた。

調達された資金の中には実験的だが信頼できる治療法のために使われるものもあるが、信ぴょう性がない、あるいは証明されていないがん代替療法のクラウドファンディングは、弱者の搾取につながる可能性があると記事は警告している。

今日これを取り上げた理由

British Medical Journal(BMJ)誌は、がん関連クラウドファンディング現象を検証した特集記事を掲載したが、その記事に使用されたデータを提供したGood Thinking Society(グッドシンキング協会)は科学的思考の促進を目的として設立された慈善団体である。この慈善団体は、NHS(英国医療サービス)が関与していないがん治療法に対して、どれほどの資金がクラウドファンディングサイトの『Go Fund Me』と『JustGiving』を通じて英国で調達されているかを調査した。

BMJ誌の記事では、調達された資金の行き先も数字で示している。ドイツ、メキシコ、米国にあるクリニック(診療所)が主な受益者であった。英国の法律では、がん治療法または「治癒」を謳うものを一般市民に直接宣伝することは違法である。

確認された800万ポンドの半分以上は、ドイツにあるクリニックHallwang Private Oncology Clinicへの旅費として集められたが、同クリニックは調達資金の全額を受領したかどうかについては異議を唱えている。

クラウドファンディングはがん治療に役立つか

BMJ誌が紹介した家族の中には、治療法をリサーチして試すことはたとえ失敗に終わるとしても利益をもたらす可能性があると考える人たちがいる。代替療法の1年後にがんで死亡した女性の姉妹は、メキシコにあるがん治療センターまで行ったおかげで延命できたと思うと話した。「私たちが希望を失ったときに治療が彼女に希望を与えてくれました」とその姉妹は言う。

Hallwangクリニックでの治療中に死亡した女性の夫も、その治療のおかげで彼女の寿命が延びたと思うと話す。ただし、治療は「異常に高額で」35万ポンド(約5000万円)もかかり、資金を集めたにもかかわらず彼には借金が残った。今となっては費用についてクリニックにもっと聞けばよかったと思うと言う。また、BMJ誌の特集記事によると、Hallwangクリニックは現在、患者の転帰や生存率に関するデータを公開していない。

Good Thinking Societyはクラウドファンディングサイトに対して、がんの代替療法に関わる資金募集企画を入念に調査するように呼び掛けた。『Go Fund Me』が「この種のコンテンツをより厳重に監視して、状況に応じた助言をする予定である」と述べているのに対して、『JustGiving』は「私たちはこれについて判断する専門知識を持ち合わせているとは思わない」と言う。

懸念すべき理由

クラウドファンディングサイトの拡大は、保険適用外治療あるいは代替治療を受けたくてもその資金がない人々にそうした治療を受ける道を開いた。友人、家族、知らない人を含む多くの人々が、末期がん治療の「もう一つのチャンス」への訴えに心を動かされて寄付をする。

英国国民健康保険(NHS)でできることはこれ以上なく、証明された治療法はすべて使い果たしたと言われたら、人は代替となる療法を探すかもしれない。たとえそうした治療法の効果を示すエビデンスがほとんどないか、まったくなくても、延命を期待してどんな治療法でも進んで試そうとするのも驚くことではない。

BMJ誌の記事によると、調達された資金の一部は、生物学的免疫療法など実験的だが科学的根拠に基づく治療法のために使われている。これには、確立された治療法であるが、現時点では推奨されていない用量または薬剤組み合わせでの治療法なども含まれるだろう。しかし、それ以外の資金募集企画では、コーヒー浣腸やビタミン注射など、ほとんど科学的根拠のない治療のために資金が調達された。

Good Thinking Societyのディレクター、Michael Marshall氏は言う。「あまりに多くの英国人患者が、エビデンスに基づかず、場合によっては有害でさえある治療を受けるために莫大な金額を調達していることが懸念されます」。

恐ろしいのは、がん代替療法の提供者の中には末期がん患者の必死な想いを食い物にしようとするものがあること、そして、クラウドファンディングがあるために患者の友人、家族、他人の幸福を祈る人たちの優しさと寛大さに彼らが付け込むことができることである。

BMJ誌は、クラウドファンディングが「弱者を食い物にする変人、ニセ医者、詐欺師たちに新たな金儲けの道を開いた」と懸念する人が多いと書いている。

メディアも一翼を担っているか

BMJ誌の記事は、限られたエビデンスしかない高額治療法のプロモーションに英国のメディア報道も加担している可能性があると強調する。

記事著者は、メディアがしばしば「がんの代替療法」のために資金調達をする人の奮闘にスポットを当てて紹介する際、NHSが無情にもそうした治療に資金を提供していないことをほのめかすと説明する。

メディアが、代替療法を求めた人がその後どうなったのかを伝える追跡記事を載せることはまずない。患者が死亡した場合、報道されないままになることが一般的である。

キャンサーリサーチUKは、がんの代替療法を裏付けるエビデンス(またはエビデンスの欠如)と、その費用や潜在的リスクを概説する有用なリソースを提供している。

翻訳担当者 山田登志子

監修 勝俣範之(腫瘍内科/日本医科大学武蔵小杉病院)

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原文掲載日 

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