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がん患者における低筋肉量(サルコペニア)は生存に影響する可能性

NCI(米国国立がん研究所)~がん研究ブログ~

乳がんと診断された女性の一部において、低筋肉量であることは長期予後不良と関係している可能性が新たな研究で判明した。

 

この試験はこれまでに実施されたこの種の調査で最大のものの一つで、研究者らは、この研究の対象女性の3分の1が、診断時に骨格筋量が少ない(サルコペニアと呼ばれる状態)ことを発見した。そして、筋肉量が十分な女性と比較して、筋肉量が少ないことは死亡リスクがより高いことと関連していると4月5日にJAMA Oncology誌で報告した。

 

この研究に参加した女性は全員が乳がん患者であったが、がん診断時点では、まだ乳房以外の部位に転移していなかった。本研究においてサルコペニアである女性の比率が高いことは、より初期段階の乳がん女性においては、低筋肉量であることが「正しく評価されていない」ことを示唆していると、Kaiser Permanente of Northern California研究部門の主任研究員Bette Caan博士は述べた。この研究は、低筋肉量が、多量の脂肪組織すなわち高度肥満と同様に患者に多くみられ、「生存率の低下と強く関連している」ことも示唆していると、彼女は続けた。

 

Caan氏が率いる同様の研究では、診断時のサルコペニアは、非転移性大腸がん患者の生存率の低下とも関連していた。

 

米国国立がん研究所(NCI)のがん対策・人口統計学部門(Division of Cancer Control and Population Sciences)のJoanne Elena博士(公衆衛生学修士)によれば、これらの研究によって、「低筋肉量は、予後不良のリスクが高い患者の特定に役立つもう一つの方法である可能性がある」ことがさらに裏づけられる。

 

「肥満の逆説(パラドクス)」を解明する?

 

肥満は現在多くのがん患者にとって重要な危険因子との認識が確立されており、複数の研究が肥満は特定のがんと診断された患者の死亡リスクを高める可能性もあることを示唆している。

 

しかしながら、そのデータにはいくつかの例外がある。

 

実際、いくつかの研究で複数の異なるがんと診断された痩せ型の人の方が、肥満度指数(BMI)に基づいて太り過ぎまたはやや肥満の人よりも死亡リスクが高いことが分かった。がん以外の疾患でも同様の研究結果が報告されており、その現象は「肥満の逆説(余分に体脂肪があることは、疾患関連死の予防手段となるという考え)」として知られるようになった。

 

研究者らは通常、身体組成の包括的な尺度としてBMIを測定する。「なぜなら、BMIは大規模な研究では比較的簡単に収集することができるからです」と、ラトガースがん研究所(Rutgers Cancer Institute)のElisa Bandera医学博士とスタンフォード大学医学部のEsther John博士は、その新しい研究に付随する論説で述べている。

 

「BMIは、われわれ皆が簡単に使いこなせる臨床的手段です」とアラバマ大学バーミングハム校の総合がんセンター(UAB Comprehensive Cancer Center)のがん予後及びサバイバーシップ研究所(Institute of Cancer Outcomes and Survivorship)のGrant Williams医師は述べている。「しかしながら、BMIでは身体組成の数多くの複雑な細部まではわかりません」。

 

BMIの限界から、研究者らは過剰な脂肪に本当に予防効果があるかどうか、また、上述の逆説的知見を説明できる身体組成の他の側面(筋肉の不足)があるのではないかと考えた。

 

「筋肉は独立した器官であり、体内で最大の器官です」と、Caan氏は説明した。「筋肉は脂肪組織と同様に、インスリンの分泌などの機能に関与し、代謝や炎症のような生物学的過程に影響を及ぼします」と、彼女は続けた。

 

「筋肉の独立した役割は正しく評価されていません」と、彼女は述べた。

 

CTスキャンを活用した重要な情報提供

 

NCIから資金提供を受けている、後ろ向き研究に参加した約3,200人の女性が、2000年から2013年の間に、カイザー・パーマネンテ(Kaiser Permanente)またはダナファーバーがん研究所(Dana-Farber Cancer Institute)で診断された。

 

これらの女性全員は、乳がんと診断されてから6カ月以内で、何らかの積極的治療を始める前に骨盤または腹部のコンピューター断層撮影(CT)スキャンを受けた。これはがんの転移がないことを確認するため通常行われる。超早期の乳がん患者(ステージ0または1)はいなかった。なぜならそのような患者に対しては通常CTスキャンを実施しないからである。

 

