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PARP阻害剤が脳腫瘍などに有効

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PARP阻害剤が脳腫瘍などに有効

米国国立がん研究所(NCI)ブログ~がん研究の動向~

2つの個別の研究により、一種の脳腫瘍、および数種の他のがんでよく認められる遺伝子変異の機能に関する新たな見解が明らかになった。また、その過程で新たな治療戦略となり得る治療法がみつかった。

 

IDHと呼ばれる遺伝子に変異を有するがん細胞は、DNA 損傷の修復能が低下していることが明らかになった。研究グループは、2017年度米国がん学会(AACR)年次総会で、PARP阻害剤(DNAの修復をさらに妨げる薬剤)投与により、IDH遺伝子に変異を有する細胞を効果的に死滅させることを報告した。

 

IDH変異を有する低悪性度の神経膠腫は変異のないものよりも化学療法に対する感受性が高いが、治療後、悪性度のより高い腫瘍として再発する傾向がある、と2つの研究のうちの一方の試験責任医師でありNCIがん研究センター神経腫瘍学部門のChun Zhang Yang博士は説明した。

 

2つの独立した研究グループ(Yang博士が主導するグループおよびエール大学医学部のRanjit Bindra医学博士が主導するグループ)は、IDH変異を有する神経膠腫がなぜ化学療法により感受性が高いのか、またこの感受性を増大させることでより多くの神経膠腫細胞を死滅させるかどうかについて研究を開始した。

 

両グループは、IDH変異が神経膠腫細胞のDNA修復能を脆弱化することを見出した。さらに、PARP阻害剤がこの脆弱化を利用できることを認めた。エール大学の研究グループは、PARP阻害剤はIDH変異を有する神経膠腫細胞を死滅させるが、正常なIDH遺伝子を有する細胞は死滅させないことを明らかにした。また、PARP阻害剤により、IDH変異を有する細胞に対する化学療法の毒性作用が増強されるとNCIチームは報告した。

 

NCIの研究グループはその研究結果をCancer Research誌で、またエール大学の研究グループはその知見をScience Translational Medicine誌ですでに報告している。

 

DNA損傷の増強

化学療法や放射線照射と同様に、一部のがん治療はDNAを損傷する。損傷が広範囲に及ばない場合には、細胞はしばしば損傷を修復して生存し続ける。しかしながら、細胞のDNA修復能に欠陥がある場合には、通常、細胞は損傷から回復できずに死滅する。

 

たとえば、BRCA1遺伝子あるいはBRCA2遺伝子に特定の変異を有する卵巣がん細胞のDNA修復能は低下している。研究により、これらの細胞は特にOlaparib[オラパリブ](商品名:Lynparza)などのPARP阻害剤に感受性を示すことが明らかになっている。オラパリブはBRCA変異が生じている卵巣がん患者の一部に対する治療薬として米国食品医薬品局(FDA)から承認されている。

 

現在、NCIおよびエール大学の研究グループは、神経膠腫および他のがんにおけるIDH遺伝子の特定の変異に、卵巣がんにおけるBRCA突然変異が有する治療機会と同じ機会が認められることを明らかにした。

 

IDH1およびIDH2は、正常では細胞代謝に必要な分子を産生する酵素である。しかしながら、神経膠腫および他のがんで認められる変異型IDH酵素は、2-HGと呼ばれる異常分子を産生するという新規な能力を有する。2-HGは細胞生物学上さまざまな影響を及ぼすが、一部のがんの発生との正確な関連性は依然として不明である。遺伝子に新たな機能をもたらす変異を「ネオモルフィック(neomorphic)」と呼ぶ。

 

本研究でBindra博士らのグループは、ネオモルフィックIDH変異を有する複数のがん細胞株でDNA修復能が低下していることを認めた。追加実験により2-HGがこの欠陥に関与していることが判明した。IDHが正常ながん細胞株に2-HGを加えると細胞のDNA修復能が抑制された。

 

DNA の修復に欠陥がある細胞は、DNA修復をさらに阻害する薬剤に対する感受性が高まることから、エール大学の研究グループはヒト神経膠腫細胞にオラパリブを投与したところ、実際にIDH1に変異がみられる細胞はIDH1が正常な細胞よりもPARP阻害剤に対する感受性が高かった。

 

IDH1に変異がみられる大腸がんあるいは子宮頸がんの異種腫瘍の移植片を植え込んだマウスにおいて、オラパリブは対照治療薬よりも腫瘍の成長速度を抑制した。オラパリブはIDHが正常な大腸がんあるいは子宮頸がんの成長に影響を及ぼさなかった。

 

