OncoLog 2015年1月号◆IMPACT2試験で分子プロファイリングによるがんの個別化治療の有用性を検証

MDアンダーソン OncoLog 2015年1月号(Volume 60 / Number 1)

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IMPACT2試験で分子プロファイリングによるがんの個別化治療の有用性を検証

がんの分子生物学的特徴を明らかにすることは、患者個々のゲノムの特性に基づいて臨床医が治療法を選択することを可能にし、がん治療に革新をもたらす可能性を秘めている。ところが、ほとんどのがんにおいて、この可能性を検証するランダム化臨床試験は行われていない。IMPACT2試験は、腫瘍の分子生物学的特徴を考慮して治療法を選択するのと特徴を考慮にいれずに治療法を選択するのを比較する臨床試験であり、この度、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターで転移性固形腫瘍患者の登録を開始した。

IMPACT2試験は、現在進行中のIMPACT 1試験の初期の結果をもとに実施されている。IMPACT1試験では、MDアンダーソンにおける第1相試験に登録された患者のがんの分子生物学的特徴が研究されている。1,144例を対象とした予備解析では、腫瘍の40%にゲノム変異が見つかっている。また本解析では、腫瘍のゲノム変異の少なくとも一つに作用すると考えられている標的治療を受けた患者は、腫瘍のゲノム変異に適合していない治療を受けた患者よりも腫瘍縮小率、(全)生存期間中央値、治療奏効期間が有意に優れていることが示された。

IMPACT1試験の予備的結果は、Investigational Cancer Therapeutics部門の准教授で同試験およびIMPACT2試験の試験責任医師でもあるApostolia Tsimberidou医学博士により2011年の米国臨床腫瘍学会年次総会で発表された。Tsimberidou医師は、「これらは非常に希望が持てる結果ですが、分子生物学的特性に基づいて細分化された医療が広く行なわれるようになる前にランダム化試験で確認する必要があります」と話している。

細分化医療は個別化医療としても知られ、医療行為の決定の際に腫瘍の分子生物学的データを考慮する。過去に行なわれた肺癌のBATTLE試験をはじめとする細分化医療の試験では、一つの腫瘍のみに焦点を当ててきたが、Tsimberidou医師は、すべてのがん治療が分子生物学的特徴に基づいて行われる日が来ることを思い描いている。彼女は、「複数の腫瘍をまたいだ細分化医療を検証するためのランダム化臨床試験を実現したかったのです」と話した。

IMPACT2

IMPACT2試験では、転移を有する固形腫瘍があり過去に0~3種類の治療を受けた患者の登録を行なっている。患者は、生検で腫瘍を採取できるかまたは、過去一年に採取された腫瘍組織を利用できその間に治療が行われていないことが必要である。

腫瘍の生検検体は、315のがん関連の遺伝子変異を検出するプロファイリングアッセイでスクリーニングする。ある患者で検出された変異に対する治療薬が入手可能かまたはMDアンダーソンで施行中の臨床試験で検討されていれば、その患者はランダム化の適格患者となる。しかし、米国食品医薬品局(FDA)が承認している標的薬剤で治療できるタイプの腫瘍であれば、適格とはならない。このような患者は、FDAが承認している薬剤で主治医が治療を行なう。

例を挙げると、BRAF遺伝子変異は、黒色腫患者のおよそ半数にみられる。FDAは、BRAFタンパク質を標的とするベムラフェニブとダブラフェニブの2剤を黒色腫治療薬として承認している。そのため、BRAF遺伝子変異を有する黒色腫患者は、IMPACT2試験には参加できない。一方、頻度は高くないが、肺癌や頭頸部癌など別の腫瘍がある患者でもBRAFの遺伝子変異は発現する。この場合、BRAF阻害薬は使用できるがFDAは承認していないため、IMPACT2に適格となる。

適格患者は、分子標的治療または腫瘍の分子生物学的異常を考慮しない治療に無作為に割り付けられる。後者の場合、治療方法は主治医が決定する。分子標的治療を行なう場合は、標準化された治療アルゴリズムを採用する腫瘍委員会が治療を決定する。本アルゴリズムは、積極的に患者を募集している臨床試験に基づき毎週更新される。

腫瘍委員会は、参加している診療部門の試験責任医師で構成され、標的とする分子レベルの変異や参加者募集中の臨床試験、標的薬の順序リストを作成する。各部門でどの腫瘍タイプの試験を優先するかを決定し、臨床試験の更新リストを提供する。

Tsimberidou医師は、「IMPACT2試験は、私たちの機関でがん医療に携わる診療部門やその他の部門の協力がなければ実現できなかったでしょう」と述べた。

IMPACT2試験の主な目的は、分子プロファイリングで治療を選択した場合とそうでない場合で無増悪生存期間が長くなるかどうか検討することである。

分子標的治療の機会の改善

Tsimberidou医師は、IMPACT2試験は細分化医療への障壁に対処できるようデザインされていると述べた。障壁とは、多くのがん種において(分子プロファイリングで必要となる)ルーチンの生検が行なわれていないこと、標的治療の主観的な選択、分子プロファイリング結果の待ち時間の長さ(数週間あるいは数カ月)などである。本臨床試験における標準治療アルゴリズムでは、標的薬の主観的な使用に対処しており、また、プロファイリングの結果が出るまでの時間は14日間である。

IMPACT2試験が克服を目指しているもう一つの障壁として、標的薬の使用選択肢が限られている点があげられる。本試験は、がん種を考慮すると一般的には分子プロファイリングを行なわない患者に対してもプロファイリングを行なうことで、患者が検討しなかったであろう標的治療を臨床試験で受けることができるようにしている。

Tsimberidou医師は、「標的治療を行なう臨床試験への参加の機会は非常に限られています。最善の状況として、われわれのような学術機関では、患者のおそらく10%~30%が標的治療を受けることができます。そして、すべての患者がそうあるべきです」と述べている。

米国臨床腫瘍学会が実施しているものも含め、分子標的薬の使用機会を改善するためのいくつかの取り組みが進められている。Tsimberidou医師は、IMPACT2試験の結果がこれらの取り組みへの支持を強化するものとなることを期待している。

同医師は、「IMPACT1での治療成績をIMPACT2で確認できれば、分子プロファイリングはすべての癌患者にとって標準治療になるでしょう」とも述べた。

【表中語句・キャプション訳】

IMPACT試験
黄線
:分子プロファイリングによる治療
緑線
:分子プロファイリングを行なわない治療
グラフ左
:無増悪生存期間(患者の割合)
グラフ下
:月数
IMPACT 1試験では、腫瘍の分子プロファイルを考慮して治療を選択した患者は、そうでない患者よりも無増悪生存期間中央値が長かった(P < .0001)。現在これらの結果を確認するためのランダム化試験が実施されている。2011年の米国臨床腫瘍学会の年次総会でTsimberidou医師が発表したスライドからの引用である。

— Bryan Tutt

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翻訳担当者 宮武洋子

監修 田中文啓(呼吸器外科/産業医科大学教授)

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