リキッドバイオプシー(血液検査)により、非小細胞性肺がんの重要な遺伝子変異が正確に検出可能との研究結果

ダナファーバーがん研究所

簡単な血液検査で、迅速かつ正確に非小細胞性肺がんの2種類の重要な遺伝子の変異を検出できることが、ダナファーバーがん研究所および他の機関による新しい研究で示された。これらの変異を標的にした薬が有効な患者を特定するための、臨床診断法となる可能性が認められたのである。

リキッドバイオプシーとして知られるこの検査法の高い信頼性が本研究で示されたため、ダナファーバーがん研究所およびブリガム&ウィメンズ病院(DF/BWCC)ではまもなく、すべての非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対し、最初の診断時点あるいは前治療を受けた後に再発した時点で(または、「前治療後の再発時点で」)実施する予定である。

非小細胞肺がんは最も一般的な肺がんであり、アメリカがん協会(ACS)によれば、米国内で毎年20万人を超える人々が診断されている。非小細胞肺がん患者の約30%に本研究で検討されたどちらかの遺伝子に変異がみられ、しばしば標的治療の対象となりうる。この研究はJAMA Oncology誌電子版に掲載されている。

本研究で実施されたリキッドバイオプシー(技術的には、迅速血漿遺伝子型判定、と呼ばれる)は、血液を試験管に満たし、血液中に浮遊する腫瘍細胞由来の遊離DNAの変異や他の異常を分析するものである。(腫瘍細胞が死滅すると、細胞内のDNAが血中に流し、これを遊離DNAと呼ぶ)。

この方法は、腫瘍における重要な遺伝子異常をとらえるに用いられ、さまざまな種類のがんの分子生物学的特性を調べるのによく使われる。

「わたしたちは、血漿遺伝子型判定が臨床検査あるいは測定法として大きな可能性を持つと思っています。この方法は、侵襲を伴う従来の生検を避け、がんの一般的な遺伝子異常を迅速かつ非侵襲的にスクリーニングすることができるからです」と本研究の統括著者で、ダナファーバーがん研究所およびブリガム&ウィメンズ病院の胸部腫瘍学者ならびに肺がん研究者であるGeoffrey Oxnard医師は話した。

「この研究では、リキッドバイオプシーの技術が、がん患者の治療方針決定に役立つ実用的なツールになり得ることを、初めて前向きに(前向き研究で)証明しました。この研究で良い結果が得られたため、ダナファーバーがん研究所およびブリガム&ウィメンズ病院では、肺がん患者を対象として、現在この方法を臨床検査に移行しつつあります」。

この研究には非小細胞性肺がん患者180人が参加しており、120人は新たに診断された患者、60人は前治療に耐性となって再発した患者である。参加者の血中遊離DNAを用い、EGFR遺伝子およびKRAS遺伝子における変異、そして一次治療に使われた標的薬に対する腫瘍細胞の耐性化の原因となる新たなEGFR二次変異を検査した。

遺伝子検査にはドロップレットデジタルポリメラーゼ連鎖反応(ddPCR)法が用いられた。これにより、血中遊離DNAに含まれる特有の遺伝子塩基配列の数を計測し特定の遺伝子変異の有無を確認した。さらに、各参加者に従来の組織生検を施行して同じ遺伝子変異の有無を検査し、リキッドバイオプシーの結果と組織生検の結果を比較した。

データによると、リキッドバイオプシーにより極めて迅速に検査結果が得られた。検査結果が出るまでの所要時間の中央値は、リキッドバイオプシーが3日であるのに対し、組織生検では新たに診断された患者は12日、薬剤耐性患者は27日であった。

さらにリキッドバイオプシーは精度が高いことがわかった。新たに診断された患者では、EGFRの一次変異およびKRAS変異に対する血漿ddPCRの「的中率」は100%であった。これはこの検査でEGFRまたはKRAS遺伝子変異が血漿中に検出された患者は、自身の腫瘍にこれらの変異が確実に存在することを意味する。

EGFR耐性変異を有する患者を対象としたddPCR検査の的中率は79%であり、通常の生検で見逃された耐性遺伝子変異例を血液検査で見つけることができる可能性を示唆している。

