抗体薬物複合体IMMU-132が転移性トリプルネガティブ乳がんに対して臨床的有用性を示す

11月5日から9日にかけて開催された米国がん学会(AACR)・米国国立がん研究所(NCI)・欧州がん研究治療機関(EORTC)によるがんの分子標的療法に関する国際会議で発表された第2相臨床試験のデータによると、抗Trop-2抗体薬物複合体(ADC:antibody-drug conjugate)であるIMMU-132は、多くの治療歴を有する転移性トリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者に対して安全で忍容性があり、有意義な臨床活性をもたらした。

「米国で浸潤性乳がんと診断された患者の約15~20%はトリプルネガティブ乳がんが占めており、特に若いアフリカ系アメリカ人女性に多くみられます。トリプルネガティブ乳がんは再発率が高く、乳がんの中でも現在の細胞障害性薬剤による治療成功がもっとも難しいタイプだといえるでしょう。トリプルネガティブ乳がんに有効な分子標的薬は今のところありません」と、ハーバード大学医学部内科助教であり、ボストン、マサチューセッツ総合病院の腫瘍内科治療医でもあるAditya Bardia医師(公衆衛生学修士)は述べた。

「Trop-2はヒトの正常組織では限られた量しか発現しないタンパク質ですが、多くのヒトがん種では広く発現しています。トリプルネガティブ乳がんの80%以上にTrop-2が発現しており、注目すべき治療標的となっています」とBardia氏は付け加えた。IMMU-132(sacituzumab govitecan)は画期的医薬品の抗Trop-2抗体薬物複合体で、抗Trop2抗体にSN-38 (化学療法剤イリノテカンの活性代謝物)をおよそ8分子を結合させたものである、とBardia氏は説明する。

「他の薬剤による多くの治療歴がある転移性トリプルネガティブ乳がん患者の無増悪生存期間(PFS)中央値は、一般的には3~4カ月ですが、この第2相臨床試験でIMMU-132を投与した患者のPFS中央値は7カ月でした。また、標準薬剤の奏効率は一般には10~20%ですが、IMMU-132群ではおよそ30%でした。病勢安定の患者を含めると、病勢コントロール率(完全奏効〔CR〕+部分奏効〔PR〕+安定)は約75%となりました。うち2人は完全奏効しており、多くの治療歴がある転移性トリプルネガティブ乳がん患者ではめったにみられないことです」とBardia氏は話した。

「今後も本薬剤の研究が続けられることを願います。IMMU-2が承認されれば、予後不良の患者に有意義でより良い選択肢を提供できるでしょう」とBardia氏は話した。IMMU-132は米国食品医薬品局からトリプルネガティブ乳がん患者の治療薬として優先承認審査制度の指定を受けたと同氏は付け加えた。

2015年10月時点で、Bardia氏らは、前治療で奏効しなかったトリプルネガティブ乳がん患者または奏効後に再発したトリプルネガティブ乳がん患者83人を、多施設第2相臨床試験に登録した。一人目の患者は31カ月前に登録された。すべての患者にIMMU-132を週に一回2週間投与し、その後1週間の休薬期間をとった。 この治療サイクルを、患者の病勢進行あるいは臨床試験中止となるまで繰り返した。安全性を毎週、治療効果を2カ月ごとに評価した。

IMMU-132の投与量が10mg/kgで、タキサンを含む前治療ラインが2以上の患者54人の全奏効率(CR+PR)は31.5%であり、うち2人は完全奏効であった。

「非常に興味深い所見のひとつとして、イリノテカンなどの化学療法剤よりもIMMU-132は忍容性が高く、毒性が低いということです」とBardia氏は話した。グレード3から4の毒性には好中球減少症(患者の15%)、貧血(6%)、下痢(6%)、発熱性好中球減少症(4%)などがあったが、この毒性のために治療を中止した患者はいなかった。

患者のうち22人は治療を続けており、全生存期間中央値は未達だが、87%の患者が生存している、とBardiaは述べた。

Bardia氏によると、本研究にはプラセボ群の欠如や小規模なサンプルといった制約がある。

本研究はImmunomedics Inc.より資金援助を受けた。Bardia氏は利益相反はないと公表している。

翻訳担当者 宮本満里

監修 原 文堅(乳腺科/四国がんセンター)

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