多遺伝子パネル検査は進行肺がん患者の生存を延長しない可能性

最も多いタイプの進行肺がんの患者では、数十種類もの腫瘍の遺伝子変異について検査しても、通常の遺伝子検査と比べて生存を改善しないとみられることが、オハイオ州立大学総合がんセンター、Arthur G. James Cancer Hospital and Richard J. Solove Research Institute(OSUCCC – James)の最近の研究で示唆された。

広範囲ゲノムシーケンシング(Broad-based genomic sequencing, BGS; 30遺伝子以上の多遺伝子パネル検査)は、多数の遺伝子を評価して、進行非小細胞肺がん患者の腫瘍にある変異を同定する。変異が見つかり、その変異を標的とする薬剤が存在すれば、BGSは個別化治療の手助けとなる。しかし、すでに確立された治療可能な1~2種類の遺伝子変異に特化した通常の検査と比較して、BGS検査は費用が高額になる可能性があり、両者を比較した場合の疑問は残る。

OSUCCC – Jamesの腫瘍内科医で助教のCarolyn Presley医師は、医学専門誌JAMAに掲載されたこの新しい研究の筆頭著者となった。Presley氏はこの研究を、エール大学の同僚と共同でエール大学にて、およびFlatiron Health社にて行った。

この研究のために、研究チームは、地域の腫瘍内科外来で治療を受けた進行非小細胞肺がん患者5,000人超について解析を行った。この研究チームは、BGS検査を受けた患者と、2種類の遺伝子変異、EGFRまたはALKについて通常の検査を受けた患者を割り出した。BGS検査が治療の選択に結びつく変異を同定した頻度を特定し、BGSを受けた患者と通常の検査を受けた患者の全生存率を比較した。

BGS検査を受けた患者の中で、結果的に分子標的療法を受けたのは非常に少数だったことがわかった。

通常の検査を受けた患者と比較して、BGS群は短期的にも長期的にも生存は改善されなかった。

このBGS検査を受けた患者の生存期間がこの検査を受けなかった患者よりも長いという傾向は認められなかったと、著者らは述べている。この結果は、現在使用可能な分子標的薬を選択する際に、一般的な地域診療の一部として数十、数百という遺伝子変異を検査しても、生存期間の延長は期待できそうにないことを示唆している。こうした結果の原因として、この試験が行われた期間には限られた分子標的療法しかなかったこと、臨床試験への道が開けていなかったこと、新しい抗がん剤のコストや、保険会社が保険適用外の薬剤の使用を拒否したことなども考えられる。

「遺伝子シーケンシングの性能が、分子標的薬を適時に患者に届ける能力を上回ってしまいました」とPresley氏はいう。「医師同士で遺伝子検査の結果をもっと上手く追跡できるようにする必要があります。新しい抗がん剤の試験を増やし、抗がん剤を患者の手が届く価格にしなければいけません」。

この研究結果は、日常診療におけるBGS検査の使用について疑問を投げかけている。こうした検査はメディケアの適用を受けているが、検査費は数千ドルに上る可能性がある。遺伝子変異が同定されても、その遺伝子を標的とした承認済みの薬はないかもしれない、と研究者らは述べた。

BGS検査が研究に果たす役割は重要だが、現状では、より広く一般に生存の利益をもたらすものではないかもしれない。「これは、検査や手技への熱意がエビデンスを飛び越えて前進してしまう一例です」と、この研究の上級著者でエール大学の内科学教授Cary Gross医師は語った。「新しい発見の有望性を確実に実現するために、新しいパラダイムが臨床診療に広まる前に腫瘍に多様な遺伝子変異をもつ患者の治療法についての情報提供をするには、さらにエビデンスが必要だということを、私たちの結果は示唆しています」。

エール大学チームの他の論文著者は、Daiwei Tang、Pamela R. Soulos、Anne C. Chiang、Janina A. Longtine、Kerin B. Adelson、Roy S. Herbst およびWeiwei Zhuである。

このプロジェクトは、Veterans Affairs/Robert Wood Johnson Clinical Scholars ProgramおよびYale Lung SPORE Career Development Awardからも一部研究費助成を受けた。著者の所属と情報開示はJAMAに掲載されている論文に詳述されている。

翻訳担当者 粟木 瑞穂

監修 稲尾 崇 ( 呼吸器内科/天理よろづ相談所病院 )、、

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