頭頸部がんの治療と成果における男女差が明らかに

(本要約は、演題アブストラクトに含まれていないデータを含んでいます)

ASCOの見解

「頭頸部がん女性が治療を受ける割合が低く、転帰が悪い理由はわかっておらず、私たちはそれを解明する必要があります。今回の所見はカリフォルニア特有のものですが、ここでわかった男女差は、驚くべきことであり、日々の診療で治療法を検討する際に考慮する価値があります」とASCO専門家Joshua A. Jones医師(医学博士、文学修士)は述べている。

カリフォルニア州のある病院システムのがん登録データを分析したところ、頭頸部がんの女性患者は男性患者に比べて、強力な化学療法を受ける割合(35%対46%)および放射線療法を受ける割合(60%対70%)が低いことが分かった。年齢や重度の病状などの要因で調整した数学的モデルは、がん死亡の非がん死亡に対する比率が女性は男性より2倍高いことも示している。これらの所見をまとめると、頭頸部がん女性患者が十分に治療されていない可能性が提起される。著者らは、いくつかの交絡要因があるため、この可能性に十分に取り組むにはさらに前向き研究が必要であると説明する。

この研究は、今日の記者会見で紹介され、2018年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される予定である。

「性差を調べていたわけではなかったので、結果は本当に驚くべきものでした。 治療率の低さ以外にも、頭頸部がんの女性患者と男性患者の転帰の差を引き起こす要因は数多くあり、さらに調査が必要であることは明らかです。私たちはこの数学的モデルを用いて、より強力な治療が有益である可能性の高い患者と、がん以外の原因で死亡する可能性の高い患者を特定するのに役立つツールとしました。 このモデルを治療に取り入れることで、頭頸部がん患者全員の治療を改善できることが期待されます」と、統括著者であるカリフォルニア州サンタクララのKaiser Permanenteの腫瘍内科医Jed A. Katzel医師は述べた。

頭頸部がんは、米国のがん全体の約4%を占め、その発生頻度は男性が女性の2倍以上高い1

治療を考えるとき、腫瘍医は患者の活動レベルおよび他の疾患を考慮する。 一般状態(全体的な心身の健康の目安)が良好な頭頸部がん患者には、プラチナベースによる化学療法と放射線療法の併用など、より強力な治療法を提供することができる。 強力な化学療法に耐えられない患者には、分子標的療法剤セツキシマブ(エルビタックス)+放射線療法、放射線療法のみなど、あまり強力でない治療法を提供したり、がん治療をまったく行わないこともある。

頭頸部がんの治療および転帰に影響を与えるもう一つの要因は、がんがヒトパピローマウイルス(HPV)によって引き起こされているかどうかである。 HPV関連の頭頸部腫瘍は治療に対する応答性が高く、このようながんの患者は一般的に予後が良好である。 HPV関連の頭頸部がんは女性よりも男性に多くみられる。 例えば、以前に著者らによって行われた北カリフォルニア在住患者の分析ではHPV関連がん患者の割合が男性77.4%に対して、女性はわずか約22.6%であった2

研究について

研究者らは、Kaiser Permanente Northern Californiaで治療したステージ2~4B頭頸部がん女性患者223人および男性患者661人の健康転帰を評価した。 強力ながん治療を受ける確率は、ロジスティック回帰モデルを使用し、年齢、性別、腫瘍ステージ、チャールソン併存疾患指数、喫煙歴および飲酒歴などの要因で調整して推定した。 がんで死亡するリスクと他の原因で死亡するリスクとを比較するために、一般化競合イベント(GCE : generalized competing event)モデルと呼ばれる数学的ツールを用いた。 GCEモデルは、年齢、性別、腫瘍部位、およびチャールソン・スコアの差異を調整する。 この分析では、研究者は、HPV状態に関して腫瘍の種類の差異を調整しなかった。

主な所見

全体として、この研究で、いくつかの性差が確認された。

・治療:強力な化学療法を受ける確率は、女性では35%、男性では46%であった。放射線療法を受ける確率は、女性で60%、男性で70%であった。

・死亡率:中央値2.9年の追跡時点で、271人ががんで、93人が他の原因で死亡した。 男女ともに他の原因よりもがんで死亡する可能性が高いが、がんによる死亡数のがん以外による死亡数に対する比率では、女性が男性より1.92倍高かった。

・HPV関連がん:女性は男性よりも口腔咽頭がんが少なかった(38%対55%)。詳細な分析は現在進行中であるが、 HPV関連がんは中咽頭で最も頻繁に発生するため、これも、女性のがん関連死亡率が男性より高くなる要因である可能性がある。

次の段階

研究者は、研究対象の女性患者が受けた治療のより詳細なレビューを行う予定である。 また、HPV関連頭頸部がん罹患率の男女差を反映した場合など、生存の性差の原因を特定することにも関心を持っている。

さらに、「GCEモデルは、現在患者を登録しているNRG-HN004試験でさらに評価が行われるでしょう。この試験には私たちも参加する予定です」と、Katzel博士は述べた。

この研究は、Kaiser Permanente Norther California卒後医学教育部門から資金を受けた。

研究概要

疾患名

  頭頸部がん

患者数

  884人

研究対象

  がん治療法実施状況、がん死亡率対非がん死亡率

主要知見

  女性は強力な治療を受ける可能性が男性より低い

  女性はがん死亡の非がん死亡に対する比率が男性よりも高い

アブストラクト全文はこちら

参考文献:

1 Siegel RL, Miller KD, Jemal A. Cancer Statistics, 2017. CA: A Cancer Journal for Clinicians 2017; 67(1):7-30

2 Katzel JA, Merchant M, Chaturvedi AK Silverberg MJ, Contribution of demographic and behavioral factors on the changing incidence rates of oropharyngeal and oral cavity cancers in Northern California. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev; 24(6):978-984)

翻訳担当者 有田香名美

監修 小宮武文(腫瘍内科/トゥーレーン大学)

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原文掲載日 

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