「EGFR耐性変異を持つ患者の中には、通常の組織生検で見逃された遺伝子変異が、ddPCRで検出された例もありました」とOxnard医師は述べた。「耐性化した腫瘍は、本来多種多様な細胞の集まりであって、異なった遺伝子変異のパターンを持つものがあります。単回の(組織)生検では、腫瘍の一部分だけを分析するので、身体の他の部位の腫瘍に変異が存在していても見逃す可能性があります。それに対してリキッドバイオプシーでは、(体内における)腫瘍の遺伝子変異の全体像をより良く反映しているのです」。

ddPCRでこれらの変異を検出することができない理由はあまり明確ではないが、腫瘍細胞に変異が無いかもしくは腫瘍由来のDNAが血液中に放出されていないか、いずれかの場合に起こりうる。このようなddPCRの検査結果と腫瘍での変異の存在との乖離(訳注:腫瘍に変異が存在するにもかかわらずddPCRによる血液検査ではこれを見逃してしまうこと)は、がんが身体の複数の部位へ転移している患者では、頻度が低いことを研究者は示した。

ddPCRを用いた本検査、あるいは測定法、は、ダナファーバーがん研究所のthe Translational Resarch lab of the Belfer Center for Applied Cancer Scienceで、患者に対する使用が始められ条件の最適化が図られた。そしてDana-Farber’s Lowe Center for Thoracic Oncologyで、臨床使用での妥当性が検証された。

リキッドバイオプシーの利点の1つは、患者に治療が効いているかどうかを、医師が速やかに判断するのに役立つ点である。研究では、50人の参加者ががん治療開始後に、検査を繰り返し受けた。「血液検査で2週間以内に変異が消失した患者は、減少しない患者よりも治療を継続することが多かったようです」と本研究の筆頭著者であるダナファーバーがん研究所およびブリガム&ウィメンズ病院のAdrian Sacher医師は述べた。

腫瘍は絶えず変化を繰り返し耐性変異を獲得するため、リキッドバイオプシーを繰り返すことで、標的薬で治療できる可能性を持つ新たな変異、例えばEGFR耐性変異、を早期に検知することができる。

「この研究データは、説得力があります」とダナファーバーがん研究所およびブリガム&ウィメンズ病院の病理学者であるLynette Sholl医師は述べ、ddPCR技術に基づいたリキッドバイオプシーを全ての肺がん患者に対し提案し始めたことを説明した。「34人の非小細胞肺がん患者でのリキッドバイオプシーと組織生検の結果を相互比較して著者らの研究結果発見が正しいことを確認しました。

リキッドバイオプシーが(現場で)実際に臨床検査として使われるようになるためには、信頼性の高い正確なデータが得られることと、実用性が高いことが求められます。わたしたちはこのddPCR技術に基づく血液検査はまさにこの条件にあてはまるものであると考えています」。

「この検査は、非小細胞肺がんと新たに診断された患者にも再発患者にも非常に有益です」と彼女は続けた。「迅速で、定量的(検体中の変異型DNAの総量を表示する)であり、がん治療を行うセンターでならいつでも採用可能でしょう」。

この研究の共著者は以下のとおりである。Cloud Paweletz, PhD, Allison O’Connell, BSc, and Nora Feeney, BSc, of the Belfer Center for Applied Cancer Science at Dana-Farber; Ryan S. Alden BSc, and Stacy L. Mach BA, of Dana-Farber; Suzanne E. Dahlberg, PhD, of Dana-Farber and Harvard T.H. Chan School of Public Health; and Pasi A. Jänne, MD, PhD, of Dana-Farber, the Belfer Center, and Brigham and Women’s Hospital

本研究は、次の支援を受けた:the United States Department of Defense, the National Cancer Institute(R01CA135257, R01CA114465 、 P50CA090578)、the Phi Beta Psi Sorority, the Stading-Younger Cancer Foundation, the International Association for the study of Lung Cancer, the Canadian Institutes of Health Research, the Canadian Association of Medical Oncologists, the Gallup Research Fund, and the Kaplan Research Fund

翻訳担当者 白鳥理枝

監修 田中文啓 (呼吸器外科/産業医科大学)

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