一方、変異型IDH酵素による2-HG産生を阻害する薬剤(IDH阻害剤と呼ばれる)を、IDHに変異がみられる大腸がんあるいは子宮頸がん細胞に投与したところ、DNA損傷修復機能の欠陥が回復して、細胞がPARP阻害剤に感受性を示さなくなった。

 

Bindra博士は、AACRの記者会見で研究グループが得た知見を発表し、これらのデータによりネオモルフィックIDH変異を有するがんに対し、PARP阻害剤はIDH阻害剤よりも有効性が高い可能性が裏付けられた、と述べた。また、IDH阻害剤はIDH1に変異がみられる神経膠腫患者に対し効果のあり得る治療法として臨床試験で検証中である、とも述べた。

 

「がん専門医が、がん治療でとる反射的なアプローチ」は、がんの増殖を引き起こす突然変異遺伝子、すなわちがん遺伝子の阻害でした、とジョージタウン大学のロンバルディ総合がんセンター長でこの記者会見の司会をした Louis M. Weiner医師は述べた。IDH変異はがん遺伝子と同様に作用するため、IDH変異を阻害すべきであるという仮定を立てました、とBindra博士は説明した。

 

「これらのデータは、すべての変異の阻害を考えるのではなく、利用できる脆弱性を生じる変異があり、それを利用することが正しい方法であることを示唆しています」、とWeiner医師は付け加えた。

 

AACRの年次総会ではNCIの神経腫瘍学部門のYanxin Lu博士がNCIの研究グループが得た研究所見を発表したが、IDHに変異がみられる神経膠腫におけるPARP阻害剤の活性に関する見解は同様であった。

 

また、NCIの研究グループは、神経膠腫患者の標準治療薬であるテモゾロミドは、IDHが正常な細胞に比べてIDH1変異を有する膠芽腫細胞に対するDNAの損傷程度が大きく、より多くの膠芽腫細胞を死滅させることを見出した。追加実験により、IDH1に変異がみられる膠芽腫細胞には、効果的なDNA の修復を阻害する代謝上の変異が認められることが明らかになった。IDH1に変異がみられる膠芽腫細胞にオラパリブ+テモゾロミドを併用投与すると、オラパリブがテモゾロミドのDNA損傷および膠芽腫細胞を死滅させる効果を増強させることが認められた。

 

「本研究により低悪性度の神経膠腫の臨床治療薬としてオラパリブ+テモゾロミドの併用療法に関する今後の方向性が明らかになりました」とYang博士は述べた。同様の併用療法がDNA修復に欠陥がある他のがん種にも効果があるかもしれません、とYang博士は付け加えた。

 

臨床試験に向けて

Bindra博士らの研究グループが、オラパリブに関し、ネオモルフィックIDH変異を有するがん患者を対象としたNCI支援による第2相臨床試験を計画中であることをAACR年次総会でBrinda博士は発表した。神経膠腫に加え、急性骨髄性白血病、肝がん、大腸がん、およびそれ以外の複数のがんでネオモルフィックIDH変異が認められている。

 

研究グループは2017年後半に患者登録を開始し、ネオモルフィックIDH変異を有するがん患者を評価および特定する目的でNCI-MATCH試験で使用されているDNAシーケンシング技術を用いる予定である。

 

自身の研究結果および関連する研究結果に基づき、Bindra博士の研究グループは、 2-HGがPARP阻害剤による治療に感受性のあるがん細胞のバイオマーカーとして機能する可能性に期待を寄せている。参加者の腫瘍の 2-HG濃度を測定し、その濃度がオラパリブに対する反応性に相関を示すかどうかを明らかにする予定である。

 

また、Yang博士らNCIの研究グループは、低悪性度の神経膠腫患者を対象としたオラパリブ+テモゾロミドの併用療法に関する臨床試験を計画している。

 

低悪性度の神経膠腫患者の約80%がネオモルフィックIDH変異を有しているが、オラパリブは血液脳関門通過能に限りがあるため、これらの腫瘍への到達能に制限がある可能性がある、とBindra博士は認めた。

 

しかし、再発性膠芽腫患者を対象としたオラパリブ+テモゾロミドの併用療法に関する臨床試験が現在進行中であるが、その予備的証拠からオラパリブは一部の膠芽腫に浸透できていることが示されている、とも述べた。また、オラパリブが低悪性度の神経膠腫に浸透が可能か否かはほとんど解っていない、とも付け加えた。当該試験はグラスゴー大学の教授である Anthony Chalmers博士が主導しており、現在、患者を募集中である。

 

画像訳
PARP酵素は損傷したDNAの修復に役立つ。PARP阻害剤はこの修復メカニズムを阻害し、一部のがん細胞を死滅させる。

原文掲載日

翻訳三浦 恵子

監修辻村信一(獣医学・農学博士、メディカルライター/メディア総合研究所) 

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