腸内細菌が、がん免疫療法薬に対する反応と関連する可能性

専門家の見解

米国臨床腫瘍学会(ASCO)専門委員のLynn Schuchter医師(FASCO)は、「免疫療法薬はがん患者の生活を急速に改善していますが、多くの患者に効果があるわけではなく、その理由は依然として不明です。本研究結果により、PD-1阻害薬に対する患者の反応性を高める新たなアプローチへの扉が、腸内細菌の構成を変えることで開くかもしれません」と述べた。

研究者らは、腸内の微生物(腸内細菌叢)と免疫療法に対する反応に関連性があることを発見した。本研究により、進行メラノーマ患者がPD-1免疫チェックポイント阻害剤に反応するかどうかは、多様な腸内細菌叢および特定の細菌種の有無によって決まることがわかった。本研究は、オーランドで開催される2017年ASCO-SITC Clinical Immuno-Oncology Symposium(臨床免疫腫瘍学シンポジウム)で発表する予定である。

本研究の総括著者であるヒューストンのテキサス大学MDアンダーソンがんセンターゲノム医学・外科腫瘍学准教授Jennifer A. Wargo医師(医科学修士)は、「われわれの研究結果は初期段階ですが、さまざまながん種を対象とした、より大規模なコホート研究で検証されれば、がんの予後と治療に重要な意味を持つ可能性があります。一方で、より多くの患者が免疫療法の恩恵を受けられるよう、腸内細菌叢が免疫反応にどのように影響するのか、さらに腸内細菌叢を微調整する方法の詳細について、理解を深めるべく協調して研究に取り組む必要があります」と述べた。

ヒトの体内における細菌数はヒトの細胞数より最大で10倍も多い。腸だけでも1000種以上、100兆個の細菌が存在する。腸内細菌叢の構成は個人によって大きく異なるが、これは幼少期の微生物曝露や食事などの要因の影響によるものと考えられている。

さらに、口、腸、肺など身体の各部位には異なる微生物群が存在する。

本研究の筆頭著者であるVancheswaran Gopalakrishnan氏(口腔外科学士、公衆衛生学修士、ヒューストンのテキサス大学公衆衛生大学院博士候補者)は、「マウスモデルを用いたさまざまな研究において、腸内細菌叢のがんに対する免疫防御という重要な役割についての評価が高まっています。本研究は、われわれの知る限り、腸内細菌叢と免疫療法に対する反応との関連性をヒトで調べた最初の研究の1つです」と述べた。

動物モデルを用いたこれまでの非臨床試験により、腸内細菌叢の構成を変えることで、免疫チェックポイント阻害剤の有効性が高まることが示された。

試験

研究者らは、治療を開始している進行メラノーマ患者233人の口腔および腸(糞便)から細菌叢検体を採取した。このうち93人に抗PD-1療法を行った。16S rRNA配列解析と呼ばれる分子技術を用いて、さまざまな細菌を遺伝的特徴により同定し、口腔および腸の細菌叢の種類と構成を調べた。研究者らは、患者の腫瘍検体を用いて種々の免疫細胞の構成と密度も分析した。

主な試験結果

本研究において、PD-1阻害剤の反応者と非反応者では、腸内細菌叢に大きな相違が認められた。具体的には、PD-1阻害剤に反応した患者では、反応しなかった患者よりも多様な腸内細菌叢がみられた。しかし、症例数はあまり多くなく、糞便検体43例中、治療に反応した患者が30人、反応しなかった患者が13人であった。さらに、治療に反応した患者と反応しなかった患者では、腸内細菌叢の構成に顕著な差異があることが認められた。

治療に反応した患者は、反応しなかった患者に比べ、腸内細菌叢にクロストリジウム(特にルミノコッカス科)が多く認められた。一方、治療に反応しなかった患者では、反応した患者に比べ、バクテロイデスがより多く認められた。PD-1阻害薬が奏効した患者では、奏効しなかった患者に比べ、腫瘍微小環境において、CD8陽性T細胞という抗がん作用のある免疫細胞の密度も高かった。

また、腸内細菌叢にルミノコッカス科のある種がより多く認められる患者では、腫瘍内のCD8陽性T細胞の密度が高いことも発見した。さらに研究者らは、すべての患者の口腔から採取した細菌叢検体を分析したが、その多様性や構成と、治療に対する反応に関連性は認められなかった。 Wargo博士は、口腔細菌叢が、肺や頭頸部など他のがんに対する免疫反応に関与する可能性は十分にあるが、慎重に検証する必要があると指摘した。

次のステップ

研究チームは、腸内細菌叢が全身性反応および抗腫瘍免疫反応を高める生物学的メカニズムについて、理解を深めることを目指している。本研究では、ヒトの患者から無菌マウスへ糞便移植を行う非臨床試験なども実施する。

著者らはまた、腸内細菌叢を調節することで免疫チェックポイント阻害剤に対する反応が高まる、という仮説を検証するための臨床試験を計画している。 この種の臨床試験として最初の試験が、Parkerがん免疫療法研究所と共同で、本年中に開始される予定である。

同時に、今後の研究では、細菌叢の構成を微調整する最良の方法を検討する予定である。糞便移植だけでなく、ある細菌を選択的に激減させる抗生物質の使用や、特定の細菌を腸内で増やすためのプレバイオティクス/プロバイオティクスサプリメントの使用などが考えられる。

研究資金

本研究は、MDアンダーソンがんセンターのMoon Shotプログラム、Melanoma Research Alliance、Parkerがん免疫療法研究所から資金提供を受けて行われた。

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翻訳担当者 江澤逸子

監修 北丸綾子(分子生物学)

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