便移植が免疫チェックポイント阻害薬による大腸炎に効果的

多くみられる大腸炎の副作用はマイクロバイオーム操作により治療効果が得られる

免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を用いた治療に起因する重症大腸炎に苦しむ患者を治療するために、初めて健常ドナーからの腸内細菌を移植した。2人の患者が在籍するテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究は、便微生物移植(FMT)が、免疫療法でよくみられるこの副作用の治療法として、臨床試験で調査する価値があることを示唆している。 

研究は、胃腸病学・肝臓病学および栄養学助教であり、薬剤誘発性大腸炎小腸炎研究機関長のYinghong Wang医学博士により主導され、本日Nature Medicine誌に掲載された。

「これらの患者の腸炎は、便移植治療後に、臨床的および内視鏡的に回復したことが確認されています」Wang博士は述べた。「これらの結果にもとづき、安全かつ発現が速く、1回の治療の効果が持続することから、この方法は免疫チェックポイント阻害薬関連の大腸炎に対する第一選択治療であると評価すべきでしょう」。 

免疫チェックポイント阻害剤は、免疫システムのブレーキを解除してがんを攻撃し、数種のタイプのがん患者に対し効果が持続することを示してきた。しかしこれらの治療法は、重大な免疫関連の毒性に関与することが多い。

大腸の炎症である大腸炎は、免疫チェックポイント阻害薬の副作用のうち2番目に多いもので、患者の40%に発生するとWang博士は説明した。免疫チェックポイント阻害薬関連の大腸炎が重症である場合、ガイドラインでは大腸炎が寛解に至るまで免疫チェックポイント阻害薬治療を停止するよう求めている。

「患者が免疫療法に良好な反応を示している場合は、効果的な治療を奪ってしまうことを意味します」「問題を解決して免疫チェックポイント阻害薬治療を再開するまでに長い時間はかけられませんが、私たちはこの分野で大きな進歩を遂げていると感じています」同博士は述べた。

研究者らは、難治性、つまり治療に反応しない免疫チェックポイント阻害薬関連の大腸炎に苦しむ患者に対し、便移植による代替のコンパッショネートユース(未承認薬の人道的使用)治療の可能性を調査することを決めた。試験に参加した2人の患者は、2017年6月から2018年1月の間にMDアンダーソンで治療した。

便移植は、免疫チェックポイント阻害薬関連の大腸炎と多くの臨床的、分子的特性が共通している再発性クロストリジウム・ディフィシル感染症や感染性腸疾患(IBD)などの、異なるタイプの消化器疾患治療に有望な結果を示した。このような病態は一般にステロイド剤と標的免疫抑制剤で治療するが、結果として重篤な副作用を招き、免疫療法の効果を阻害してしまう可能性がある。

研究に参加した両患者は、便移植後に大腸炎が完全に回復した。最初の患者の大腸炎は、1回の便移植治療後2週間以内に回復した。2番目の患者は最初の治療後に部分的な回復がみられ、2回目の便移植治療後に完全回復が認められた。治療前後の内視鏡による評価では、両患者とも炎症性免疫細胞が減少するなど、炎症や潰瘍の著しい改善が認められた。

治療前後の便の分析では、患者の腸内細菌叢は治療直後にドナーと最も似ており、時間の経過とともに変化した。さらに、治療後の腸内細菌叢は治療前のものとは異なったまま経過した。さらに、治療前の検体に比べて,便移植後の患者では腸を保護したり炎症を軽減させたりすることがわかっているいくつかの菌種を含む,まったく新しい細菌種の存在が明らかになった。  

著者らは、本試験が非常に小規模なコホートに基づいたものであり、著しい限界があることを認めている。彼らは臨床試験を続け、標準的な免疫抑制療法と比べて免疫チェックポイント阻害薬関連の大腸炎の治療に対する便移植の有効性を調査する計画をたてている。便移植はMDアンダーソンの患者のコンパッショネートユース(未承認薬の人道的使用)治療に継続して使用されている。

MDアンダーソンによるこれまでの研究では、腸内細菌は患者の免疫チェックポイント阻害薬治療に対する反応に影響を及ぼこと、また他のエビデンスでは、マウスのマイクロバイオームを変更すると免疫療法に対する反応を変えることができることが示されている。さらに最近のデータは、多くの分子的研究により、マイクロバイオームが免疫チェックポイント阻害薬による大腸炎や免疫療法の広範囲な反応を引き起こす役割について、さらに深く解明できる可能性があることを示唆している。

本研究は、Andrew Sabin Family Fellowship Program; the American Association for Cancer Research – Stand Up to Cancer; the National Institutes of Health (CA219896-01A1, HL124112); the Cancer Prevention & Research Institute of Texas; and the Melanoma Moon Shot™, part of MD Anderson’s Moon Shots Program™の支援を受けた。科学的発見を臨床的進歩へと加速させ、患者の生命を救うために共同で行われている取り組みである

Wang博士のほか、他のMDアンダーソンの著者は原文を参照のこと。

翻訳担当者 白鳥 理枝

監修 畑 啓昭(消化器外科/京都医療センター)

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