子宮頸がんの低侵襲手術は開腹子宮摘出術より治癒率が劣る

MDアンダーソンによる2つの研究が早期がんの手術ガイドラインに影響する可能性

MDアンダーソンニュースリリース 2018年10月31日

テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らが主導した2つの研究で、早期子宮頸がん女性に対する標準外科治療選択肢を比較した結果、低侵襲広汎子宮全摘術は開腹での広汎子宮全摘術より再発率が高く、全生存率が不良であることが判明した。

両研究の結果は10月31日、New England Journal of Medicine誌に掲載される。1つ目の研究は第3相ランダム化比較試験で、Pedro Ramirez医師(婦人科腫瘍学・生殖医療教授)が主導した。2つ目の疫学的研究は、J.Alejandro Rauh-Hain医師(婦人科腫瘍学・生殖医療学・保健医療研究准教授 )が主導した。

著者らによると、今回の知見をきっかけにMDアンダーソンでの治療はすでに変更済みで、すべての早期子宮頸がん女性の外科治療に影響を及ぼす可能性がある。早期子宮頸がん患者数は、今年、子宮頸がんと診断された推定13,240人のほぼ半数を占める。

「低侵襲手術が開腹での広汎子宮全摘術に代わる方法として採用されたのは、生存への影響に関する質の高いエビデンスが得られる前のことでした」とRauh-Hain医師は言う。 「Ramirez医師も私もともに、外科的アプローチが早期子宮頸がん女性の悪性腫瘍への治療結果に悪影響を及ぼしていたことが、私たちそれぞれの研究で分かり、驚きました」。

婦人科腫瘍学の分野において、子宮頸がんの低侵襲手術は、10年以上前に腹腔鏡およびロボット支援技術が導入された頃、開腹での広汎子宮全摘術の代替法として受け入れられた。しかし、生存やがんに関するその他の治療転帰に及ぼす影響について、ランダム化試験や十分に計画された大規模な観察研究で検証されたことはなかった。

「これまでのデータは主に、手術結果と手術直後の状態、たとえば患者の回復具合、入院期間、輸血の必要性、日常的身体活動への総合的復帰などに重点を置いていました」とRamirez医師は述べる。「今回の研究は、2つの外科的アプローチを前向きに比較し、無病生存率、全生存率、再発率を含む腫瘍の治療転帰を評価した最初の研究です」。

今回の知見は非常に重要であると研究者らは言う。なぜなら、子宮頸がんは早期であれば手術により治癒可能だが、再発後は治療の効果がかなり低くなるためである。

第3相臨床試験の結果、低侵襲子宮摘出術の治癒率は劣る

Ramirez医師らは研究にあたり、低侵襲広汎子宮全摘術は無病生存率(DFS)に関して開腹手術と同等であるとの仮説を立てた。この国際共同研究は、世界各地33カ所の医療機関との多施設共同研究である。2008年に開始され、早期(1Aまたは1B)子宮頸がん患者740人を低侵襲広汎子宮全摘術または開腹での広汎子宮全摘術のいずれかを受ける2群に1:1の割合で無作為に割り付けるよう計画された。組織学的サブタイプ、腫瘍径、病期、リンパ節転移、術後補助療法などの危険因子によって患者を等しく層別化した。

2017年、631人の患者が登録されていたが、安全性について注意喚起がなされたために研究は中止された。低侵襲広汎子宮全摘術を受けた女性は、再発率が高く、無病生存率 および全生存率が劣ることが判明した。

研究の結果、下記のことが判明した。

・低侵襲広汎子宮全摘術では、開腹での広汎子宮全摘術と比較して、疾患進行が3倍となった。
 ・4.5年時点の無病生存率は、低侵襲手術群では86%、開腹手術群では96.5%であった。
 ・3年全生存率は、低侵襲手術群で91.2%であったのに対し、開腹手術群では97.1%であった。

「私たちの研究は、外科分野でランダム化臨床試験をさらに実施する必要があることを示しています」とRamirez医師は言う。「手術における新規介入治療の成否は、後ろ向きデータによって評価されることが多いのですが、私たちは、患者のために何が最善であるかを判断するために常に方法を検証し、評価する必要があります」。

この研究は、さらに調査を進める必要があることも強調しているとRamirez医師は話す。低侵襲手術が依然として一般的に行われている早期子宮頸がんの妊孕性温存手術など、他の状況で低侵襲手術が及ぼす影響を評価するよう検討するべきである。

