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悪性褐色細胞腫と交感神経性傍神経節腫の研究

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悪性褐色細胞腫と交感神経性傍神経節腫の研究

MDアンダーソン 月刊OncoLog誌2017年8月号

MDアンダーソン OncoLog 2017年8月号(Volume 62 / Issue 8)

 Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL

希少な神経内分泌腫瘍患者に対する治療選択肢の拡大をめざす臨床試験

悪性褐色細胞腫と交感神経性傍神経節腫の罹患者は、米国で年にわずか100〜200人ほどにすぎない。しかし、ひとたびこれらの神経内分泌がんに罹ると5年生存率がたった60%にとどまり、有効な治療選択肢は限られている。テキサス大学MDアンダーソンがんセンターでは、複数の新規治療の臨床試験を実施中で、手術によって悪性褐色細胞腫や交感神経性傍神経節腫の患者の生存期間が延長され転帰が改善されるかどうかも調べている。

 

先行研究によれば、悪性褐色細胞腫や傍神経節腫などに対する化学療法または放射性医薬品を用いた標準治療の奏効率は、30%前後であった。手術も治療選択肢のひとつであるが、常に施行できるとは限らない。また、手術が生存率に寄与するかどうかはつい最近まではっきりしなかった。

 

残念ながら、悪性褐色細胞腫や傍神経節腫に罹る患者が少数であることが研究の進展を妨げてきた。「現在、悪性褐色細胞腫と傍神経節腫の患者だけに特化した臨床試験を複数実施している施設は、ここだけです」と、内分泌腫瘍・内分泌疾患部門の助教授であるCamilo Jimenez医師は述べた。Jimenez氏の研究チームは、目下の研究により希少内分泌腫瘍患者の予後が改善されることを期待している。

 

薬剤試験

Ultratrace型I-131ヨーベングアン

30年前から臨床で用いられている分子標的放射性医薬品ヨウ素131(I-131)ヨーベングアン(iobenguane)は、褐色細胞腫と傍神経節腫の画像化と治療を目的に使用されてきた。この薬は、細胞膜ノルエピネフリン・トランスポータ(輸送体)を経由して癌細胞に取り込まれる。画像診断の造影補助剤として、I-131ヨーベングアンは癌がどこにあるか、また癌が薬を取り込んでいるかどうかを示す。腫瘍がヨーベングアンをしっかり取り込んでいることが画像診断でわかる患者には、もっと高用量を治療薬として投与し、癌細胞を殺傷することも可能である。

 

しかし、従来型のI-131ヨーベングアンには大半の分子に放射能がないという制約がある。「従来型のヨーベングアンには、非放射性のくせに生物活性はある、つまり副作用をもたらすキャリアー(運搬役)分子がたくさんあります」とAaron Jesop医師は述べた。彼はつい最近までMDアンダーソンがんセンター核医学部門の准教授であったが、現在は他施設に移籍している。「できるかぎり攻撃的に、でも不相応な誤爆はしないで患者を治療していることを、われわれは確かめたいのです」とJesop氏は語った。

 

Ultratrace技術を使用したI-131ヨーベングアンは、非放射性分子の数を最小に抑える製造工程によって、元の薬剤の効率の悪さを克服している。「従来型ヨーベングアンに比べて、この新型はずっと腫瘍特異的なのです。したがって、薬用量当たりで腫瘍に送達される放射能がずっと高くなります」とJimenez氏は言った。

 

Jimenez氏は、ヨーベングアン吸収性の転移性または再発性褐色細胞腫または傍神経節腫の患者に対するUltratraceの第2相試験の臨床試験責任医師である。これまでのところ、Ultratraceは患者の忍容性が高い。また、腫瘍縮小率と高血圧治療薬の必要量減少を指標とする評価によって、有意な抗腫瘍活性が示された。

 

このように中間結果が有望であったため、再発性または難治性の悪性褐色細胞腫または傍神経節腫の患者に対する適応症拡大試験 (番号2009-0210) が開始された。拡大試験はMDアンダーソンがんセンターその他の施設で進行中である。放射性医薬品Ultratraceは米国食品医薬品局(FDA)による認可が見込まれているが、拡大試験を通じて認可前使用ができる。

 

カボザンチニブ

悪性褐色細胞腫と傍神経節腫の患者を対象にMDアンダーソンで進行中のもう一つの第2相試験(番号2014-0081)は、チロシンキナーゼ阻害剤カボザンチニブの試験である。カボザンチニブは、甲状腺髄様がんと腎がんの治療薬としてすでにFDAに認可されている。「この薬はcMET受容体を阻害します。cMET受容体は腫瘍の転移、増殖、生存機構の要であり、腫瘍が他の薬物に抵抗性になるときに上方調節されて働きが強くなります」試験責任医師の Jimenez氏はこう続けた。「したがって、がんが治療抵抗性になるのを防止するためにカボザンチニブが使えるかも知れません」

