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酸素の「マイクロバブル」で放射線治療がより効果的に?

  • 2018年3月31日
  • 発信元:米国国立がん研究所(NCI)ブログ~がん研究の動向~

マウスにおける新しい研究は、酸素を運ぶ微細な泡が乳がん治療の改善に役立つ可能性を提起している。

 

NCIが支援する本研究で、研究者らは、これらの「マイクロバブル(微小気泡)」と超音波を使用して腫瘍内部の酸素量を増加させた。マウスでは、この処置により、放射線治療の乳腺腫瘍増殖を遅らせる効果が大幅に改善することが明らかになった。また、放射線治療前にマウスを微細な泡で処置すると、この処置を受けなかった場合よりも、進行せずに生存する期間が延長した。

 

今回の新しい研究は、1月21日付International Journal of Radiation Oncology*Biology*Physics誌に発表された。

 

この手法がヒトに応用されれば、「毒性を増さずに腫瘍を治療するという観点から、放射線による『利益』をより多く得ることができるでしょう」と本研究の研究責任者で、トーマス・ジェファーソン大学のJohn Eisenbrey博士は述べた。

 

放射線治療を強化する酸素供給

放射線治療は、現代のがん治療の主流である。例えば、乳がんの女性の約半数は、治療中のある時点で放射線治療を受けることになる。

 

しかし、多くの腫瘍は放射線の細胞致死作用に抵抗性である。この抵抗性の主な原因は、腫瘍によく見られる低酸素である。つまり、放射線治療では、フリーラジカルと呼ばれるがん細胞を殺す分子を生成するために酸素を必要とするが、腫瘍の酸素濃度が低い場合、放射線治療の効果が下がる。

 

何十年もの間、研究者らは腫瘍の酸素量を増やすさまざまな方法を研究してきたと、NCIがん治療・診断部門Radiotherapy Development Branchの主任Eric Bernhard博士は述べた。同博士は本研究には関わっていない。

 

腫瘍内の酸素を増やす方法として、放射線治療前に患者を高圧酸素室に入れることや酸素を運ぶ血流や血液細胞の数を増加させる薬剤の使用などがあると、Eisenbrey博士は説明した。

 

残念ながら、人体は血中酸素濃度を一定に保つようにプログラムされているため、これらの全身的な手法は大部分が失敗したと、同博士は付け加えた。そこで、同博士の研究チームは、マイクロバブル(赤血球大の泡で、医用画像に使用されるもの)が、酸素を腫瘍に輸送するうえで、局所的かつ機械的に機能するかどうかを見極めることにした。

 

最初に、作製したマイクロバブルへの超音波パルス照射により、マイクロバブルがヒトの乳腺腫瘍をもつマウスの腫瘍組織内に酸素を送達できるかどうかを試験した。この目的で、まずマイクロバブルを血流に注入した。マイクロバブルが全身に拡散した後、腫瘍に向けて超音波を照射し、マイクロバブルを「破裂」させて腫瘍組織内に酸素を送った。

 

酸素濃度上昇の検証

その後、機械的プローブと光音響イメージングと呼ばれる画像法の両方を使用して、マイクロバブル注入と超音波照射の前後に腫瘍内の酸素濃度を測定した。

 

このプローブを使用して超音波パルス照射を行うと、腫瘍の酸素濃度が平均して細胞を放射線に敏感にするレベルまで上昇し、2分以上持続することが明らかになった。

 

光音響イメージングにより、腫瘍内の酸素の輸送がヘモグロビンと呼ばれる血流中の分子に依存しないことが示された。Eisenbrey博士によると、研究者らはこの結果を予想していなかった。しかし、ヘモグロビン輸送に依存しないことは、酸素分子がどのようにしてマイクロバブルを運ぶ血管に直接隣接していない腫瘍部位にまで到達するかを説明するかもしれないと、同博士は続けた。

 

「当研究では当初、活発に血液が供給される部位にのみ酸素を送っているという仮説がありました。しかし、実際には、一旦酸素マイクロバブルが破裂すると、(酸素が)血流から離れて腫瘍の酸素欠乏部位に輸送されます」と同博士は述べた。

 

マイクロバブル処置により転帰が改善

次に、研究者らは、マイクロバブル処置により腫瘍の放射線治療に対する感受性が高まるかどうかを検証した。解析のために、同様の担がんマウスを5群に分けた。

 

1つの対照群は放射線治療だけを受けた。2つめの対照群は、酸素マイクロバブルおよび超音波照射を受けたが、放射線治療は受けなかった。3つめの対照群は酸素マイクロバブルおよび放射線治療を受けたが、超音波照射は受けなかった。最後の対照群は、窒素含有マイクロバブル、超音波照射および放射線治療を受けた。実験群は、酸素マイクロバブル、超音波照射および放射線治療を受けた。

 

3つの要素すべての処置を受けた実験群のマウスは、最良の転帰を示した。酸素マイクロバブルの効果は個体間で変動したが、平均して腫瘍の増殖が約1ヵ月遅延し、他の4群と比較して増殖率が低下した。実験群のマウスはまた、がん進行の症状を示さずにより長く生存した。

 

興味深いことに、窒素マイクロバブルの後に放射線治療を受けたマウスは、他の3つの対照群より腫瘍増殖がわずかに減少した。Eisenbrey博士の説明によると、これまでの研究で、マイクロバブルの破裂による機械的損傷それ自体が、放射線に対する感受性を若干高める可能性があることが示されている。

 

この技術をヒトの臨床試験へ応用

放射線治療に対する反応を改善するためのマイクロバブルを使った手法の潜在的な利点は、多くのマイクロバブル製剤が画像診断で使用する目的ですでに米国食品医薬品局によって承認されていることであると、Eisenbrey博士は述べた。それにより、ヒトの臨床試験におけるがん治療の一環としてのマイクロバブル製剤を検討するため、当局の承認を得やすくなる可能性がある。

 

研究チームは肝がん患者ですでにマイクロバブル試験を開始した。しかしこの試験では、マイクロバブルは酸素を送達するのではなく、単にがん細胞に機械的損傷を引き起こす目的で使用されている。

 

Eisenbrey博士は、酸素を運ぶマイクロバブルの手法に関して、ヒトを対象に試験する前に、いくつかの問題を解決する必要があると付け加えた。それは、病院での放射線治療実施に必要な長い時間に合わせて、腫瘍組織内の酸素濃度上昇時間を延長させることなどである。

 

研究チームはまた、膠芽腫、肝がん、および頭頸部がんなど、他の種類のがんモデルでこの手法を検討したいと考えている。

 

「酸素を運ぶマイクロバブルと固形腫瘍への超音波照射による酸素送達の併用は、腫瘍の酸素化を改善し、放射線に対する感受性を高める新しい手法であり、さらなる研究が必要です」とBernhard博士は結論づけた。

翻訳坂下美保子

監修河村光栄(放射線腫瘍学、画像応用治療学/京都大学大学院医学研究科)

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