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CAR-T細胞免疫療法がASCOアドバンス・オブ・ザ・イヤーに

免疫療法が人命を救う可能性と、連邦政府の資金援助が果たす役割の重要性が、がん医療の進歩に関する年次報告で特集

 

まったく新しいがん治療法であるキメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法が、ある種のがん、または難治性がんの小児や成人に対する展望を変えようとしている。特集で取り上げられているこの種の免疫療法は、米国臨床腫瘍学会(ASCO)年間報告書でアドバンス・オブ・ザ・イヤー(年間で最も大きな進歩)とされた。『世界がんデー』に先立ち本日発行されたClinical Cancer Advances 2018誌の特集記事では、昨年から今年にかけて行われた臨床がん研究や治療法の開発のうち、最も影響が大きかったものとされている。

 

キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞療法は患者自身の白血球を使用し、これを実験室で遺伝的に初期化させてがんと闘わせる治療法である。2017年米国食品医薬品局(FDA)は、急性リンパ性白血病の小児および若年成人患者と、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の成人患者に対する2種類の治療法として、CAR-T細胞療法を承認している。さらに他のがん、とりわけ多発性骨髄腫に対してもこの治療法の研究が進められている。

 

キメラ抗原受容体T細胞療法の出現により、免疫学やがん生物学、遺伝学の基礎研究に対して行われてきた米国国立衛生研究所(NIH)や各大学の医療センター、さらに薬学や生物工学産業による数十年の投資が実を結んだことになる。

 

「この数十年の努力が結実して斬新な治療法が生み出されていること、またその他さまざまなプレシジョン医療による治療が進行がん患者に希望をもたらしていることは、本当に素晴らしいと思います」と、米国臨床腫瘍学会会長でフェロー(FASCO)のBruce E. Johnson医師はこう話している。「こういった治療法を患者にとってさらに身近で受けやすいものにするにはまだ課題が残っていますが、キメラ抗原受容体T細胞療法の有望な結果は大きな衝撃です。がん患者の寿命は新しい治療法で大きく延長されるかもしれません」。

 

新たな解析結果:肺がんに対する免疫療法で生存延べ年数が250,000人年増大

 

免疫療法がさらに進歩したことで患者に対する医療の形も変わりつつある。米国臨床腫瘍学会の報告書にある新しい解析結果では、肺がんに対して米国内で現在承認済みの免疫療法を使用すると、生存延べ年数が25万人年増大できるという。

 

免疫チェックポイント阻害剤は、体内の免疫応答を活性化してがんと闘わせるがん免疫療法の一種であり、進行した肺がん患者に対する治療のあり方を変えている。2015年以来、米国食品医薬品局によりニボルマブ(オプジーボ)、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)、アテゾリズマブ(テセントリク)の3剤が肺がんに対する使用で承認されている。3~5年追跡調査を行う臨床試験で進行した肺がん患者に免疫チェックポイント阻害剤を投与した結果、化学療法を受けた患者よりも平均して生存期間が延長された。しかし、この治療法が長期生存に及ぼす影響についてはまだわかっていない。

 

長期生存に及ぼす免疫療法の潜在的な影響について知見を得るため、米国臨床腫瘍学会のCenter for Research and Analytics (CENTRA)は、臨床試験で一次治療か二次治療として免疫チェックポイント阻害剤を投与した患者の、3年生存と5年生存データおよび発がん率を使用した統計モデルを開発した。このモデルは米国の非小細胞肺がん(NSCLC)患者の年齢と人種分布、さらにその平均余命を考慮に入れたものである。

 

このモデルで計算すると、進行した肺がん患者が米国で毎年10万人いたと仮定し、その全員に対して現在適応となっているチェックポイント阻害剤を投与した場合、生存延べ年数が25万人年増大されるという。さらに新たにがんと診断された患者4人に1人、過去に治療を受けた患者10人に1人が、従来のがん治療を受けるよりも生存期間が長くなると予想され、一部の患者は治療開始後5年を超えてなお生存可能であるという。

