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HERA試験後10年:HER2陽性早期乳がんの術後療法の現在

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HERA試験後10年:HER2陽性早期乳がんの術後療法の現在

欧州臨床腫瘍学会(ESMO)

HER2陽性乳がんは、すべての浸潤性乳がんの約20%を占める。1980年代後半にこの受容体が同定されたことにより、乳がんの治療が劇的に進歩し、HER2増幅/過剰発現患者の予後が著しく改善された。 乳がんでは、HER2はHER2標的治療による利益の確立された予測バイオマーカーであり、最も広く使用されているのがトラスツズマブである。

 

術後補助療法において、トラスツズマブはHER2陽性乳がん患者の転帰を有意に改善した[1]。術後トラスツズマブ療法の有効性と安全性を調べる重要な研究の1つがHERA試験であった[2]。この多国間非盲検、第3相臨床試験では、HER2陽性早期乳がん患者5102人を化学療法単独、化学療法後のトラスツズマブ1年投与、化学療法後のトラスツズマブ2年投与の3つの治療群に無作為に割り付けた。最近発表された長期追跡解析によれば、中央値11年の追跡期間において、トラスツズマブ1年投与群では79%が生存(HR 0.74、95%CI 0.64-0.86、化学療法単独群と比較して絶対差6.5%の改善)、69%が再発または死亡なし(HR 0.76、95%CI 0.68-0.86、化学療法単独群と比較して絶対差6.8%の改善)であった。この利益は、ホルモン受容体陽性および陰性の両方の乳がんを有する患者において観察された。この長期追跡調査後に新規の安全性シグナルは報告されなかった。トラスツズマブ投与患者において特に関心が寄せられる有害事象には心毒性があり、最もよくみられるのが無症候性の左室駆出率(LVEF)減少である。11年間の追跡調査後、重篤な心イベント(ニューヨーク心臓協会[NYHA]分類IIIからIVの心不全、心臓死または10%以上50%未満のLVEF低下と定義)はまれで、トラスツズマブ投与の2群では1%であったのに対し、化学療法単独群では0.1%であった。一方、軽度の心イベント(NYHA分類IからIIの心不全または10%以上50%未満のLVEF低下)は、トラスツズマブ2年投与群(7.3%)では、トラスツズマブ1年投与群(4.4%)または化学療法単独群(0.9%)と比較して多くみられた。しかし、術後トラスツズマブ療法の2年目の心イベント発生率が1年目と同等であり、1年投与および2年投与の両群でトラスツズマブ投与完了後も同様のパターンで低下していたことは注目に値する。また、これらの心イベントのほとんどが治療段階で起こり、薬物投与中止および適切な心臓治療薬併用が行われた場合にそれらの大部分が回復することはよく知られている。

 

HER2陽性早期乳がん患者の現在の標準治療(すなわち、化学療法および1年間の術後トラスツズマブ療法)による適切な有効性の結果にもかかわらず、患者の約30%で依然として再発イベントを発症しており、その中で遠隔再発は約18%であったことに注目するべきである。逆に、患者の63%が化学療法単独で治癒していた。したがって、これらの結果は、HER2集団の不均一性、および患者ごとでの治療の段階的拡大または段階的縮小の戦略の必要性を強調している[3]。

 

このような状況で、HERA試験は、術後トラスツズマブ療法を2年間延長する治療の段階的拡大の役割を調べている点で革新的であった。治療完了まで、治療1年後の早期の曲線の分離にもかかわらず、その差の傾向は、一定にならず、1年投与群と2年投与群での差は認められなかった。術後トラスツズマブ療法を延長する以外の治療の段階的拡大の代替戦略を求める研究もあった。ALTTO試験では、HER1およびHER2の経口可逆性チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)であるラパチニブを1年間の術後トラスツズマブ療法に追加する調査を行ったが、統計学的にも臨床的にも乳がんの転帰の改善が認められなかった[4]。ExteNET試験では、1年間の術後トラスツズマブ療法後にHER1、HER2、およびHER4の経口不可逆的TKIであるネラチニブを連続的に投与し、統計学的に有意であったが臨床的にはわずかな転帰の改善が認められた[5]。ネラチニブの毒性としては、最も重要なのが、約40%の患者におけるグレード3/4の下痢がある。同様に、ペルツズマブとトラスツズマブの1年間同時投与での抗HER2二剤併用療法の役割を検証するAPHINITY試験では、統計学的に有意であったがごくわずかな転帰の改善しか認められなかった[6]。3年無病(浸潤がんに限る)生存率(iDFS)がペルツズマブ併用群で94.1%、プラセボ群で93.2%であった(HR 0.81、95%CI 0.66-1.00)。ペルツズマブ追加の利点は、リンパ節陽性乳がんおよびホルモン受容体陰性乳がんを有する患者においてわずかに転帰が良好に思われる点であった(3年iDFSの絶対差がそれぞれ1.8%および1.6%)。これらの全データは、今日利用可能な最良の化学療法および抗HER2戦略であるにもかかわらず、一部の患者が乳がんの再発を経験する可能性があることを示している。したがって、HER2発現以外の他の腫瘍特性(バイオマーカーなど)または適切な再発リスク予測(現在KATHERINE試験[NCT01772472]で調査中の術前補助療法後に残存疾患を有する患者における治療の段階的拡大など)によって、より適切な患者選択に焦点を当てるべきである。これに関しては、免疫特異的作用を増強する目的で、トラスツズマブに加えて免疫介入を行う余地もあるかもしれない。これらの戦略は、術後トラスツズマブ療法完了後に追加治療を受けないホルモン受容体陰性乳がん患者にとって特に興味深い可能性がある。

