OncoLog 2014年11-12月号◆糖尿病の枠を超えて:メトホルミンの癌領域での有用性 | 海外がん医療情報リファレンス

OncoLog 2014年11-12月号◆糖尿病の枠を超えて:メトホルミンの癌領域での有用性

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OncoLog 2014年11-12月号◆糖尿病の枠を超えて:メトホルミンの癌領域での有用性

MDアンダーソン OncoLog 2014年11-12月号(Volume 59 / Number 11-12)

 Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL

 

糖尿病の枠を超えて:メトホルミンの癌領域での有用性

 

メトホルミンは、数十年にわたり糖尿病に処方されてきた安価な薬剤であるが、さらにいくつかの癌予防や治療にも有用かもしれない。

 

1995年に米国食品医薬品局(FDA)に承認されて以来、メトホルミンは2型糖尿病の治療で最も多く処方される薬の1つとなったが、この薬はさらに別の可能性を秘めている。すなわちメトホルミンは糖尿病前症、多嚢胞性卵巣症候群、各種の癌治療にも試験されている。癌治療におけるメトホルミンの有効性が証明されれば、癌患者にとって医療的のみならず経済的にもメリットがある。米国の薬局では、経口メトホルミンのジェネリック品は1カ月あたり$5ドル未満で手に入るからである。

 

実験的癌治療科(Department of Investigational Cancer Therapeutics)の准教授であるAung Naing医師は、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターでメトホルミンの研究を主導する研究者のひとりである。「内分泌科医にとってはすでに定番のこの薬ですが、腫瘍内科医にとってはニューフェイスです」。

 

各種の癌でのこれまでの結果

Naing医師は、MDアンダーソンの研究者が2009年に発表した2つの論文がきっかけとなって、メトホルミンの抗癌効果の可能性に注目するようになったという。1つ目の研究は乳腺腫瘍内科(Department of Breast Medical Oncology)のグループによるもので、初期乳癌女性2,529人中、化学療法後の病理学的完全奏効率(pCR)が、糖尿病患者でメトホルミンを服用している群(24%)で、メトホルミンを服用していない糖尿病患者群(8%)、非糖尿病患者(16%)に比べ高いことを明らかにした。2つ目の研究は消化器腫瘍内科(Department of Gastrointestinal Medical Oncology)のグループによるもので、糖尿病患者255人中、メトホルミン投与群ではメトホルミン非投与群より膵癌発症リスクが62%低下していた。

 

その後、MDアンダーソンの研究者はいくつかのレトロスペクティブ研究で癌と糖尿病を併発している患者のアウトカムを調べた。前立腺癌、大腸癌、膵癌、トリプルネガティブ乳癌、HER2陽性乳癌、多発性骨髄腫の患者を対象とした別々の試験で、メトホルミンを服用している患者は服用していない患者と比較して、全生存期間中央値が長いことが明らかになった。

 

さまざまな分子作用

トランスレーショナルリサーチレベルでは、in vitroおよびin vivo試験によって数種の癌でのメトホルミンの使用が支持される結果となり、腫瘍検体のバイオマーカー研究とともに、メトホルミンの分子作用機序解明が始められている。

 

メトホルミンは、細胞の成長、増殖、生存に関連する主要な複数のプロセスに影響を及ぼすようである。メトホルミンがこれらの過程に及ぼす作用は、代謝活動と細胞内シグナル伝達から生じている。まず、メトホルミンは肝臓のグルコース産生を低下させ、血中濃度と細胞のインスリン取り込みを減少させる。次に、インスリン刺激が低下した結果、細胞膜表面のインスリン受容体の活性が低下し、これによりRas/Raf/MEK/ERKシグナル伝達経路やPI3K/AKT/mTORシグナル伝達経路のダウンレギュレーションといった、細胞内分子作用のカスケードが引き起こされる。多種の癌細胞で、これらの経路の一方または両方がしばしば活性化されている。さらにメトホルミンは、グルコースとインスリンの調節に重要な分子であり、mTORの阻害物質であるAMP活性化タンパク質キナーゼを亢進するようである。

 

臨床試験

メトホルミンの抗癌剤としての可能性を示したレトロスペクティブ研究および前臨床試験に基づいて、従来型の化学療法や、放射線療法、分子標的療法、その他の癌治療とメトホルミンを併用する臨床試験が進められている。また、メトホルミン単剤の癌予防試験も行われている。本稿執筆時点でMDアンダーソンでは、メトホルミンが関与した6つの臨床試験が進行中で、他にもいくつかが検討中である 。

 

メトホルミンと子宮内膜癌

糖尿病と子宮内膜癌との関連から、メトホルミンがこの癌の治療に有望ではないかと期待されている。「インスリン抵抗性と糖尿病は、いずれも子宮内膜癌の主要な危険因子であり、糖尿病でよくみられる肥満は、他の癌以上に子宮内膜癌のリスクを増大させます」と、婦人科腫瘍学・生殖医学科(Department of Gynecologic Oncology and Reproductive Medicine)准教授であるPamela Soliman医師・公衆衛生学修士(M.P.H.)はいう。

 

メトホルミンの影響を受ける分子経路のうち複数の経路、特にPI3K/AKT/mTOR経路が子宮内膜癌に関与している。このため、Naing医師とSoliman医師は、メトホルミンと別のmTOR阻害薬を組み合わせる臨床試験を実施している。「2つの機序で同一の経路を阻害すると、相加効果が得られる可能性があります」とSoliman医師はいう。