 

この試験は、切除不能で転移のある褐色細胞腫または傍神経節腫の患者を組み入れ中である。カボザンチニブは骨の健康度を高める可能性もあるため、この試験は探索的コホートとして、転移が完全にまたは主として骨だけに限定されている患者も組み入れている。これは、臨床試験から除外されている場合が多い患者群である。

 

これまでのところ、この試験で治療を受けた患者の90%において、腫瘍の大きさが縮小した。また、症状の改善もみられた。「カボザンチニブは、悪性褐色細胞腫や傍神経節腫の患者のうちの少なからぬ方々のお役に立つ薬だと、われわれは確信しています」とJimenez氏は語った。

 

ペンブロリズマブ

褐色細胞腫などを対象に臨床試験中の3つ目の治療法は、免疫療法である。PD-1(プログラム細胞死タンパク質1)阻害剤ペンブロリズマブの第2相試験(番号2015-0948)が、現在、悪性褐色細胞腫や傍神経節腫などの希少な進行性腫瘍の患者を組み入れ中である。

 

「この臨床試験によって、悪性褐色細胞腫と傍神経節腫の患者に対するペンブロリズマブの有効性について、かつてない決定的な情報が得られるでしょう」内分泌新生物・内分泌疾患部門の准教授であるMouhammed Habra医師はさらにこう続けた。「この試験の結果を基礎として、今後は、悪性褐色細胞腫や傍神経節腫に対する免疫療法の臨床試験がもっと行われるのではないでしょうか」。

 

手術の適応拡大

新薬を用いた治療はまだ広く一般に行われているわけではない。しかし、適切に患者を選択すれば、悪性褐色細胞腫と傍神経節腫を手術で治療することができる。他のがんと同様に、悪性褐色細胞腫や傍神経節腫に対する手術ができるか否かは、腫瘍がどれだけ拡がっているかにかかっている。局所腫瘍の患者にとって、「長期生存のためには手術が最適の治療選択肢である例が多いのです」とHabra氏は述べた。

 

しかしながら、「初診で遠隔転移が見つかったり、あるいは局所腫瘍であるものの非常に浸潤の程度が重かったり悪性度が高かったりする患者の場合、外科的切除による延命はおそらく期待できないでしょう」と腫瘍外科の内分泌外科准教授であるPaul Graham医師は述べた。腫瘍が大きすぎて手術ができない場合、先々いずれ手術を選択肢として考慮することができるように、腫瘍を安定化させるまたは縮小することを期待して、まず初めに内科治療から開始することがある。転移がある患者も、カテコールアミン産生過剰の症状緩和を目的として原発部位の切除を行うことがある。

 

転移がある褐色細胞腫と傍神経節腫患者の生存率に対する手術の効果を判定するために、Habra医師、Jimenez医師らの研究班は、原発部位の切除を行った患者と切除しなかった患者の全生存期間を比較した。この後ろ向きのデータ解析によれば、原発部位の切除は、相対的に長い生存期間と関連があった(グラフを参照)。また、ホルモン活性がある患者では、カテコールアミン産生過剰の症状改善とも関連していた。これらの研究結果は、悪性褐色細胞腫や傍神経節腫の患者に対して、従来以上に広い範囲の患者に手術が有用である可能性を示唆している。しかし、原発部位切除が転移のある患者にもたらす利益をしっかりと十全に判定するためには、前向き研究が必要である。

 

広がる治療選択肢

MDアンダーソンと研究協力施設で悪性褐色細胞腫や傍神経節腫の臨床試験が進められ専門力量が蓄積されつつある結果、これらの希少腫瘍の患者に対する新たな治療法が開けつつある。「史上初めて、従来の化学療法よりも毒性が低いと思われる治療選択肢がいくつかできました。このような選択肢があることは、悪性褐色細胞腫や傍神経節腫などの患者が無理なく耐えられる程度に良好な生活の質を保ちながら生存期間を延長する助けとなると思います」とJimenez氏は述べた。

 

現在進行中の臨床試験はまた、どの患者がどの新規治療を受けるべきか判定する一助ともなる。「ある治療がどの患者に効くかを示す予測因子が判明すれば、ある薬剤または薬剤群の臨床研究に特定の患者を組み入れたり除外したりすることが可能になります。ある治療に反応しない患者は試験から外したうえで、もっと有効な別の治療法を探索することになるでしょう」とHabra氏は話した。

 

 遺伝子検査 (囲み記事より)

悪性もしくは良性の褐色細胞腫と交感神経性傍神経節腫を管理するにあたって、遺伝的背景は考慮すべき重大事項である。「家族や患者自身の既往歴、年齢、疾病の特徴にかかわらず、褐色細胞腫または傍神経節腫の患者は全員、遺伝カウンセリングを受けて遺伝子検査をするか検討するように指示されます。というのも、これらの患者の30%〜40%は遺伝的素質が背後にあるからです」と臨床腫瘍遺伝学科の遺伝カウンセラーであるSamuel Hyde氏(医科学修士)は述べた。

