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スタチンで乳がんの再発を阻止できるか

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スタチンで乳がんの再発を阻止できるか

英国医療サービス(NHS)Choises

「乳がん治療にスタチンが使えるかもしれない」とSky Newsが報じた。乳がん治療後の再発にコレステロールが関与している可能性が新たな研究により示唆された。

 

研究者たちは、この発見が新たな治療標的への道を開くことを期待しており、スタチンのようなコレステロール低下剤の効果を今こそ検証すべきだと述べた。

 

この研究は、エストロゲン受容体陽性(ER+)乳がんに着目している。ER+乳がんは、がん細胞の増殖がエストロゲンと呼ばれるホルモンにより刺激されるがんであり、乳がん症例の大部分を占める。タモキシフェンのようなホルモン療法は、エストロゲンの作用を遮断するために使用できるが、症例によっては、がん細胞がエストロゲン欠如に対する抵抗性を獲得し、その結果がんが再発する場合がある。研究ではこの現象の原因解明を目指し、コレステロールが原因のひとつである可能性が示唆された。

 

この研究により、エストロゲンがない場合には特定のコレステロール分子(25-HCと27-HC)が産生され、これらが腫瘍の増殖を刺激することが示唆された。このことが、がんのホルモン療法抵抗性の一因かもしれない。

 

現在得られている証拠によれば、乳がんの再発リスクを軽減する最も効果的な方法は、禁煙、定期的な運動、健康的な食事、健康的な体重の維持や飲酒を控える、といった健康的な生活のための標準的アドバイスに従うことである。

 

研究の出典

この研究は、London Institute of Cancer Research、 University of Oslo and the Department of Biochemistry、Royal Marsden Hospital in Londonなどの研究機関の研究者により、Breast Cancer Now Toby Robins Research CentreとNHS Trust fundingからの資金を得て行われた。

 

研究成果は、査読つき学術雑誌Breast Cancer Research誌にオープンアクセス論文として掲載されており、ここから無料で読むことができる。

 

スタチンの乳がん再発防止効果がすでに立証されているかのようなイギリスメディアの見出しは、すこし先走りすぎである(実際にはまだ立証はされていない)。しかし、ニュース本文は、研究の大部分は実験室レベルのものでありヒトでの検証がこれからであることを指摘しているのでより正確である。

 

研究の種類

この研究は、エストロゲン受容体陽性(ER+)乳がんの一部がホルモン療法抵抗性を獲得する理由と考えられる生物学的経路を見出すことを目指した実験室レベルの研究である(エストロゲンの米語表記estrogen(英語表記はoestrogen)に従って、ここではエストロゲン受容体を”ER”と表記している)。

 

乳がんの80%がエストロゲン受容体を発現していることが報告されており、現在行われているアロマターゼ阻害剤のようなホルモン療法はエストロゲンの作用を効果的に阻害するが、多くの患者でがんが再発する。これまでの研究で、がん再発にコレステロール産生経路が関与している可能性が示されていた。

 

今回報告されたような実験室レベルの研究は、どのような生物学的プロセスが関与し、細胞レベルで何が起こっているのかを探るために有用な初期段階の研究である。そのような研究は、新しい治療法を開発したり、既存の治療法を別の疾患の新しい治療法として開発したりする道を開くことができる。しかし、提案される新しい治療法が、ヒトにおいてまず安全であるか、そして有効であるかを理解するために臨床試験が実施される必要があるだろう。

 

研究内容

研究者たちは、エストロゲン欠乏に対する抵抗性のメカニズムを新たに特定することを目指した。彼らは、まず、5種類のER+乳がん細胞を、その増殖率がホルモンに依存しなくなるまでエストロゲン非存在下で培養した。

 

その後、このようなエストロゲン欠乏により起こる、遺伝子発現やタンパク質産生の変化を解析した。

 

コレステロール産生経路の活性増加を見つけたことから、25-HCや27-HCなどのコレステロール分子のがん細胞増殖に対する影響を評価し、また、それらを産生するのに必要な遺伝子の働きが遮られたときにどうなるかも観察した。

 

続いて、得られた結果が正しいかどうかを、アロマターゼ阻害剤あるいはタモキシフェンによる治療を受けたふたつのER+乳がん患者群で検証した。

 

結果

総合的に言えば、エストロゲン非存在下で培養されたER+乳がん細胞ではコレステロール産生経路の活性が上昇していた。コレステロール分子25-HCや27-HCはエストロゲンの作用を模倣してがんの増殖をエストロゲンの代わりに刺激することができた。

 

低分子干渉RNA(siRNA-人工的に作られた遺伝物質の小さなかたまり)を用いてこれらのコレステロール分子を産生するのに必要な遺伝子の働きを遮ると、がん細胞の増殖が30~50%低下した。

 

アロマターゼ阻害剤治療を受けたER+乳がん患者群から得た試料の遺伝子解析の結果、アロマターゼ阻害剤治療に対する反応性が低い場合にはコレステロール分子の産生に必要な4つの遺伝子の発現が上昇していることがわかった。

 

結果の解釈

研究者たちは、以下のように結論付けた。「今回の実験結果から、コレステロール生合成経路のいくつかの酵素がアロマターゼ阻害剤(AI)治療に対する抵抗性獲得に関連していることが示唆されました。われわれの研究は、コレステロールを低下させることが内分泌療法の効果にどのような影響を与えるかを評価することの必要性を強調しています」。

 

結論

この研究は、エストロゲン遮断療法を受けたER+乳がんのあるものが再発する理由と考えられる生物学的経路を見出すことを目指した。

 

エストロゲン欠乏状態でコレステロール産生経路の活性が上昇することが、治療抵抗性の理由のひとつであるようだ。コレステロール分子がエストロゲンの作用を模倣し腫瘍の更なる増殖を刺激する。

 

研究者たちは、彼らの研究により将来の治療標的として利用できる新しい経路に光が当てられる可能性に期待している。研究チームのLesley-Ann Martin博士はメディアに対して次のように語った。「これはたいへん意義のある研究成果です。患者のがんについて25-HCやその産生酵素を調べることにより、どのような患者がホルモン療法に対する抵抗性を獲得するかを予測でき、その結果に応じて個別化治療を施すことができるようになるかもしれません」。

 

これは大変重要な発見であり望むらくはより標的化された治療への道を開くかもしれないが、これまでのところ、研究は実験室の細胞を用いて行われただけである。スタチンのようなコレステロール遮断治療は、一部のER+乳がん患者において新しい治療管理法となり得るかもしれないが、そのような用途での試験はまだ行われていない。

 

スタチンのがん増殖に対する影響を確かめる実験室レベルの研究がもっと必要だろう。それらの研究で望ましい結果が得られれば、スタチンが実験室のがん細胞に対して同様の効果をヒトにおいても示すかどうかを検証する臨床試験が実施される可能性がある。そうすれば、どういった女性患者の乳がん治療に対しスタチンを加えることが有益であるか、長期的な副作用はあるか、などが明らかにされるだろう。

 

現在得られている証拠によれば、乳がんの再発リスクを軽減する最も効果的な方法は、禁煙、定期的な運動、健康的な食事、健康的な体重の維持や飲酒を控える、といった健康的な生活のための標準的アドバイスに従うことである。

原文掲載日

翻訳伊藤彰

監修東海林洋子(薬学博士)

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