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同時投与と逐次投与でHER2陽性乳がんの生存率に差はない

 

治療の選択肢や疾病管理が進化する中で重要な臨床試験結果

MDアンダーソン ニュースリリース 2018年9月6日

アントラサイクリン系化学療法とトラスツズマブを術前化学療法 として受ける場合において、この2つを同時に受けても逐次に受けてもHER2陽性乳がん女性患者の無病生存率(DFS)と全生存率(OS)に差は認められなかったという新たな研究結果が発表された。これはテキサス大学MDアンダーソンがんセンター主導の臨床研究から得られた知見で、2018年9月6日、JAMA Oncology誌に掲載された。

この第3相臨床試験は、米国外科学会腫瘍グループ(ACOSOG、現在はAlliance for Clinical Trials in Oncology)を通じて行われた。

本研究は、HER2陽性乳がん女性患者に同一の治療法を逐次に実施しても高い病理学的完全奏効(pCR)や手術時にがんのない状態を得ることができたというMDアンダーソン主導の第3相臨床試験に対するフォローアップ研究として行われた。2つの治療法を同時ではなく逐次に実施すると、化学療法と抗HER2療法の同時実施との関連が知られている心毒性を排除することができる。

米国腫瘍学会によると、2018年には252,000人以上の女性が乳がんと診断され、このうち約20%がHER2陽性と予測されている。かつては乳がんの中でも予後不良なタイプであったが、MDアンダーソンが先導して治療方法を変える臨床試験を行い、これら女性患者の生存転帰を変えてきた。1999年には同機関が初の術前化学療法臨床試験を行い、化学療法とトラスツズマブを同時に投与することで60%近くの患者でがんが消失することが示された。

「2つの研究から得られた知見によって、このタイプの乳がん女性患者全員が、アントラサイクリン系化学療法とトラスツズマブ同時投与に関連した心毒性を回避できます」とBreast Surgical Oncologyの教授および会長で、本研究の責任著者であるKelly Hunt医師は述べた。「この研究は医 師にとって臨床時に信頼できる指針にもなります。多くの医師は、病気が進んだ状態である、または患者が若いという理由から「攻め」の治療を選択してきました。われわれの研究で、HER2陽性患者の治療では、「ひかえめな」 治療がよりよい結果につながることが確認できました」。

第3相ランダム化臨床試験には、2007年9月から2011年12月の間に全米の36施設から切除可能なHER2陽性浸潤性乳がん女性患者280人が参加した。患者は術前化学療法としてアントラサイクリン系化学療法とトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)レジメンを逐次に受ける群または同時に受ける群に割り付けられ、その後手術を受けた。

逐次群(Arm 1)の138人は、FECとして知られる3剤併用化学療法レジメンの21日ごと1回投与を4サイクル続け、その後パクリタキセルとトラスツズマブの週1回投与を12週間続けた。

同時群(Arm 2)の142人は、パクリタキセルとトラスツズマブの週1回投与を12週間続けた後、FECの21日ごとに1回投与と、トラスツズマブを同21日間のうちの1日目、8日目、15日目に投与することを4サイクル続けた。

参加した全患者がトラスツズマブ療法を合計で1年間受けた。ホルモン受容体陽性腫瘍を有する患者は内分泌療法を受け、また患者によっては担当医の判断で放射線療法を受けた。

臨床試験の主要評価項目は乳房における病理学的完全奏効率だった。副次評価項目はリンパ節における病理学的完全奏効率と無病生存率および全生存率だった。研究者らは、すでに両群間で病理学的完全奏効率に差がないことを報告していた。前回同様、今回も、追跡期間の中央値である5年経過の時点で同時投与でも逐次投与でも無病生存率と全生存率に差は認められなかった。Arm 1では、18人の患者が再発し、2人の患者が2次がんと診断された。Arm 2では、22人が再発し、3人の患者が2次がんと診断された。

抗HER2療法の選択肢が市場に多数出回っているなかで、トラスツズマブ(初期の抗HER2療法)が全生存率を驚異的に伸ばしたことは臨床的にも経済的にも重要な意味を持つであろう。

「全米的な傾向として、手術前に患者ははじめから1つ以上の抗HER2療法を受け手いるようです。現在、HER2陽性患者の治療として承認された選択肢は複数ありますが、どれも毒性と経済的負担を伴います」とClinical Research社の統括責任者でpCR臨床試験の知見に関する筆頭著者であるAman Buzdar医師は言う。

「われわれの得た知見は、そのような方法が不要であることを再認識させました。むしろ、それらの治療は術後も病理学的完全寛解を得られず再発リスクが高い場合に取っておくべきです。われわれの研究はそういった患者の病状を生物学的によりよく理解することに注力すべきです。」

また、Buzdar医師とHunt医師は、術前化学療法で患者の半数以上が病理学的完全奏効を得ているにもかかわらず、HER2陽性乳がん患者の大多数がいまもなお手術を先に受けていることも指摘する。

「どの患者のがんが治療によく反応するかを判断する最善の方法は、手をつけていない状態でその治療を行うことです。追加の治療は手術をしてもがんが残っている患者にのみ行うべきだと思います。これによって不必要な毒性や経済的負担を回避することができます」とHunt医師は述べた。

全身療法への奏効を踏まえ、次の研究で開拓すべき分野は局所領域療法の縮小である。放射線照射範囲の見直しや手術が不要となり得る患者の特定などが含まれる。この研究は現在MDアンダーソンで進められている。

Hunt医師とBuzdar医師以外の共著者は以下のとおりである:
Funda Meric Bernstam, M.D., professor and chair, Investigational Cancer Therapeutics, MD Anderson. Vera J. Suman, Ph.D., and Judy C. Boughey, M.D., both of Mayo Clinic; Ann Marilyn Leitch, M.D., University of Texas Southwestern Medical Center; Matthew J. Ellis, M.D., Ph.D., Baylor College of Medicine; Gary W. Unzeitig, M.D., Doctor’s Hospital of Laredo; and Melanie E. Royce, M.D., University of New Mexico.

 

翻訳関口百合

監修小坂泰二郎(乳腺外科・化学療法/医療社会法人石川記念会 HITO病院)

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