 

その一方で、標準的な化学療法を行った患者が診断時から4年を超えて生存する確率は10%未満であり、10年時の生存率は1%にも満たない。

 

がんとの闘いの進捗傾向

 

精密医療による治療法で大きな収穫があったのに加え、Clinical Cancer Advances 2018誌で以下広範な進捗状況について特集されている。

 

米国でがん生存者が増大…1500万人の米国民(概ね20人に1人)ががん生存者であり、医療専門家の推計では2040年までに2600万人に達するとみられている。

長期生存の増加…2005年にがんと診断された米国人患者の約64%が診断時から10年を越えて生存しており、1975年ではこれが35%であった。

がん研究の加速…医学雑誌へ投稿されるタイトルに「がん」を含む論文の数が、2007年から2017年にかけておよそ28,000から120,000と過去10年で約4倍になった。

患者に適用できる治療法の増加…この1年では、米国食品医薬品局によって新たに18種類のがん治療法と13種類の使用法が16種類を超えるがんに対して承認された。(前年の同期間で新たに承認されたのは、8種類のがん治療法と13種類の使用法)

 

「本報告書に記載されている研究の進捗を振り返ってみると、患者さんたちの動向には実に興奮しています」Clinical Cancer Advances誌の編集長補佐であるJohn Heymach医学博士はこう述べている。「この進捗速度を維持するためには、がんの予防や治療の検診、さらにサバイバーシップについてなど、多方面におけるがん研究に対して投資を継続していく必要があります」。

 

連邦研究投資が臨床分野に与える影響

 

米国臨床腫瘍学会の報告書によれば、国家の継続的な投資がなければ過去50年間におけるがん研究分野での飛躍的な研究結果は達成できなかったという。Clinical Cancer Advances 2018誌の報告で最大級の進捗とされているもののうち、米国国立衛生研究所(NIH)やその他連邦機関から資金援助を受けているものは25%を超える。事実、ASCOアドバンス・オブ・ザ・イヤーとなったキメラ抗原受容体T細胞療法の早期研究にとって、連邦当局の投資は決定的な役割を果たしている。

 

がんに対する研究が継続して進捗していくには、安心して取り組めるような連邦機関の力強い援助が必要であり、91%の米国民ががんの診断や予防、治療のために政府がまとまった資金援助を行うことに賛成している。さらに米国臨床腫瘍学会が行った2017年全国がん意識調査によれば、概ね4人に3人(73%)の米国民が、増税や財政赤字を招くものであったとしても、政府ががんの治療法や医療をさらに開発するべきであると発言している。

 

米国国立衛生研究所や米国国立がん研究所(NCI)に対する2017年度の投資は膨らんでいるが、NCIの予算総額はインフレ補正を施すと景気後退前の水準より依然として低い。資金を増やさなければ若い研究者を採用または業界内に留保することが困難となり、技術革新や新たな研究の立ち上げ、新しい発見などが先細りしていく。

 

「がん研究の技術革新に対する投資が支持され続けていくかどうか、米国民は議会を注視しています」Johnson医師はこう話す。「革新的ながん治療が今後も進歩し続けていくかどうかは議会次第です」。

 

Clinical Cancer Advances誌は20人の編集委員会で立ち上げられ、現在創刊13年目を迎えている。前述の報告書はオンラインのサイトasco.org/CCAおよびJournal of Clinical Oncology誌のascopubs.org/journal/jcoで公表されている。

 

読者の皆様へ(英文サイト)

動画:キメラ抗原受容体T細胞療法のしくみ

Cancer.Net:免疫療法とは

Cancer Perspectives:キメラ抗原受容体T細胞療法

翻訳岡部師才

監修勝俣範之(腫瘍内科/日本医科大学武蔵小杉病院)

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原文掲載日

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