 

逆に、すべての患者が腫瘍治療設備で利用可能なすべての薬物を必要とするわけではないため、治療の段階的縮小を目的とする戦略の余地も確実にある。術後トラスツズマブ療法の投与期間を短縮することによって短期間の抗HER2治療が1年間の標準治療と比較して劣っていないことを実証することには失敗した[7]。しかし、これまでの最も重要な段階的縮小の戦略は、術後補助化学療法の負担を軽減することに焦点を当てていた。最近のデータでは、患者の特定のサブグループにおいて併用術後補助化学療法でアントラサイクリン系を除くことが実行可能かつ安全であることが実証された。APT試験では、リンパ節陰性乳がんおよび3cm未満の腫瘍を有する患者に毎週パクリタキセルおよびトラスツズマブを12週間投与し、その後トラスツズマブ単独療法を9カ月間行うことで、優れた生存の転帰が認められた[8]。BCIRG006試験では、ドセタキセルとカルボプラチン(すなわちTCH)を3週間ごとに6サイクル、トラスツズマブを1年間投与する非アントラサイクリン含有療法が、トラスツズマブを1年間投与するアントラサイクリン系化学療法と比較して心イベントが少なく、許容可能な生存転帰と関連していることが示された。最終的に、Jones氏らは、TC療法(すなわち、ドセタキセルとシクロホスファミド)4サイクルと1年間のトラスツズマブ投与によりリンパ節陰性で2cm未満の腫瘍を有する患者の大部分で良好な疾患転帰が認められたことを明らかにした[9]。HER2陽性乳がん患者に対する術後補助化学療法における投与方法を根本的に変えることを目的として、ATEMPT試験(NCT01853748)では現在、ステージ1乳がん患者におけるTDM-1単剤の術後補助療法の役割を研究している。

 

総合的には、今までに構築された大きな知識の本体は、HER2陽性早期乳がん患者に対する1年間のトラスツズマブ投与が治療標準として残っていることを立証している。しかし、治療に対する改善の余地はある。HER2陽性乳がん患者が今まで利益を受けてきたとしても、今後は、求めるべき治療の段階的拡大、逆に、推奨し求めるべき治療の段階的縮小を定義することに注力するべきである。そして、これらの点は、少なくとも現在慎重に検討しているような形で、HER2陽性以外の反応予測因子を見いだすことと密接に関連している。最終的に、ヨーロッパにおけるトラスツズマブ投与は依然として不均一であり、明白に効果的で安全な薬物の臨床実践への確実な取り組みが大いに必要とされている[10]。これらは、HER2陽性早期乳がんの分野を進展させることを目指すすべての若い腫瘍学者が留意するべき問題の一部である。

 

リンク:原文はこちら

 

References

Moja L, Tagliabue L, Balduzzi S et al. Trastuzumab containing regimens for early breast cancer. In Moja L (ed): Cochrane Database Syst. Rev., 2012/04/20. Chichester, UK: John Wiley & Sons, Ltd, 2012; 4(4):CD006243.

  1. Cameron D, Piccart-Gebhart MJ, Gelber RD et al. 11 years’ follow-up of trastuzumab after adjuvant chemotherapy in HER2-positive early breast cancer: final analysis of the HERceptin Adjuvant (HERA) trial. Lancet 2017; 389(10075):1195-1205.
  2. Lambertini M, Pondé NF, Solinas C, de Azambuja E. Adjuvant trastuzumab: a 10-year overview of its benefit. Expert Rev. Anticancer Ther. 2017; 17(1):61-74.
  3. Piccart-Gebhart M, Holmes E, Baselga J et al. Adjuvant Lapatinib and Trastuzumab for Early Human Epidermal Growth Factor Receptor 2-Positive Breast Cancer: Results From the Randomized Phase III Adjuvant Lapatinib and/or Trastuzumab Treatment Optimization Trial. J. Clin. Oncol. 2016; 34(10):1034-1042.
  4. Chan A, Delaloge S, Holmes FA et al. Neratinib after trastuzumab-based adjuvant therapy in patients with HER2-positive breast cancer (ExteNET): A multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2016; 17(3):367-377.
  5. von Minckwitz G, Procter M, de Azambuja E, Zardavas D, Benyunes M, Viale G, et al. Adjuvant Pertuzumab and Trastuzumab in Early HER2-Positive Breast Cancer. N Engl J Med 2017:NEJMoa1703643. doi:10.1056/NEJMoa1703643.
  6. Pivot X, Romieu G, Debled M et al. 6 months versus 12 months of adjuvant trastuzumab for patients with HER2-positive early breast cancer (PHARE): a randomised phase 3 trial. Lancet Oncol 2013; 14(8):741-748.
  7. Tolaney SM, Barry WT, Dang CT et al. Adjuvant Paclitaxel and Trastuzumab for Node-Negative, HER2-Positive Breast Cancer. N. Engl. J. Med. 2015; 372(2):134-141.
  8. Jones SE, Collea R, Paul D et al. Adjuvant docetaxel and cyclophosphamide plus trastuzumab in patients with HER2-amplified early stage breast cancer: A single-group, open-label, phase 2 study. Lancet Oncol. 2013; 14(11):1121-1128.
  9. Ades F, Senterre C, Zardavas D et al. Are life-saving anticancer drugs reaching all patients? Patterns and discrepancies of trastuzumab use in the European Union and the USA. PLoS One 2017; 12(3):e0172351.

原文掲載日

翻訳会津麻美

監修勝俣範之(腫瘍内科/日本医科大学武蔵小杉病院)

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