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泌尿生殖器がんにおける免疫チェックポイント阻害薬

MDアンダーソン OncoLog 2018年1月号(Volume 63 / Issue 1)

 Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL

 

膀胱、腎臓、前立腺がんを対象とした免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験

免疫チェックポイント阻害薬は、一部の泌尿生殖器がんの治療に革命をもたらしつつある。しかし、すべてのがん種に効果があるわけではなく、効果が短期間しか続かないこともある。泌尿生殖器がん患者の奏効率と奏効期間を改善させるべく、膀胱がん、腎臓がん、前立腺がんの患者を対象として、新たな免疫チェックポイント阻害薬、異なる免疫経路を標的とする薬剤、および今までにない薬物併用療法の臨床試験で、患者登録が行われている。

 

免疫チェックポイント阻害薬は、CTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球抗原4)、PD-1(プログラム細胞死タンパク質1)、PD-L1(PD-1リガンド)などのタンパク質を阻害することによって、T細胞ががんと闘う能力を高めるものである。これらのタンパク質はいずれも、T細胞ががん細胞を発見して破壊することを妨げる。数種類のPD-1/PD-L1阻害薬が膀胱がんと腎臓がんの治療として米国食品医薬品局(FDA)に承認されているが、これまでのところ、前立腺がんには免疫チェックポイント阻害薬はあまり効果がみられなかった。

 

現在進行中の一連の臨床試験で、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、異なるがん種がどのように免疫療法に反応するか、泌尿生殖器がんの免疫療法薬への反応を高めるにはどうしたらよいかを調べている。「われわれは、膀胱がんや腎臓がんに対する単剤療法で承認されている免疫チェックポイント阻害薬を、他の薬剤と組み合わせています」と、泌尿生殖器腫瘍学・免疫学(Genitourinary Medical Oncology and Immunology)部門の教授で、MDアンダーソン免疫療法プラットフォーム科学ディレクターを努めるPadmanee Sharma医学博士はいう。「そして、免疫チェックポイント阻害薬の前立腺がんに対する効果を高められるような戦略を立てました」。

 

膀胱がん

昨年、転移性膀胱がんの治療に5種類の免疫療法薬がFDAに承認された。これらの薬剤はこの20年で初めて膀胱がんの治療薬として承認されたものである。泌尿生殖器腫瘍学部門の助教であるJianjun Gao医学博士はいう。「この領域の専門家はこの承認に熱狂しました。しかし、当初の熱狂がおさまり、5つの薬剤を個別に見てみると、奏効率は15~25%程度だったのです。これらの薬剤を複数組み合わせることによって、奏効率が改善することを期待しています」。

 

Gao博士は、転移膀胱がん患者の二次治療としてFDAに承認されたPD-L1阻害薬デュルバルマブと、CTLA-4阻害薬トレメリムマブを併用する臨床試験(No. 2016-0033)の主任研究者である。この試験では、筋層浸潤尿路上皮がん患者で、腎機能低下、難聴、神経障害、あるいは心不全(いずれも標準治療であるシスプラチンベースの化学療法が禁忌となる)がある場合に、術前補助化学療法として両剤を併用投与する。

 

Gao博士はこのように述べている。「尿路上皮がん患者の40%が筋層浸潤がんで、術前補助化学療法を必要としています。しかし患者の多くは、標準のシスプラチンを含む術前化学療法が禁忌となるような併存疾患があり、代わりの治療を開発することが急務なのです。この試験で用いる免疫療法薬にはいずれも、聴覚機能と腎機能への重大な影響は知られていません」。

 

Gao博士のチームはこの試験の一環として、治療前の生検検体と、根治的膀胱切除後に採取した治療後検体とを比較することにしている。

 

Gao博士によると、「これらの免疫療法薬は腫瘍の微小環境で免疫の変化を引き起こします。治療応答のメカニズムや、治療に応答しない患者での抵抗性のメカニズムについての知見が得られるかもしれません」。

 

術前免疫療法前と完了後に採取した血液検体の分析も行う予定である。血液および腫瘍検体に免疫学的変化がないか、免疫療法プラットフォームの研究者らが探索する。

 

