がんに関するよくある迷信と誤解

がんはどのように発生し広がっていくのかということについて、広く受け入れられている見解がいくつかあります。特にそれらが古い説に基づいている場合には、たとえ科学的に間違っていたとしても、説得力があるように思えます。しかし、がんに関する誤った理解により無駄な心配をしたり、さらには適切な予防や治療法の決定を妨げたりしてしまうことがあります。このページでは、がんのよくある迷信と誤解に関して、科学に基づいた最新の情報を提供します。

◆ がんは死の宣告ですか?

米国では、1990年代以降がんによって死亡する可能性は着実に減少しています。乳がん、前立腺がん、甲状腺がんなどのがんでは、5年生存率は今や90%を超えています。すべてのがんを合わせた5年生存率は現在66%です。より詳細についてはAnnual Report to the Nation on the Status of Cancer(がんに関する国家年次報告書:英語)を参照してください。

しかしこれらの生存率は、多数の人々のデータを基にしたものであることに注意しなければなりません。あるがん患者さんがあとどれくらい生きるか、またそのがんによって死亡するかどうかは、そのがんの増殖スピードが遅いか早いか、がんがどの程度広がっているか、効果のある治療ができるかどうか、その患者さんの全体的な健康状態、あるいはその他、多くの要因によります。

◆ 糖分の摂取によってがんは進行しますか?

いいえ。研究では、がん細胞は、正常細胞よりも糖分(ブドウ糖)を消費することが示されていますが、糖分を摂取することによりがんが進行することや、糖分の摂取をやめることでがんが縮小、消滅することを示した研究はありません。ただし、糖分が多い食事は過度の体重増加の原因になり得ますが、がんによっては肥満が発症リスクの増加に関連します。より詳細については、NCIファクトシートのObesity and Cancer(肥満とがん:英語)を参照してください。

◆ 人工甘味料はがんを引き起こしますか?

いいえ。人工甘味料(砂糖の代用品)であるサッカリン(商品名:Sweet ‘N Low、Sweet Twin、NectaSweet)、シクラメート、アスパルテーム(商品名:Equal、NutraSweet)、アセスルファムカリウム(商品名:Sunett、Sweet One)、スクラロース(商品名:Splenda)およびネオテームの安全性についての研究が行われてきましたが、人工甘味料がヒトにおいてがんを引き起こすといエビデンスは見つかっていません。シクラメート以外の人工甘味料はすべて米国食品医薬品局(FDA)によって米国での販売が認可されています。より詳細については、NCIファクトシートのArtificial Sweeteners and Cancer(人工甘味料とがん:英語)を参照してください。

◆ がんはうつりますか?

通常は、うつりません。がんは人から人に簡単にうつる病気ではありません。唯一、がんが人から他の誰かにうつるのは、臓器や組織移植のような場合です。過去にがんに罹患したことがあるドナーから臓器や組織を移植された人は、将来移植関連のがんを発症するリスクが高いかもしれません。しかしそのリスクも非常に低いもので、臓器移植1万件のうち2件ほどです。医師は、がんの既往歴があるドナーの臓器や組織の使用は避けます。

人によっては、ある種のウイルス(いくつかのタイプのヒトパピローマウイルス(HPV)など)や細菌(ヘリコバクター・ピロリ)によりがんが引き起こされていると考えられます。ウイルスや細菌は人から人へとうつりますが、ウイルスや細菌が時として引き起こすがんは、うつる可能性はありません。がんを引き起こすウイルスや細菌について、より詳細はNCIファクトシートのHelicobacter pylori and Cancer(ピロリ菌とがん:英語)、<ヒトパピローマウイルス(HPV)とがん>、または当サイトのInfectious Agents(病原体:英語)のページを参照してください。

◆ ポジティブ/ネガティブである、などの心のあり方は、がんリスク、あるいは、がんから快復する可能性に影響しますか?

今まで、心のあり方が、がんの発症やがんによる死亡のリスクに関与することを示した有力な科学的エビデンスはありません。がんになれば、ある時には悲しみ、怒り、落胆を感じ、ある時にはポジティブになったり楽観的になったりすることは、普通のことです。ポジティブな人は、社会的なつながりを維持して活動的である傾向があるので、身体的活動を行ったり感情のサポートを得られたりすることで、がんに上手く対処できると思われます。より詳細については、NCIファクトシートのPsychological Stress and Cancer(心理的ストレスとがん:英語)を参照してください。

◆ がんは、手術や腫瘍の生検によって、身体に広がりますか?

手術によってがんが身体の別の場所に広がる可能性は非常に低いです。生検や手術で腫瘍を取り除く間、外科医は標準の手順に従い、特別な方法を用いて多くの段階を踏み、がん細胞が広がるのを防ぎます。例えば、もし身体の一カ所以上から組織を取り除かなければいけない時は、それぞれの部位に対して異なる手術の道具を使います。どのようにがんが身体に広がるかについて、詳しくは当サイトの<がんの転移>を参照してください。

◆ 空気にさらされるとがんが進行しますか?