 

褐色細胞腫または傍神経節腫の患者が検査をして、その疾病と関連がみとめられる遺伝的要因が陽性であると判定された場合、その患者は他の腫瘍のリスクも高い可能性がある。したがって、長期経過観察は間隔をあけずに実施する。「これらの遺伝的要因がある患者は、他の人よりも頻回に来院しなければなりません。身体の別の部位に腫瘍がないかスクリーニング検査を受けたり、その他の血液検査を受けたりする必要があります」とHyde氏は述べた。疾病関連の遺伝的要因があるということは、家族もまた、当該の変異がないか検査すべきであるということを意味する。

 

MDアンダーソンを受診する褐色細胞腫、傍神経節腫、その他の神経内分泌腫瘍患者の患者が相当数に上るため、Hyde氏は、その疾患領域の進歩に後れをとることなく、これらの希少内分泌腫瘍患者に対する遺伝子検査の専門力量をつけることができた。「家族や個人の病歴には、往々にして細かい機微があります。それに気づくことができれば、ある要因ではなく別の要因を濃厚に疑うことができます」とHyde氏は話した。

 

褐色細胞腫と傍神経節腫に関連する遺伝的要因にはSDHB、SDHC、SDHD、SDHAF2などの変異があり、それぞれ、特定の疾患表現型のリスクが高くなる。褐色細胞腫と傍神経節腫に関連する上記その他の変異に関する知見はますます増大しつつある。また、変異を見つけるツールが一度に判定できる遺伝子の数も増えている。

 

MDアンダーソンがんセンターで遺伝カウンセリングや遺伝子検査を受けたい患者は、自分でオンラインのフォーム(https://my.mdanderson.org/RequestAppointment)に記入するか、臨床センター遺伝プログラム(855-711-9908)にお電話ください。

 

【グラフキャプション訳】

後ろ向き試験において、原発腫瘍の姑息的切除を受けた転移性褐色細胞腫または傍神経節腫の患者(緑線、n=28)は、手術を受けなかった患者(青線、n=24)よりも全生存期間中央値が長かった。Roman-Gonzalez A氏ほかの許諾を得て作図。

 

【画像キャプション訳】

転移性褐色細胞腫患者の全身Ultratrace I-131ヨーベングアン画像の前側(左図)と後側(右図)。腹部と骨盤腔の腫瘍浸潤がみられる。画像提供:Aaron Jessop医師

 

FURTHER READING

Roman-Gonzalez A, Jimenez C. Malignant pheochromocytoma-paraganglioma: pathogenesis, TNM staging, and current clinical trials. Curr Opin Endocrinol Diabetes Obes. 2017;24: 174–183.

Roman-Gonzalez A, Zhou S, Ayala Ramirez M, et al. Impact of surgical resection of the primary tumor on overall survival in patients with metastatic pheochromocytoma or sympathetic paraganglioma. Ann Surg. 2017. doi: 10.1097/SLA.0000000000002195. [Epub ahead of print]

For more information, contact Dr. Paul Graham at 936-446-5246 or phgraham@mdanderson.org, Dr. Mouhammed Habra at 713-792-2841 or mahabra@mdanderson.org, or Dr. Camilo Jimenez at 713-792-2841 or cjimenez@mdanderson.org. To learn more about the ongoing clinical trials for patients with pheochromocytoma or paraganglioma, visit www.clinicaltrials.org and select study No. 2009-0210, 2014-0081, or 2015-0948.

The information from OncoLog is provided for educational purposes only. While great care has been taken to ensure the accuracy of the information provided in OncoLog, The University of Texas MD Anderson Cancer Center and its employees cannot be held responsible for errors or any consequences arising from the use of this information. All medical information should be reviewed with a health-care provider. In addition, translation of this article into Japanese has been independently performed by the Japan Association of Medical Translation for Cancer and MD Anderson and its employees cannot be held responsible for any errors in translation.
OncoLogに掲載される情報は、教育的目的に限って提供されています。 OncoLogが提供する情報は正確を期すよう細心の注意を払っていますが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターおよびその関係者は、誤りがあっても、また本情報を使用することによっていかなる結果が生じても、一切責任を負うことができません。 医療情報は、必ず医療者に確認し見直して下さい。 加えて、当記事の日本語訳は(社)日本癌医療翻訳アソシエイツが独自に作成したものであり、MDアンダーソンおよびその関係者はいかなる誤訳についても一切責任を負うことができません。

原文掲載日

翻訳盛井 有美子

監修中村 能章(消化管悪性腫瘍/国立がん研究センター東病院 消化管内科)

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