腎臓がん

現在までに、腎臓がんに承認された免疫チェックポイント阻害薬は1種類のみである。FDAは、血管新生阻害薬での治療中に疾患が進行した転移性腎細胞がんの患者の治療に、PD-1阻害薬ニボルマブを承認した。この承認は、ニボルマブを標準治療のエベロリムスと比較した多施設共同第3相試験(CheckMate 025、No. 2012-0869)の結果に基づいている。Sharma博士は、MDアンダーソンでこの試験の主任研究者を務めており、ニボルマブを投与した患者の全生存期間中央値がエベロリムスを投与した患者より有意に長いことを示した論文の筆頭著者である。

 

「免疫チェックポイント阻害薬による治療が、転移腎臓がんの二次治療として確立したので、次は免疫チェックポイント阻害薬と転移がんに対する他の治療を組み合わせる戦略を試みています」とSharma博士は述べている。同医師は現在、腎臓がん患者を対象としたこのアプローチによる2つの臨床試験の主任研究者である。

 

うち1つの試験(No. 2013-0715)では、免疫チェックポイント阻害薬またはVEGF(血管内皮増殖因子)阻害薬による治療歴のない転移性腎臓細胞がんの患者を登録している。患者はニボルマブのみの群、ニボルマブとVEGF阻害薬ベバシズマブの併用群、あるいはニボルマブとCTLA-4阻害薬イピリムマブの併用群にランダムに組み入れられる。治療後、全患者に対して、転移病変の生検か、転移病変または患側腎の切除手術を実施する。

 

研究者らは、3つの治療群の有害事象と客観的奏効率(完全奏効および部分奏効)を評価するとともに、相関研究で治療前と治療後の検体を分析し、臨床応答または抵抗性のバイオマーカーを探索する。この試験の共同研究者であるGao博士は、「異なる経路を標的とする複数の薬剤を併用するこの試験では、臨床転帰と免疫学的データの両方を評価します。これは、膀胱がんの術前補助療法を対象とするわれわれの試験コンセプトと類似するものです」と述べている。

 

この試験の評価可能な患者60名による予備解析では、3つの治療法はいずれも忍容性が概ね良好であり、有望な臨床活性を示した。Gao博士とSharma博士らの研究チームは、この予備的な知見について2017年の米国癌学会年次総会で発表した。

 

免疫チェックポイント阻害薬による治療で、もう1つの進行中の試験(No. 2013-0539)では、腎細胞がん患者で、凍結療法が施行可能な少なくとも1つ以上の転移病変がある患者を登録している。患者はトレメリムマブのみの群と、トレメリムマブ投与後に1つの転移病変に凍結療法を施行する群のいずれかにランダムに組み入れられる。その後、全患者に対して、転移病変の生検か、転移病変または患側腎の切除手術を実施する。

 

患者は病勢進行または許容できない毒性作用が発現するまでトレメリムマブの投与を継続できる。この試験の主任研究者であるSharma博士らのチームは、本試験の2つの治療群の患者の臨床転帰を評価する。

 

前立腺がん

「これまでのところ、前立腺がんの患者では、免疫チェックポイント阻害薬単剤では、他のがんより低い奏効率に留まっています」と泌尿生殖器腫瘍学部門助教のSumit Subudhi医学博士はいう。「われわれは、その理由を解明しようとしています」。

 

その目標のために、Subudhi博士、Gao博士、Sharma博士らのチームは、前立腺がんの原発巣および転移巣の微小環境を調べた。その知見から、免疫チェックポイント阻害薬を用いた3種類のアプローチの臨床試験が生まれた。すなわち、ホルモン療法に対する応答によって患者を選択する、CTLA-4経路とPD-1/PD-L1経路の両方を標的とする、T細胞のみでなくマクロファージを焦点とするというアプローチである。

 

免疫療法とホルモン療法

転移性前立腺がんの治療戦略のバックボーンとなるのは、テストステロンの産生を抑制するか、テストステロンがアンドロゲン受容体に結合するのを阻害するホルモン製剤である。精巣のテストステロン産生を阻害するホルモン療法とイピリムマブとを併用する最近の試験(No. 2009-0378)では、転移性前立腺がん患者24名中10名で前立腺特異抗原(PSA)値が検出限界以下となるという試験エンドポイントを達成した。しかし、12名にグレード3の毒性作用が発現したため、試験は早期に中止された。2009-0378試験の開始以降、この種の薬物併用療法で生じる毒性作用を回避し管理する方法についての知見が蓄積されており、イピリムマブと他のホルモン製剤を併用する新たな臨床試験が進行中である。

