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サルモネラ菌を模倣したナノ粒子で化学療法抵抗性と闘う

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サルモネラ菌を模倣したナノ粒子で化学療法抵抗性と闘う

米国国立がん研究所(NCI)ブログ~がん研究の動向~

 

マサチューセッツ大学医学部での研究者らは、化学療法抵抗性の機序 に対抗できる可能性のあるサルモネラ菌(細菌の一種)をまねた ナノ粒子をデザインした。

 

Beth McCormick博士と同僚らは、大腸がんと乳がんのマウスモデルで、ナノ粒子を化学療法と組み合わせると、化学療法のみと比べて腫瘍の増殖が大きく抑えられることを実証した。

 

この研究結果は、7月25日付のNature Communication誌に掲載された。

 

化学療法抵抗性

 

P-糖タンパク質(P-gp)と呼ばれる膜タンパク質 は、老廃物、異物粒子や毒物を細胞から排出するダスト・シュートのような役割を果たす。P-gpはATP-結合カセット(ABC)トランスポーターと呼ばれる大きなトランスポーターファミリーのひとつであり、正常細胞においてのみならずがんやその他の疾患においてもある役割を担っている。たとえば、がん細胞は化学療法剤を自分自身から排出するのにP-gpを利用することができ、その結果、化学療法剤の有効性が著しく制限されてしまう。

 

McCormick博士と同僚らは、食中毒の原因となるサルモネラ菌が腸管細胞表面のP-gpの量を減らすことを、以前の研究で思いがけず発見した。サルモネラ菌はがん細胞で選択的に増殖することができるので、サルモネラ菌を利用してP-gpにより引き起こされる化学療法抵抗性に対抗できないかと研究者らは考えたのだ。

 

「サルモネラ菌がどうやってヒトの宿主細胞に侵入するのか解明しようとしていたところ、私たちは、がん治療と多剤耐性に関連するこの別の実験結果を得たのです」とMcCormick博士は述べた。

 

サルモネラ菌とがん細胞

P-gpの量を減らす原因となっているサルモネラ菌の構成成分を見つけるため、研究者らは、遺伝子組み換え技術で改変された何種類ものサルモネラ菌株を作り、それらが大腸細胞のP-gp量にどのような影響を与えるかを調べた。その結果、SipA を作ることができないように改変されたサルモネラ菌は、マウスの大腸やヒト大腸がん細胞株のP-gpを減らすことができないことがわかった。サルモネラ菌は、SipAを含むタンパクを産生することにより、ヒト細胞への菌の侵入を容易にする。

 

さらに、SipAだけで処理した場合、ヒト大腸がん、乳がん、膀胱がんやリンパ腫の細胞株でP-gpが減少することがわかった。

 

P-gpは薬剤を細胞の外にくみ出す機能を持っているので、研究者らは次に、SipA処理によりがん細胞からの化学療法剤の排出が阻害されるかどうかを調べた。

 

ヒト大腸がん細胞を、SipA存在、非存在の条件下においてドキソルビシンやビンブラスチンといった化学療法剤で処理したところ、SipAが存在する方が、がん細胞により多くの化学療法剤がとどまることがわかった。さらに、SipAにより上記化学療法剤に対するがん細胞の感受性も高まることが示され、SipAが化学療法の効果を高める手段として使える可能性が示唆された。

 

McCormick博士は、「数百万年にわたる共進化により、サルモネラ菌は、その宿主への感染を促進するために、このトランスポーター を腸管細胞の表面から除く方法を見つけ出しました。私たちはP-gpを減らすのに、このようなサルモネラ菌の能力を活用しました」と述べた。

 

ナノ粒子模倣物

論文共著者であるマサチューセッツ大学医学部Gang Han博士は報道発表で、細菌を人に感染させるのは現実的ではなく、SipAはそのままでは血流中で急速に劣化してしまう可能性が高い、と述べた。そこで研究者らは、SipAを金ナノ粒子と 結合させ「サルモネラ菌のナノ粒子模倣物」と彼らが呼ぶナノ粒子を作成した。研究者らは、SipAが他のタンパク質 と相互作用する能力を保ちながら血流中での安定性が増すようにナノ粒子をデザインした。

 

正常な組織を傷めることなく腫瘍だけが標的されるようにするために、研究者らは、特定のサイズのナノ粒子を用いた。腫瘍組織の血管は、「漏出しやすい 構造」をしているため、こういった特定のサイズのナノ粒子は腫瘍組織にのみ集積することができる。「腫瘍組織のこういった構造のおかげで、正常組織に対する悪影響を避けることができるものと期待しています」とMcCormick博士は述べた。また、ナノ粒子は、腫瘍指向性を高めたり、副作用の可能性を最小限にとどめるように改変できることも利点であるとも述べた。

 

研究者らは、ヒト大腸がん細胞株で、このナノ粒子のP-gpタンパク質を減らす効果が、SipAタンパク質単独と比べて100倍も強いことを示した。ナノ粒子のこういった機能増強は、おそらくSipAの安定性が増したことによるだろう、と研究者らは説明した。

 

研究チームは次に、P-gpを多く発現していることが知られているマウス大腸がんモデルでナノ粒子の効果を調べた。担がんマウスにナノ粒子とドキソルビシンを併用投与すると、ナノ粒子のみ、あるいはドキソルビシンのみを投与した場合に比べてP-gpが減少し腫瘍の増殖が大きく抑制された。同様の結果は、ヒト乳がんのマウスモデルでも観察された。

 

正常組織に対するナノ粒子の効果の可能性については懸念がある。Laboratory of Cell Biology in NCIのがん研究センター(Center for Cancer Research)の副チーフであるSuresh Ambudkar博士は、「P-gpは健康な細胞から毒物を除去する防御メカニズムとして進化してきました。P-gpは血液脳関門、肝臓、精巣や腎臓の細胞を保護するのに重要な役割を担っているので、その機能に干渉しようとすれば問題が生じるかもしれません」と述べた。

 

しかし、研究者らは、ナノ粒子がマウスの脳、心臓、腎臓あるいは肺に集積したり、毒性を示したりする証拠は得ていない。ナノ粒子が肝臓と脾臓に集積することが観察されたが、この事は、これらが血液をろ過する臓器であることから予想されたことである、とMcCormick博士は述べた。

 

今後の進展

研究者チームは、ナノ粒子の安全性や毒性をテストし、適切な投与量を確定するための前臨床試験を進めている。

 

しかしながら、Ambudkar博士は、「がん細胞の薬剤耐性はさまざま要因により引き起こされます。ABCトランスポーター以外にも、薬剤代謝などが関与しています」と特に指摘しました。また、ABCトランスポーターは大きなタンパクファミリーを形成しているため、あるABCトランスポーターが阻害されてもファミリー中の別のトランスポーターがその機能を代償することができる、と説明した。

 

「この25年間、P-gpを阻害する薬剤は臨床試験で化学療法抵抗性を克服することができませんでした。がんの多剤耐性という課題は、容易に克服できるものではありません」とAmbudkar博士は述べた。

 

McCormick医師と彼女の研究チームは、SipAを生物学的により詳しく特徴づけ理解するための研究も行っている。「私たちは、問題が複雑であることを理解していないわけではありません。しかし、生物学的な理解が進めば、最後にはよりよい薬剤を作ることができると信じています」と述べた。

原文掲載日

翻訳伊藤彰

監修東海林 洋子(薬学博士)

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