OncoLog 2015年1月号◆乳癌患者の一部では、短期全乳房照射が有用な可能性

MDアンダーソン OncoLog 2015年1月号(Volume 60 / Number 1)

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乳癌患者の一部では、短期全乳房照射が有用な可能性

乳癌患者の一部において、標準療法よりも高線量の分割照射による放射線治療が有害事象を低減し、患者の生活の質を改善する可能性がある。

乳房温存療法を受けた早期乳癌患者では、標準治療として6週間の全乳房照射(WBI)を受ける。しかしながら、最近の臨床試験の結果では、寡分割全乳房照射(標準治療より1回あたりの線量を高くし、照射回数を減らしたもので、治療期間中の総線量は下がる)は、急性期有害事象および倦怠感が低減すると示唆されている。

寡分割全乳房照射(WBI)について

寡分割全乳房照射の有効性は十分に立証されている。2000年代の初め、カナダと英国で行われた4つの大規模ランダム化試験において、3~4週間の寡分割全乳房照射と、5~6週間の通常分割全乳房照射を比較した。この結果、腫瘍制御、患者の生存期間、有害事象度合において両群間に差は見られなかった。10年の経過観察においても同等の結果であった。

試験プロトコルに放射線照射を含まない(米国では標準的)場合もあるため、本試験の結果を米国の患者に適用できるかについては懸念があった。このため、寡分割全乳房照射の適応対象は広がらず、長い治療期間を要する通常分割全乳房照射ではなく、この寡分割全乳房照射を受けている割合は米国の適応患者の20%しかいない。

寡分割全乳房照射の使用ガイドラインは2011年に発行されているが、いまだに適応例は増加していない。このガイドラインは米国放射線腫瘍学会(ASTRO)の作業部会によって作成されたが、その内容は、50歳以上で全身化学療法を受けたことのない病理ステージT1~T2N0の乳癌患者に対して、寡分割全乳房照射は通常分割全乳房照射と同様とする結果が示された以前の複数の臨床試験に基づいていた。

ASTROガイドラインの著者らは、寡分割全乳房照射の役割を明確にするため、他の特徴を有する患者を対象とした場合や、化学療法との併用や放射線障害について寡分割全乳房照射と通常分割全乳房照射との間で差があるか、といったさまざまな研究が必要であると記した。

今回の臨床試験

寡分割全乳房照射の適切な使用法を明確にするために、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターは寡分割全乳房照射と通常全乳房照射との間における長期にわたる整容性成績および急性期障害を比較する臨床試験を実施した。

この試験では、以前にカナダと英国において行われた試験よりも多様な患者を対象としており、アンスラサイクリンまたはタキサン系薬剤を用いた化学療法を受けている患者、術前化学療法を受けた患者、非浸潤性乳管癌(DCIS)患者が含まれていた。

適格患者は非浸潤性乳管癌であるか、浸潤度がTis、T1あるいはT2で、所属リンパ節転移の進行度はN0、N1miあるいはN1aと診断された早期の浸潤性乳癌を有する40歳以上の女性である。患者のすべてが乳房温存手術を受けており、外科的切除縁は陰性である。3カ所以上に腋窩リンパ節転移を有する患者は不適格であったが、別に所属リンパ節への放射線照射が計画された。

2011年から2014年の初頭にかけて患者287人が試験に登録し、通常の分割全乳房照射(25分割で総線量50Gy+腫瘍床への照射を5~7分割で総線量10~14Gy) か、寡分割全乳房照射(16分割で総線量42.56Gy+腫瘍床への照射を4~5分割で総線量10.0~12.5Gy)の治療を受ける群に無作為に割り付けられた。

「定説では、日々の治療では少線量を照射して治療期間を通じて総線量が高くなる照射法がベストな結果を生むとされていますが、私たちが提唱してきたのは、1回の治療で高い線量を用いて、総線量を減らす治療法です」と、放射線腫瘍学の助教で本試験の筆頭研究者であるBenjamin Smith医師は述べた。本試験の共同研究者は、放射線腫瘍学の准教授であるSimona Shaitelman医師、またMDアンダーソンの副学長を務め医長でもある放射線腫瘍学教授Thomas Buchholz医師である。

総合的に、グレード2以上の急性毒性作用は、通常分割全乳房照射を受けた患者と比べて寡分割全乳房照射を受けた患者で有意に低い割合となった。具体的には、寡分割全乳房照射を受けた患者では皮膚炎、そう痒症、乳房痛、色素沈着過剰および倦怠感といった症状においてグレード2以上の急性毒性作用があった割合が有意に低かった。

試験開始前に、癌治療における機能評価シート(Functional Assessment of Cancer Therapy–Breast: FACT-B)によって評価された身体的健康および倦怠感は、両群の患者において同等であった。しかしながら放射線治療後半年の時点で、寡分割全乳房照射治療群におけるFACT-Bの評価スコアは通常分割全乳房照射治療群よりも高かった。なお腫瘍学的治療成績については今日まで両群間に差はない。

「これらは、4週間の治療法が、より長期の治療法を受けた場合と比較して腫瘍学的治療成績が同等であるというだけでなく、有害事象、特に倦怠感の面からみて優れているという初めての実データです」とSmith氏は述べた。「有害事象を低減し、全体的な生活の質を改善することに加えて、治療期間を2週間短くすることができるのは、通常の患者さんには好ましいことです」。

本試験の結果は9月にサンフランシスコで開催されたASTROの年次総会でShaitelman氏によって発表された。また本年中に誌面で発表される予定である。

今後の展開

本試験を受けた患者についても、今後長期にわたり治療後の整容性の経過観察を続けるのと同時に、Smith氏らは本試験の結果をもとに、寡分割全乳房照射を評価するため現在のASTROガイドラインで治療適応になっていない患者のための新しいランダム化臨床試験を立ち上げたい意向である。

— Markeda Wade

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翻訳担当者 岡田章代

監修 中村光宏(医学放射線/京都大学大学院医学研究科)

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