 

泌尿生殖器腫瘍学部門准教授のAna Aparicio医師が主任研究者を努めるDynaMO試験(No. 2014-0386)では、遠隔転移を伴う去勢抵抗性前立腺がんの患者にまず最大限にホルモンを遮断する療法を実施する。
この治療法は、試験段階のアンドロゲン受容体拮抗薬apalutamide(ARN-509)と、アンドロゲン合成酵素CYP17A1阻害薬アビラテロンを併用する。

 

8週間の治療後、血清マーカー(例えば、PSA値と 末梢循環腫瘍細胞[CTC]数)、放射線画像所見、臨床症状の変化を組み合わせて、初期応答を評価する。PSA値が50%以上低下し、CTC数が良好で、病勢進行を示唆する臨床徴候または画像所見がない場合に、満足のいく応答と定義する。

 

満足のいく応答を示した患者を、apalutamideとアビラテロンにイピリムマブを追加する群と、イピリムマブを追加せずにapalutamideとアビラテロンを継続する群にランダムに割り付ける。Subudhi博士は、満足のいく応答に分類されない患者であっても、その約95%がこの治療法から利益を得ていることに注目した。したがって、満足のいく応答が得られない患者にはapalutamideとアビラテロンを継続し、標準的な化学療法薬(カバジタキセルおよびカルボプラチン)を追加した。

 

試験の主要評価項目は薬剤の組み合わせごとの全生存期間と毒性プロファイルである。

 

Subudhi博士によると、「これまでの試験から、最大限にホルモンを遮断する療法で患者の約70%に満足のいく応答が得られることがわかっています。この試験で免疫チェックポイント阻害薬治療を受ける患者さんは、最長の全生存期間が得られるという仮説を立てています」。

 

PD-1経路とCTLA-4経路を標的に

これまでの試験でPD-1/PD-L1阻害薬が前立腺がんに有効でなかった理由として、前立腺がん細胞と周囲の免疫細胞がどちらのタンパク質も通常は高発現していないことが挙げられる。しかし、Subudhi博士によると、「前立腺がんの微小環境で、特定薬剤に対する治療抵抗性のメカニズムとして、PD-1とPD-L1が上方制御されていることがわかりました」。例えば、イピリムマブを単剤で投与すると、前立腺がん微小環境でPD-1とPD-L1の発現が増加する(図参照)。この知見は、前立腺がん患者を対象とする新たな2つの臨床試験で、CTLA-4経路とPD-1/PD-L1経路を標的とするチェックポイント阻害薬を組み合わせる理論的な根拠となっている。

 

「マウスの研究では、ニボルマブとイピリムマブ、またはデュルバルマブとトレメリムマブといった組み合わせが前立腺がん患者の一部に奏効する可能性が示されています。したがって、これらの試験では、これらの薬剤を単剤で投与する試験よりも、持続的効果(durable response)が得られる患者の比率が高くなることを期待しています」とSubudhi博士は述べた。

 

1つ目の試験(No. 2016-0848)は、遠隔転移を伴う去勢抵抗性前立腺がんの患者を対象とした第2相試験であり、ニボルマブとイピリムマブを最大4回投与したのちに、病勢進行または許容できない毒性作用が発現するまでニボルマブの単剤療法を継続する。この試験の主要評価項目は、「固形がんの治療効果判定のためのガイドライン」(RECISTガイドライン)に基づく客観的奏効率と、無増悪生存期間である。主任研究者のSharma博士は、2018年後半に予備的な結果を発表できると考えている。

 

2つ目の試験(No. 2016-0769)は、デュルバルマブとトレメリムマブの併用投与を4カ月間、最大4回投与したのち、デュルバルマブ単剤療法を9カ月間おこなう予備試験である。この試験の主要評価項目は毒性作用であり、副次的評価項目はPSA値の変化によって評価する無増悪生存期間である。また、薬物が骨の微小環境に及ぼす影響を調べるために、予備試験の参加者全員に一連の骨生検を実施している。「前立腺がんが転移する場合、その80%は骨への転移です。われわれの最新データから、骨における免疫微小環境は、前立腺内とは大幅に異なることが示唆されます」とSubudhi博士はいう。