いいえ。空気にさらされて腫瘍の増殖が早くなったり、身体の別の部位に広がったりすることはありません。どのようにがんが広がるかについて、詳しくは当サイトの<がんの転移>を参照してください。

◆ 携帯電話はがんを引き起こしますか?

いいえ。これまで行われた信頼性のある研究によると、携帯電話ががんを引き起こすことは示されていません。がんは遺伝子の変異によって引き起こされますが、携帯電話が発生させるのは、遺伝子にダメージを与えない種の低周波エネルギーです。より詳細については、NCIファクトシートのCell Phones and Cancer Risk(携帯電話とがんリスク:英語)を参照してください。

◆ 電力線はがんを引き起こしますか?

いいえ。これまで行われた信頼性のある研究によると、電力線ががんを引き起こすことは示されていません。電力線は、電気エネルギー、磁気エネルギーのどちらも発生させます。電力線で発生した電気エネルギーは、壁や物によって簡単に遮断されます。電力線が発生させる磁気エネルギーは、遺伝子にダメージを与えない低周波の放射線です。より詳細については、NCIファクトシートのElectromagnetic Fields and Cancer(電磁場とがん:英語)を参照してください。

◆ がんを治癒させるハーブ製品はありますか?

いいえ。ある種のハーブなどを含む代替療法や補完療法は、がん患者さんが治療の副作用に対処する助けとなることを示した研究はありますが、がん治療に効果があることが示されたハーブ製品はありません。実際、ハーブ製品の中には、化学療法や放射線療法の最中に摂取すると、治療の作用機序に干渉し、治療に有害となるものもあります。がんに罹患している患者さんが、ビタミン剤やハーブサプリメントなどの補完療法および代替療法製品の利用を考えている時は、主治医と話し合いましょう。より詳細については、 Topics in Integrative, Alternative, and Complementary TherapiesのBotanicals/Herbal Products sectionの項を参照してください。
(*日本語訳参照:「がん情報サイト」の<統合、代替、補完療法に関するトピック(PDQ®)植物由来製品/ハーブ製品>)

◆ もし家族の誰かががんであれば、私もがんになる可能性が高いですか?

必ずしもそうとは限りません。がんは、遺伝子の有害な変化(変異)によるものです。がんのうち、両親から遺伝した有害な変異によって引き起こされるのは5~10%にすぎません。がんを引き起こす遺伝性の変異を有する家族では、家族内のメンバーが同じタイプのがんを発症することがしばしばあります。これらのがんは「家族性」または「遺伝性」のがんと呼ばれます。

残りの90~95%のがんは、加齢、または、喫煙や放射線といった環境的な要因にさらされた自然な結果として、生涯を通じて引き起こされた変異によるものです。これらのがんは「非遺伝性」または「自然発生」のがんと呼ばれます。がん発症リスクについてより詳細については、NCIファクトシートのGenetic Testing for Hereditary Cancer Syndromes(遺伝性がんの遺伝子検査:英語)Cancer Causes and Risk Factors(がんの原因と危険因子:英語)を参照してください。

家族が誰もがんでなければ、私はがん発症のリスクはないということですか?

いいえ。最近のデータに基づくと、約40%の男女が、生涯のどこかでがんと診断されます。ほとんどのがんは、加齢、または、喫煙や放射線といった環境的な要因にさらされた自然な結果として、生涯を通じて引き起こされた遺伝子変異によるものです。どのような食べ物を食べているか、どれくらいの量を食べているか、運動をしているかどうかなどといった別の要因もがん発症のリスクに影響します。より詳細については、 Cancer Causes and Risk Factors(がんの原因と危険因子:英語)を参照してください。

◆ 制汗剤や体臭防止剤は乳がんの原因になりますか?

いいえ。今までの信頼のおける研究によると、制汗剤や体臭防止剤で通常使われている化学薬品と、乳腺細胞の変化を関連付けるエビデンスは見つかっていません。より詳細については、NCIファクトシートのAntiperspirants/Deodorants and Breast Cancer(制汗剤と乳がん:英語)を参照してください。

◆ 染毛剤でがんを発症するリスクは高くなりますか?

染毛剤を使用することでがんのリスクが高くなることを示した信頼性のある科学的エビデンスはありません。ただし、いくつかの研究は、多量の染毛剤や他の化学製品に普段さらされている美容師や理容師では膀胱がんのリスクが高いことを示唆しています。より詳細については、NCIファクトシートのHair Dyes and Cancer Risk(ヘアダイとがんリスク:英語)を参照してください。

翻訳担当者 平沢 沙枝

監修 勝俣 範之(腫瘍内科/日本医科大学武蔵小杉病院) 

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