後ろ向き研究が臨床試験結果を裏付ける

Rauh-Hain医師の後ろ向き疫学研究でも、早期子宮頸がん患者において低侵襲広汎子宮全摘術は開腹での広汎子宮全摘術と比べて全生存率が不良であることが確認された。この研究は、ハーバード大学、コロンビア大学、ノースウェスタン大学と共同で実施され、2つの大規模ながんデータベースのデータ解析などから、上記2種類の手術のいずれかを受けた患者の生存率を比較した。

研究チームは最初に、国立がんデータベース(National Cancer Database:NCDB)を解析した。この全米規模の転帰登録データベースは、米国内1,500以上の病院において新たに診断されたがん症例の約70%を網羅している。二次解析として、米国国立がん研究所(NCI)Surveillance, Epidemiology and End Results(SEER)データベースからのデータを検証した。

データ解析の結果、下記のことが明らかとなった。

・追跡期間中央値45カ月にわたり、低侵襲広汎子宮全摘術を受けた女性で4年死亡リスクが9.1%であったのに対し、開腹での広汎子宮全摘術では5.3%であった。
 ・低侵襲広汎子宮全摘術の適用時期は、この患者集団において2006年から2010年まで4年相対生存率が年間0.8%低下し始めた時期と一致する。

「早期子宮頸がんで広汎子宮全摘術を受けた女性において、低侵襲手術は開腹手術より死亡リスクが高いこともわれわれの研究でわかりました」とRauh-Hain医師は語った。「これらの2つの研究結果をみれば、早期子宮頸がん患者に対して低侵襲広汎子宮全摘術はもはや推奨できないと思います」。

後ろ向き研究の重大な制限は、低侵襲広汎子宮全摘術が生存転帰不良につながる理由を説明できないことである。生存転帰に差が出た原因を究明するために研究がさらに必要であるとRauh-Hain医師は説明する。

当分野への全体的な影響

この知見は、MDアンダーソンにおける早期子宮頸がん女性のケアと治療方針に影響を及ぼした。これらの患者に低侵襲広汎子宮全摘術を勧めることはもはやなくなり、開腹での広汎子宮全摘術しか実施していない。MDアンダーソンで臨床試験に登録され、低侵襲広汎子宮全摘術に無作為に割り付けられた試験参加者については、追跡調査時に、より密に検査するように配慮していく予定である。

本研究は、この疾患の管理に関する米国の治療ガイドラインに影響を及ぼす可能性があると、Ramirez医師とRauh-Hain医師は言う。

両医師は、臨床試験または標準治療の1つとして腹腔鏡下またはロボット支援による広汎子宮全摘術を受けた女性には、個別の経過観察の必要性を含め、本研究の知見について確かな情報に基づいて主治医と話し合うよう強く勧めている。

Ramirez医師とRauh-Hain医師がともに強調していることは、両医師それぞれの研究知見は早期子宮頸がん患者のケアと治療方針に限り影響を及ぼすという点である。しかしながら、今回の知見は、早期子宮頸がん女性に対する、広汎子宮頸部切除術のような妊孕性温存手術にも影響を与える可能性があるとRamirez医師は述べる。追跡調査として、低侵襲広汎子宮頸部切除と開腹での広汎子宮頸部切除を比較する国際多施設共同登録をMDアンダーソンが主導しているところである。

Ramirez医師とRauh-Hain医師のいずれも、それぞれの研究について利益相反がないことを宣言している。

Ramirez医師の研究は、MDアンダーソン婦人科腫瘍・生殖医学学科への学科研究資金から一部支援を受け、残りはメドトロニック社から支援を受けた。

Rauh-Hain医師の研究は、米国国立がん研究所助成金(P30CA016672、4P30CA060553-22、およびR25CA092203)、米国国立小児保健・人間発達研究所助成金(K12HD050121-12)、米国産科・婦人科学会基金、女性がん基金、Jean Donovan遺産、およびPhebe Novakovic基金から支援を受けた。

前向き研究および後ろ向き研究に関わった上記以外の著者は、New England Journal of Medicine誌ウェブサイトで閲覧できる。

翻訳担当者 山田登志子

監修 喜多川亮(産婦人科/東北医科薬科大学病院)

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原文掲載日 

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