 

骨転移のみの患者は多くの試験で除外されていたため、骨生検からは、以前の研究では得られなかった貴重な情報が得られる可能性がある。

 

マクロファージを標的に

Subudhi博士は、マクロファージを標的とする薬剤と免疫チェックポイント阻害薬との組み合わせから、前立腺がん患者が利益を得られる可能性があると考えている。 例えば、CD38発現免疫細胞(マクロファージ含む)とがん細胞を枯渇させるダラツムマブは、多発性骨髄腫の治療のためFDAに承認された。

 

Subudhi博士によると、「マクロファージには善玉と悪玉があるのです。われわれの研究から、前立腺がんではこのような悪玉マクロファージが多くなることがわかりました」。

 

Subudhi博士は、前立腺がん患者を対象としたダラツムマブの予備試験(No. 2017-0103)の主任研究者である。試験への組み入れ基準を満たすのは、高リスク(グリソンスコア8以上の生検コアが1つ以上)の限局した前立腺腺がん患者で、小細胞がん、移行細胞がん、神経内分泌がんの患者は除外される。この試験に参加する患者は、根治的前立腺摘除術と骨盤内リンパ節郭清の候補者となる必要がある。患者全員に対し、術前に週1回4週間ダラツムマブを投与する。

 

Subudhi博士によると、前立腺がんの腫瘍関連マクロファージに発現するCSF1R(マクロファージコロニー刺激因子1受容体)を阻害する薬剤を追加するよう試験プロトコールを改訂中である。

 

この試験の評価項目は、毒性作用と、手術検体に残存腫瘍がないことと定義される病理学的完全奏効である。Subudhi博士は、マクロファージを標的とする治療が一部の患者に利益をもたらすことを期待しているが、前立腺がん患者を対象としたダラツムマブや類似薬の今後の試験に、免疫チェックポイント阻害薬が含まれる可能性がある。「マクロファージを標的とする治療と、T細胞を標的とする治療を併用する必要があるかもしれません」とSubudhi博士は述べた。

 

この分野を前進させる

Gao博士、Sharma博士、Subudhi博士は、標的の異なる免疫チェックポイント阻害薬同士、あるいは免疫チェックポイント阻害薬と他の治療を組み合わせることによって、泌尿生殖器がん患者の奏効率と奏効期間が改善することを期待している。

 

Sharma博士はいう。「泌尿生殖器がんの免疫療法の試験が進行中であることを、医師にも患者にも知ってほしいのです。この領域を前進させ、泌尿生殖器がんの有効な免疫療法戦略を確立したいと考えています」。

 

キャプション訳(上段)】

CTLA-4阻害薬イピリムマブによる治療前(左)と治療後(右)の前立腺がん組織の免疫組織化学染色画像。PD-1(上段)とPD-L1(下段)の発現がいずれも増加(褐色)している。
(画像提供:Sumit Subudhi博士)

キャプション訳(下段)】

CTLA-4阻害薬イピリムマブでの治療前(左)および治療後(右)の前立腺がん組織に蛍光多重免疫染色により、腫瘍の核(青色)、CD68(黄色)、CD163(緑色)、PD-L1(白色)を示した。
PD-L1の高発現は、イピリムマブ抵抗性における抑制的な分子の役割を示しており、PD-1/PD-L1阻害薬との併用療法が必要であることを示唆している。
画像提供:Sumit Subudhi博士

 

For more information, contact Dr. Jianjun Gao at 713-563-4195 or jgao1@mdanderson.org, Dr. Padmanee Sharma at 713-792-2830 or padsharma@mdanderson.org, or Dr. Sumit Subudhi at 713-792-2830 or sksubudhi@mdanderson.org. To learn more about clinical trials for patients with genitourinary cancers, visit www.clinicaltrials.org and search by trial number or cancer type.

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翻訳月橋 純子

監修榎本  裕(泌尿器科/三井記念病院)

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