免疫療法に対する頭頸部がんの反応予測因子を特定

ダナファーバーがん研究所によれば、免疫チェックポイント阻害剤による治療を受けた頭頸部がん患者の対治療反応、予後改善についての予測因子が特定されたという。

標準的なプラチナベースの化学療法に抵抗性を示すがんに対しては、現在、免疫チェックポイント阻害剤として2つの薬剤しか承認されていない。しかし、このような薬剤に対する反応を示す例はわずかにすぎず、しかも、これらの薬剤がどの患者に有効かを予測できるマーカーがないのが現状である。

ダナファーバーがん研究所頭頸部がんセンターの腫瘍内科医であり、JCI Insight誌に掲載された本論文の筆頭著者であるGlenn J. Hanna医師によると、プラチナ抵抗性頭頸部がん患者のおよそ13~18%が免疫チェックポイント阻害剤のペンブロリズマブまたはニボルマブに対して反応を示す(腫瘍が縮小する)とのことである。

Hanna医師によると、頭頸部がんがヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によって引き起こされている例、または腫瘍のPD-L1チェックポイントタンパク質レベルが有意に高い例では免疫チェックポイント阻害剤に対して反応しやすいことが過去の研究で示されているが、常にこれらの因子に基づいて治療法が決定されるわけではない。実際には、「すべての人に免疫チェックポイント阻害剤による治療機会を提供している」としている。

さらに別の生物学的予測指標(予測バイオマーカー)を探索するにあたって、Hanna医師らは、PD-1またはPD-L1免疫チェックポイント阻害剤による治療を受けていた頭頸部扁平上皮がん(SCCHN)患者126人を検討した。これらの免疫チェックポイントはT細胞および腫瘍細胞上にある分子構造であり、これらにより、がん細胞が患者の「対腫瘍免疫反応抑制システム」を構築している。ペンブロリズマブやニボルマブなどの免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイントの「ブレーキ」を解除し、免疫系T細胞を解放することによりがんを攻撃する。

研究者らは、対象となった126人の患者のうち6人(5%)でがんが検出されなくなったことを意味する完全奏効を認めた。また、腫瘍のサイズが縮小したことを意味する部分奏効は11人(9%)でみられた。さらに、彼らはいくつかの解析手法を用い、反応良好または反応不良に関連する因子を調べた。

過去の研究で示されているように、HPV陽性の患者では生存期間が延長した。また、これとは別に、やや意外な結果が明らかになった。免疫療法の前に化学療法を受けていた患者は、免疫療法の前に手術または放射線療法のみ、あるいはその両方を受けていた患者に比べて生存期間が有意に長かったのである(10カ月対3カ月)。この知見により、頭頸部がんに対する免疫療法と関連して、化学療法開始時期の方向付けができるかもしれない、とHanna医師は述べている。

がんがHPVウイルスに起因していなかった患者のうち、total mutational burden(TMB)(腫瘍ゲノムのDNA変化数)が高い頭頸部腫瘍は免疫チェックポイント阻害剤に反応しやすいことを研究者らは発見した。その理由として、多くのDNA突然変異を有するがん細胞が「ネオアンチゲン(新生抗原)」を大量に産生することが考えられる。ネオアンチゲンとは腫瘍を患者の免疫系が認識しやすくするがん特異的タンパク質である。

免疫療法に反応したウイルス陰性患者には、NOTCH1およびSMARCA4遺伝子の突然変異に加え、腫瘍サプレッサー遺伝子におけるフレームシフト突然変異(frameshift mutations)と呼ばれる一種のDNA変化がある可能性が高いことが今回の研究でがわかった。また、治療が奏効した患者の腫瘍には免疫性CD8陽性T細胞が浸潤している傾向がより高く、このことは、患者の免疫系がすでにがん細胞に対する反応を開始していたことを示している。

著者らは「さらなる検証が必要である」としながらも、「今回得られた知見から、SCCHN(頭頸部扁平上皮がん)の免疫療法に対する反応についてのゲノム決定因子について新たな見通しが出てきた」と記している。

予備試験段階とはしながらも、今回の知見は治療法の決定に影響を及ぼし始めるだろう、とHanna医師は述べている。「患者の腫瘍ゲノムデータから、腫瘍がこれらの突然変異を有しているか、あるいは高い突然変異負荷をもっていることが示されれば、治療の初期段階でPD-1/L1阻害剤投与が支持されるかもしれない。」としている。

本論文の統括著者は以下のとおりである。
Laura E. MacConaill、 PhD、 scientific director of Profile, and Robert I. Haddad, MD, disease center leader of the Center for Head & Neck Oncology.

翻訳担当者 工藤 章子

監修 松本 恒(放射線診断・頭頸部インターベンショナルラディオロジー/宮城県立がんセンター 放射線診断科)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

頭頸部がんに関連する記事

FDAが上咽頭がんにトリパリマブを承認の画像

FDAが上咽頭がんにトリパリマブを承認

米国食品医薬品局(FDA)2023年10月27日、米国食品医薬品局(FDA)は、転移性または再発性の局所進行上咽頭癌(NPC)の成人患者に対する一次治療として、シスプラチンおよびゲムシ...
ヨガは放射線治療中の頭頸部がんの治療関連合併症を予防の画像

ヨガは放射線治療中の頭頸部がんの治療関連合併症を予防

米国臨床腫瘍学会(ASCO)ASCOの見解から引用「本結果により、対面またはオンラインで行うヨガ集中介入は、放射線療法中のがん患者だけでなく介護者にも効果があることが認められま...
頭頸部がんに多い治療副作用と口腔マイクロバイオームの関連を発見の画像

頭頸部がんに多い治療副作用と口腔マイクロバイオームの関連を発見

MDアンダーソンがんセンター口腔粘膜炎(口内のただれの発症)は、頭頸部がんによく見られる副作用であり、90%もの患者が罹患する。口腔粘膜炎は、経口摂取困難、体重減少、疼痛や感染症管理の...
成人のHPV関連がん増加を専門家が警告の画像

成人のHPV関連がん増加を専門家が警告

オハイオ州立大学総合がんセンターヒトパピローマウイルス(HPV)関連咽頭・口腔がん発生率の急速な上昇が懸念されている。この傾向が続けば、HPV関連咽頭・口腔がんは近いうちに45~65歳...