ビタミンEは頭頸部癌患者に有益でない

米国国立がん研究所(NCI)

Vitamin E Does Not Help Head and Neck Cancer Patients(Posted: 08/01/2005)放射線治療を受けた頭頸部癌患者の大規模ランダム化試験で、ビタミンEサプリメントは二次性原発腫瘍の発生を予防しないだけでなく、癌再発のリスクを増加させる。この結果により、ステージⅠ、Ⅱの頭頸部癌患者にビタミンEサプリメントの恩恵はないことが証明された。


要約
放射線療法を受けた頭頸部癌患者の大規模な無作為化試験でビタミンE補給剤が二次原発癌の発生を予防できなかったことと癌再発のリスク増加に関与するかもしれないことが分かりました。試験の結果ビタミンE補給剤はステージⅠまたはⅡの頭頸部癌患者に有効でないことを示しています。

出典  Journal of the National Cancer Institute 2005年4月6日  Journal of Clinical Oncology 2005年8月20日

背景
酸化防止剤は活性酸素として知られている不安定な分子から受ける細胞損傷を防ぐかもしれない物質です。活性酸素による損傷は癌の原因となるかもしれません。酸化防止剤の例としてベータカロチン、リコピンそれにビタミンC、E、Aなどがあります。

アルファトコフェロール(ビタミンE)とベータカロチン両方に関する多量のデータはこれら二つの酸化防止剤は有効な化学的予防剤かも知れないことを示唆しています。つまり試験管や動物実験でこれらの酸化防止剤が癌細胞の成長を遅らせ、また阻止します。しかし臨床試験結果はそれほど明白ではありません。(NCIFact SheetのAntioxidants and Cancer Prevention: Questions and Answers参照)

酸化防止剤は正常細胞を放射線の害から守るかもしれないということについても限られたデータしかありませんし、これがつまり癌細胞も放射線の害から逃れるということかどうかは実際懸念される問題です。

頭頸部癌患者は普通放射線で治療されます。ステージⅠかⅡの癌を持つ患者は原発癌と関係しない新しい独立の癌、(しばしば二次原発癌とみなされる)を引き起こすリスクが大きいです。そのため酸化防止剤補給のような介入がこの患者群で二次原発癌のリスクを減らし、一方で放射線の副作用から患者を守るかどうかを判定することは重要です。

試験
1994年から2000年にケベックにある5箇所の放射線治療センターのカナダ人研究者はステージⅠかⅡの頭頸部癌患者540人を登録しました。患者は無作為にビタミンE(400IU)とベータカロチン(30mg)を含む錠剤を毎日かまたは偽薬(プラセボ)を毎日飲むように割り振られそれは放射線療法の初日に開始され治療終了後3年間続けられました。試験は二重盲検すなわち患者と研究チームの両方に患者がどちらの薬を服用しているかは知らせられませんでした。

1996年に試験の研究者はこの特殊な酸化防止剤が肺癌のリスクを増加させるかもしれないという他の試験の証拠からベータカロチンの使用を中止しました。しかしビタミンE補給剤は続けられました。(Beta-Carotene Supplements Confirmed as Harmful to Those at Risk for Lung Cancer参照)

全患者が合計8年間の追跡調査を受けました。試験終了時に結果は2方法で解析されました。一方は全患者を含み他方はベータカロチンを中断する前に試験に登録された最初の156人からのデータは除外しました。統計的にもっとも顕著な結果はビタミンE単独投薬に関してのものでした。

試験研究者は二つの主な目的がありました。第一の目的はこの患者グループで酸化防止剤使用の延長投薬が二次原発癌の発生を防ぐかどうかを調べることです。第二の目的は放射線治療中の酸化防止剤補給が癌細胞の殺傷という治療能力を減ずることなく副作用を減らすことができるか判定することでした。おのおの二つの目的に対する結果は異なる医学ジャーナルに別々に掲載され論説も付随しています。

試験はケベック市のLaval大学癌研究センターのIsabelle Bairati医学博士によって先導されました。

結果

目的1の結果

(米国国立癌研究所ジャーナル2005年4月6日ジャーナル要旨参照)

酸化防止剤は患者で二次原発癌の成長を防ぐことができませんでした。実際に放射線の後錠剤を服用しつづけた3年間でビタミン服用の患者グループがプラセボグループより二次原発癌(大部分は肺と気管の)の割合が少し高くみられました。二次原発癌を引き起こすリスクはプラセボの2倍以上(2.42倍)であり、特にビタミンEだけ服用の患者で最も高いものでした。(2.88倍)

しかしひとたび彼らが酸化防止剤を中断するとビタミングループの二次原発癌の割合はプラセボ服用の患者より低くなりました。8年の追跡調査のあとでの二次癌の割合は二つのグループでほとんど同じでした。喫煙者は試験の期間中非喫煙者より二次原発癌になりやすいという結果はありませんでした。

再発の割合についても同様でした。つまり酸化防止剤を服用した患者は補給剤を受けた3年間原発癌の再発が1.65倍でした。リスクはビタミンEのみ服用患者が一番高いものでした(1.86倍)。補給剤をやめて5年後彼らの再発リスクはプラセボグループと同じレベルまで下がりました。これらの結果は酸化防止剤の有害性を示唆するものですが統計的に有意ではありません。

目的2結果

(臨床腫瘍学ジャーナル2005年10月11日8月20日2005年7月18日オンライン掲載 ジャーナル要旨参照))

試験者は正常組織へのダメージを見積もりまた患者に試験の間3回生活の質(QOL)について質問を行ないました。それは放射線療法を受けている間、治療終了時点、治療の1ヵ月後でした。放射線治療の全患者の22%がある種の重症の副作用(グレード3~4)、たとえば苦痛を伴う口の乾燥またはのどの痛みを経験しました。放射線療法の1ヵ月後その割合は2%に下がりました。

ビタミンEとベータカロチンの組み合わせを服用した患者は副作用重症度が低い傾向がみられました。ビタミンEのみ又はプラセボを服用した患者は副作用への保護はありませんでした。さらに補給剤を受けた患者グループはプラセボグループと同様のQOLであったと報告しました。

研究者は局所的な再発(原発癌の再発)の割合はプラセボグループより組み合わせ服用患者グループで54%高かったということを注視しています。ビタミンEだけの患者グループでは微小ながら無視できないさらなる増加が見られました。

研究者は(ビタミンEだけではなく)ビタミンEとベータカロチンの放射線療法の間の補給は副作用の重症性を減らすかもしれないが副作用の予防は癌細胞を殺傷するのに働く放射線の効果を妨害するかもしれないと結論付けました。

制限事項
早期の頭頸部癌患者は他の種類の癌患者に比較して二次原発癌を引き起こすリスクはもともと高いです。この試験で分かった酸化防止剤と二次原発癌の関係は他の癌患者ではこれほど強くないかもしれないと著者は語りました。

コメント
「これは参加者からの協力を得られた大規模な良い研究です」と米国国立癌研究所の癌予防部のEva Szabo医学博士は述べました。「試験の結果ビタミンE補給はステージⅠまたはⅡの頭頸部癌患者に、化学的予防剤としても、また放射線療法の間のQOLを高めるためにも有益ではないことを示しています。」   (内村美里人 訳・林 正樹(血液・腫瘍科) 監修 )

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