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一部のがん患者で心不全リスクが高まる

米国国立がん研究所(NCI)ブログ~がん研究の動向~

乳がんやリンパ腫の治療を受けた人は、がんに罹患していない人に比べてうっ血性心不全の発症リスクが高まるという新たな研究結果が示された。

 

研究者らは、乳がんやリンパ腫と診断された患者とがんに罹患していない人で心不全発症率を後ろ向きに比較した。全体的な心不全発症リスクは比較的低いものの、がんの治療受けた患者では、これまで一度もがんに罹患していない人に比べて2倍高かった。また、そのリスクは早ければがんの診断後1年で明らかになった。

 

そのリスクの上昇は最低でも20年間持続した。

 

「がん患者の生存期間が延びたため、がん治療の心臓への長期的な影響を明らかにできるようになった」「ますます、心臓病専門医及び心血管分野の研究者らはがん治療の心臓への短期的、長期的な影響を評価する必要が高まっている」と本研究に携わっていないNCIのがん予防部門のLori Minasian医師は述べた。

 

「要するに、乳がんやリンパ腫の治療を受けた患者とその主治医はこれらの心臓へのリスクを知り、心不全の徴候に関する検査を1年に一度実施すべきである」と研究担当者であるMayo Clinic のCarolyn Larsen医師は述べた。

 

Larsen医師はこの研究成果を3月10日のアメリカ心臓病学会年次総会で発表した。

 

がん治療の中には、心機能障害を引き起こすものがある

うっ血性心不全(あるいは心不全)は、心筋が弱くなったり障害されたりして、体内へ血液を送るためのポンプ機能を果たさなくなる状態である。

 

心疾患、糖尿病および高血圧はすべて、化学療法、胸部放射線療法、免疫療法およびその他の標的療法のようながん治療と同様に心不全の危険因子である。

 

がん患者の心不全の長期的なリスクを評価するため、Mayo Clinicの研究者はロチェスター疫学プロジェクトのデータを解析した。

 

彼らは、1985年から2010年までに乳がんやリンパ腫と診断された患者に焦点を当て、年齢、性別が同一で、類似した危険因子もつ、がんに罹患していない人を比較した。

 

乳がんやリンパ腫の患者の中には「心機能障害を及ぼすような治療、特にアントラサイクリン系抗がん剤による治療を受けている患者もいる」とLarsen医師は述べた。本解析で対象とした患者のうちほぼ全ての患者が化学療法を受けており、うち84%がアントラサイクリン系抗がん剤治療を受けていた。

 

がん診断から5年以内で、乳がんやリンパ腫の患者はがんに罹患していない人に比べて心不全のリスクが3倍高いことが報告された。20年以内では、心不全発症率は、がんサバイバーで10%、対照群で6%であった。

 

心不全のリスクは、がん患者の特定の集団で明らかに高かった。例えば、80歳以上でがん診断を受けた患者は、若年でがん診断を受けた患者より心不全のリスクはさらに高くなっていた。

 

さらに、糖尿病を合併しているがんサバイバーでは合併していない人より心不全のリスクが2倍であった。

 

さらに、ドキソルビシン(アントラサイクリン系抗がん剤をベースにした化学療法薬)治療を受けた患者では、他のがん治療を受けた患者と比べて心不全のリスクが2倍高かった。

 

がん患者にとってこの結果は何を意味しているのか

この研究結果は、「化学療法後の長期的リスクに関する情報を既存の知識、それも臨床試験ではなく疫学研究にそのデータを追加していることになり、それゆえ一般的な乳がんやリンパ腫の患者により適用できる可能性がある」とLarsen医師は述べた。

 

臨床試験の多くは心疾患患者を対象から除外している。その結果、危険因子を有する患者で心不全リスクが上昇することを明らかにしていない可能性がある」とMinasian医師は説明した。

 

しかしながら、「乳がんやリンパ腫の患者全てが心不全を発症するわけではない」とLarsen医師は強調した。

 

全体的に見ると、がん治療を受けた患者では7%が心不全を発症しているのに対し、対照群では3%であった。「心不全を発症するのは少数である」という。

 

また、「研究者らの主要な目標は心不全のリスクに気付かせることであり、がんサバイバーには心臓を気遣った生活が送れるよう推奨することである」と付け加えた。心臓を気遣う生活とは、健康的な食生活、体重とストレスの管理、運動の継続、および禁煙が挙げられる。

 

さらに、乳がんやリンパ腫のサバイバーに対しては心不全の徴候や症状がないか、更なる危険因子となる高血圧、糖尿病や喫煙がないかを確認するべきである。これらの危険因子の治療や管理が心不全のリスクを軽減することにつながるかもしれない」とLarsen医師は述べた。

 

さらに「患者は心不全のリスクはがん治療が終わっても続くということを心に留めておくべきである」とMinasian医師は付け足した。

 

心臓への毒性に関する進行中の研究について

研究者らは、がん治療による心機能障害を低減、予防するためのアプローチを積極的に研究している。NCIと国立心肺血液研究所がスポンサーとなったある試験では、アントラサイクリン系抗がん剤治療を受けた乳がん女性で心機能障害を減らす目的で、コレステロール低下作用のあるアトルバスタチン治療を試みている。

 

同じように、ACC(アメリカ心臓病学会)総会で報告された2つの試験では、心疾患用薬剤が、乳がん女性のがん治療で起きる心臓への毒性を回避させる可能性が報告された。

 

一方の試験では、リシノプリルとカルベジロールという薬剤はどちらも、分子標的薬剤であるトラスツマブおよび、アントラサイクリン系の抗がん剤治療を受けた乳がん女性の心臓への毒性を抑制した。またもう一方の試験では、カルベジロールがアントラサイクリン系抗がん剤治療を受けた乳がん女性の心機能障害を低減したという報告であった。

 

「ACCのような組織は、心臓専門医や腫瘍専門医への、がん患者における心不全リスク因子に関する教育を手助けしている。それによって、我々はこのような患者のより良いケアをすることができる」とMinasian医師は述べた。

 

今年始めに、まずは手本として、アメリカ心臓学会が乳がんと心不全についての声明を初めて発表した。

 

その中で、アメリカ心臓学会は、乳がん治療を受けたことのある高齢女性の心臓のリスク因子を管理することの重要性を「もし心血管疾患に気付かずに治療しないとがんそのものよりも健康に対する危険が大きくなる可能性がある」と強調した。

翻訳滝坂 美咲

監修東 光久(総合診療、腫瘍内科、緩和ケア/福島県立医科大学白河総合診療アカデミー)

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