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ハンガートレーニングによる体重管理とがんリスク軽減

MDアンダーソン OncoLog 2018年4月号(Volume 63, Issue 4)

 Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL

臨床試験で肥満患者のがんリスク軽減に向けた減量戦略を評価

 

肥満は他の疾患に関連することがこれまでに数多くの事例で示されてきたが、現在、非喫煙者におけるがんの第一要因である。しかしながら、肥満防止を狙った戦略も、しばしば人々の長年にわたる食習慣のために効果が損なわれてしまう。このような習慣をやめられるよう手助けすることにより、肥満やそれに伴うがんリスクが避けられるような、新たな体重管理アプローチをテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは研究している。このアプローチは人々に食物との関係性を考え直す手助けとなる。

 

この体重管理アプローチでは、グルコースをモニタリングして食物摂取量の管理を行う。乳がん発症のリスクが高い、閉経後の肥満女性を対象にした16週間の生活習慣介入を通して、このアプローチで体重減少を達成できるかどうかを確認する臨床試験が始まりつつある。

 

主要な危険因子

肥満は、大腸がん、子宮内膜がん、および閉経後乳がん、さらに膵臓、腎臓、肝臓、甲状腺、胃、胆嚢、食道、卵巣のがん、そして髄膜腫および多発性骨髄腫のリスクを高めることがわかっている。しかし、減量によりこのリスクが低減されるかどうかは不明である。

 

「疫学的データは、肥満とがんリスク増加の関連を示しています。しかしながら、これまでのところ減量のがんリスクに与える影響についてのデータは、まだ多くはありません」と、行動科学部教授のKaren Basen-Engquist博士は述べる。「体重減少が子宮内膜がん発症リスクの低下に関連することを示すデータはあり、また肥満症治療の手術による大幅な体重減少とがんリスクの低減の関連性を示すデータも出はじめています。」

 

正確なメカニズムは不明だが、肥満は主に脂肪組織の蓄積を介してがんのリスクを高めると考えられている。 脂肪組織 (脂肪 )は代謝の活性が非常に高く、がんの発生や進行に関連する多数の成長因子やホルモンを分泌する。 例えば脂肪組織は、多くの乳がんに影響するエストロゲンや、血管新生を促進することで悪性形質転換を起こす血管内皮増殖因子を分泌する。 肥満はしばしば質の低い食生活を伴うため、食生活関連の要因もがんの発症に寄与する可能性がある。 遺伝もまた、肥満とがんとの関係において役割を果たしている可能性もある。

 

「私たちは、肥満とがんリスクの上昇に関連する因子を、おそらく1つだけでなくいくつか指摘することになるでしょう」とBasen-Engquist医師は述べた。「また、がんのタイプによって関連している因子も異なるかもしれません。」

 

バランス達成の重要性

エネルギーのバランス、すなわち人が消費するカロリーと摂取するカロリーの均衡がとれた状態が、健康な体重を維持するための鍵だと、登録栄養士で行動科学部の助教であるSuzan Schembre博士は述べた。

 

「食物は燃料と栄養素です。 生理学的にはそれ以外の何物でもありません」と、Schembre医師は言う。「しかし私たちは他の理由で食べます。祝うために、自分へのご褒美として、そしてよい気分を得るために食べるのです。」

 

つまり食べたいという欲求は、燃料の必要性という生理的起因に関連していない可能性がある。このような、欲求と必要性との間の非関連性は、厳密に食事時間を設定し外食をしないことに焦点を当てるような、集中的な体重減少介入によって、より強化されてしまう。そして、一旦こうした介入が終わると、患者は徐々に以前の悪い食習慣に戻ってしまう。

 

「人々と食物との関係性や、生理的起因との非関連性が、体重管理をできなくしている可能性があります」と、Schembre医師は述べた。「私たちは、人々と食物との関係性を理解し、セルフコントロールする方法を学ぶスキルを提供する必要があります。」

 

 ハンガートレーニング(空腹訓練)

不健全な食習慣を解消し、体重をより良く管理するために、Schembre医師をはじめとする研究者らは「ハンガートレーニング」と呼ばれる介入に目を向けている。ハンガートレーニングの目的は、人々に真の空腹時、すなわちエネルギーが負のバランスで、体が燃料を必要としている時を認識できるように教えることである。

 

訓練を受ける患者は、グルコース測定器を使って食事の必要性を評価する(グルコースは、短期間のエネルギー状態を示すバイオマーカーとして使用され、生理学的な食物の必要性を示唆する指標となる)。グルコース測定器(一般的に、上腕に接着剤で固定する小さなパッチ状の装置)は、読み取り機と無線でつながっており、患者は自分のグルコースレベルをリアルタイムで確認できる。 空腹時またはそれに近い状態の血糖値が、「真の空腹」すなわちエネルギーが欠乏しており食べる必要があることを示す閾値である。