Caan氏と彼女の同僚たちはCTスキャンで得た情報を使用して、患者の筋肉量および、三つの異なるタイプの脂肪組織の累計と定義されている全体的肥満度を測定し、さらに患者のBMIも計算した。

 

研究者らは、診断時にサルコペニアを発症していた女性は、サルコペニアを発症していない女性と比較すると、研究期間中に、がんだけでなく、何らかの原因で死亡するリスクが中等度に増加した(約40%)ことを発見した。高度肥満の女性は、死亡リスクが同様に増加し(35%)、最も高い肥満度およびサルコペニアを有する女性(調査対象母集団の約6%)でリスクが最も高かった。

 

研究者らは、サルコペニアが侵襲性の強いがん、あるいは死亡リスクを増大させる可能性のある他の要因の単なるマーカーに過ぎない可能性があるという説を決定的に排除することはできないと認めている。

 

Caan氏は、それを「もっともな懸念である」と言いつつ、サルコペニアはより侵襲性の強いがんの副産物にすぎないという考えに反論するこの研究の知見を挙げた。

 

たとえば、女性の乳がんがステージ2であるか、より侵襲性の強いステージ3であるかに関わらず、サルコペニアと低い生存率との関連の程度は同じであった、と彼女は説明した。また診断後1年以内に死亡した女性を除外した場合でも、死亡リスクの増加は非常に似ており、彼らのがんは非常に侵襲性が強いことを意味している。

 

「低筋肉量とがん死亡率との正確な関係は『複雑』である」と、Williams氏は述べた。例えば、他の研究で、サルコペニアを発症している転移乳がんの女性は、化学療法に関連した重度の副作用の発症、入院および治療中断となる可能性がずっと高かったが、それらすべてが患者の生存期間に影響を与える可能性がある。

 

「結局のところ、単純なことは何もありません」と、Williams氏は述べた。サルコペニアと死亡率との関連が「がんの生態の結果である可能性は十分にあります。しかしながら、説明を完結させる段階には至っていません」と、彼は続けた。

 

身体組成とがん治療

 

Caan氏は、「標準的な腹部CTスキャン報告書に筋肉量測定が組み込まれるようになることに期待を寄せています」と述べた。「標準的CTスキャンからの情報を簡単に取り込めるプログラムがすでに利用可能です」と、彼女は付け加えた。

 

「筋肉量に関する情報を臨床医がすぐに利用できるようになった現時点においても、回答が必要な重要な課題はまだ他にもあります」と、NCI主催のサルコペニアとがんに関する会議を開催したElena氏は述べた。

 

「例えば、患者の死亡リスクが上昇する筋肉量を正確に示す数値段階の決定などの課題があります」。

 

「その他、筋肉量に関する情報が、患者の体表面積に基づいて決定される化学療法用量などの治療法決定を改善する助けになるかどうかの試験をしています」と、Williams氏は述べた。

 

「体表面積はおおよその尺度です」と、彼は続けた。「それは100年以上使われている方法です。脂肪量と筋肉量を区別するためにCTスキャンを使用することは、将来的には「投薬決定に関する情報提供に役立つと考えられます」。

 

Bandera氏およびJohn氏は、新しい研究結果が脂肪を減らすだけでなく、筋肉量の維持と増加を目標にして、治療法に身体活動を組み込むことの重要な注意喚起となると述べた。

 

画像キャプション:

がん治療中の患者の骨格筋の喪失(紫色)を表している連続CTスキャン画像

 

<関連コラム>

健康的な食事と規則正しい運動が大腸がんの生存率を改善する可能性

 

運動によってがん治療歴のある人の生存期間が改善する可能性を示唆するデータの大部分は、大腸がんの研究から得られたものである。4月12日にJAMA Oncology誌で公表された研究結果が、その証拠に追加された。

 

研究の中で、研究者らは15年以上前に実施された大腸がん治療の大規模臨床試験に参加した約1000人の長期生存者を解析した。この前向き研究に登録した試験参加者は、彼らの生活様式(食生活や運動の程度など)に関する質問が含まれる調査票に記入した。調査結果は、アメリカがん協会(American Cancer Society)が作成した運動と栄養に関するガイドラインと比較された。

 

中央値で7年間の追跡調査の結果、研究参加者のうち、栄養および運動レベルが協会作成ガイドラインの推奨内容に最も近い人は、死亡リスクが42%低かった。運動と栄養がガイドラインに概ね一致していた研究参加者の5年生存率は85%であった。一方、食事と運動がガイドラインに則していない参加者では76%であった。

翻訳畔柳祐子

監修辻村信一(獣医学/農学博士、メディカルライター)

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原文掲載日

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