 

「ハンガートレーニングでは、グルコースが閾値を超えている時は食べないというだけです。それ以外の食事に関する推奨事項は何もありません」と、Schembre医師は述べた。 

 

ハンガートレーニングは通常3〜4週間続く。 患者が真の空腹とグルコース測定器の値を結び付けること、つまり真の空腹の感覚と、それに応じて食べることを学ぶとハンガートレーニングは終了する。

 

ハンガートレーニングにおける最近の臨床試験は有望な結果を示していると、Schembre医師は述べた。「 この介入を使った人は、5カ月以内に初期体重から最大で7%減量しました。これらの結果は、一般的に平均5%の体重減少を達成する他の集中的な介入と、少なくとも同程度には有効と言えます。」

 

こうした結果が持続するかどうかは、まだ検証されておらず、参加者を長期的な訓練に向けさせるには「ブースター」プログラムが必要になるだろうと、Schembre医師は 述べた。

 

Schembre医師らは、乳がん発症のリスクが高い、閉経後の肥満女性を対象としたハンガートレーニングの効果を評価する臨床試験(No. 2017-0507)を開始した。この試験では、30kg / m 2以上の肥満指数(BMI)を有し、生活背景および病歴にもとづいて、がんのリスクが高いと考えられる女性が登録されている。ハンガートレーニングの今後の研究では、異なる集団においても肥満とがんの関係性を調査する可能性もある。

 

「今後、治療中のがん患者やがんサバイバーといった他の集団でも、この介入試験を行う機会があるでしょう。しかし、まずは一つずつ実施していきます」と、Schembre医師は述べた。

 

For more information, contact Dr. Karen Basen-Engquist at 713-745-3123 or kbasenen@mdanderson.org or Dr. Susan Schembre at 713-563-5858 or sschembre@mdanderson.org. For information about the Hunger Training trial for postmenopausal women at high risk of breast cancer, visit www.clinicaltrials.org, call 713-794-5494, or email takecharge@mdanderson.org.

 

【囲み記事】

アウトリーチプログラム(福祉計画)で、地域住民の健康的な生活を阻む障害の克服を促す

肥満を予防するには、個人のやる気以上のものが必要である。人々が健康的な生活習慣を形成する機会は、周囲の環境にも左右されると、健康格差研究部長で准教授であるLorna McNeill博士は述べた。

 

「私たちは、人は家族や文化そして育った環境に影響されるということを認識する必要があります」と、McNeill医師は言う。「個人だけに着目しても、永続的な変化をもたらすことができるとは考えられません。その人の生活環境も考慮する必要があるのです。」

 

McNeill医師は、人々の社会的背景に働きかけることによって、その人たちが健康的な生活習慣を達成するような介入方法を開発している。同医師のプロジェクトの多くは、肥満リスクが一般集団より高い、貧困地域のマイノリティ集団を対象にしている。特に女性の社会的支援に焦点を当てたこれらのプロジェクトには、教会を通したヨガベースの介入の参加者募集や、食物砂漠(栄養価の高い食物へのアクセスが限られている地域)にある教会での、健康的な食糧の協同組合を設置するといった取り組みがある。

 

McNeill医師の主な目標の一つは、環境と身体活動の関係を理解することである。特に、人々が身体的な活動を身に付ける際、また身につけた後そしてそれを維持する際に、環境がどのように影響するかを理解することである。

 

身体活動をする上での環境的な障壁を克服するには、革新的でエビデンスにもとづく介入プログラムを、地域に設定する必要がある。そうすることで、多くの人々がそのプログラムにアクセスできるようになると同医師は述べた。そして、こうした介入プログラムにとっての大きな課題は、人々が身につけた行動様式を長期的に実践するよう、十分に働きかける方法を見つけることだと付け加えた。

 

「介入によっては、3カ月にわたり体重が減るような行動の変化をもたらすこともありますが、その後は元に戻ってしまいます。どうしたら人々を、介入開始直後の頃のように維持させられるかはまだわかっていません。研究者として、それが克服できていない最も難しい障害といえます。」

 

MDアンダーソンの健康格差研究部門については、 http//bit.ly/2DLytOA参照。

 

写真キャプション】

グルコース測定器を使ってみせるSusan Schembre医師。MDアンダーソンの空腹訓練プログラムの参加者は、グルコースレベルが低い時だけに食べる体重管理方法を学ぶ。

 

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翻訳片瀬 ケイ

監修朝井 鈴佳(獣医学・免疫学)

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