 

Soliman医師が現在主導する第2相試験では、進行または再発した子宮内膜癌の治療に、メトホルミンに加えてmTOR 阻害薬のエベロリムスと抗エストロゲン薬のレトロゾールを使用している。この試験は、エベロリムスとレトロゾールを投与された患者を対象とした先行試験から派生したものである。「最初の試験で患者の1人がmTOR阻害薬の副作用で糖尿病を発症し、そのプライマリケア医がメトホルミンを処方しました」とSoliman医師はいう。「この患者はメトホルミン投与前は変化がなかったのですが、メトホルミンを投与すると試験薬に反応し始めたのです。他にも、メトホルミンを服用していて癌治療に反応するようになった患者がいました」。この臨床知見がきっかけとなり、Soliman医師のグループはラボ試験でメトホルミンを調べ、培養細胞株とマウスでメトホルミンが子宮内膜癌の細胞増殖を抑えることを発見した。次に、子宮内膜癌患者のベースライン時の診断的生検検体とメトホルミン投与後の手術検体でバイオマーカーを調べた。Soliman医師は、これらの検体での分子の変化について2014年米国臨床腫瘍学会年次総会で報告した。

 

Soliman医師は、エベロリムス/レトロゾール/メトホルミンの併用試験に加え、III期およびIV期の子宮内膜癌患者を対象とした全国規模の試験で、MDアンダーソンの試験責任医師を務める。患者は、標準的な化学療法(パクリタキセル+カルボプラチン)を受ける群と、この化学療法にメトホルミンを加える群に無作為に割り付けられた。

 

Naing医師の併用療法試験では、メトホルミンとmTOR阻害薬のテムシロリムスを組み合わせている。この試験の第1相では、各種の進行癌の患者を組み入れたが、第2相試験では子宮内膜癌患者に対象を絞り込んだ。Naing医師は、この試験に2つの革新的な側面を取り入れた。

 

まず、Naing医師は、過去に実施された試験よりも最終的に高い用量を安全に投与できるようにする用量設定方法を採用した。「メトホルミンは低用量で開始して徐々に増量しました。その後テムシロリムスを開始しました。第1相試験では、この方法により副作用が低減しました。テムシロリムスの副作用として血糖値上昇がありますが、これをメトホルミンで治療し、一石二鳥を狙っているのです」。

 

2つ目の画期的な方法は、PI3K/AKT/mTOR経路に影響を及ぼすような遺伝子変異をもつ子宮内膜癌患者から、連続して生検検体を採取することである。「子宮内膜癌では、この経路に影響を与える変異が高頻度にみられます」とNaing医師はいう。メトホルミンとテムシロリムスはいずれもこの経路を阻害するため、生検で採取した組織の分子プロファイルに経時的に変化がみられるかどうかに注目している。

 

Naing医師はさらに、ある一定の変異のある患者が変異のない患者よりもメトホルミンへの応答性が高いかどうかを調べたいと考えている。「これは、子宮内膜癌の女性にとって記念すべき試験 となるでしょう」。

 

メトホルミンと肺癌

肺癌を対象としてメトホルミンと放射線療法を併用する2つの臨床試験がまもなく開始される。

 

代謝に対するメトホルミンの作用は、放射線腫瘍科(Department of Radiation Oncology)の助教であるHeath Skinner医学博士も注目している。「放射線への抵抗性は、腫瘍における代謝の変化である可能性があります」とSkinner博士はいう。同博士のグループは、メトホルミンなどの代謝における分子標的薬が放射線増感剤としてはたらく可能性を示唆するin vitroおよびin vivo試験を行った。次に、放射線療法を受けた患者のカルテをレトロスペクティブに確認し、メトホルミンを使用していたかどうかを調べた。「調査対象とした頭頸部癌、食道癌、肺癌の患者集団の多くで、糖尿病のためメトホルミンを使用していた患者のほうが良好な成果を得ました」。

 

Skinner博士は、これらの結果に基づいて、手術不能のIB期非小細胞肺癌患者を対象として定位放射線療法とメトホルミンを併用する臨床試験について、米国国立衛生研究所(NIH)の資金を申請しており、承認の最終段階を迎えている。ベースラインで陽電子放射断層撮影(PET)検査を実施し、メトホルミンまたはプラセボを3週間投与した後で2度目のPET検査を行い、放射線治療期間中に同じ投薬を継続し、6カ月後に3度目のPET検査を実施する。Skinner博士によると、「PETで確認できる腫瘍サイズにメトホルミン自体が影響を及ぼすかどうか、メトホルミンと放射線療法を併用すると放射線療法単独よりも転帰が改善するかどうかを確認できるでしょう」。

 

Skinner博士は、非営利の研究組織であるNRG Oncologyが主導した全米規模の第2相試験の共同試験責任医師も務める。この試験は、まもなくMDアンダーソンで患者登録が開始されるが、局所進行した非小細胞肺癌患者を、標準治療と化学放射線療法にメトホルミンを加える群と加えない群に無作為に割り付けた。Skinner博士によると、「メトホルミンと放射線療法を併用する試験は、私の知る限りこの2つだけです」。

 

ベネフィットと注意事項

癌患者におけるメトホルミンの有用性は、治療と予防の枠を超えるかもしれない。MDアンダーソンの症状研究科(Department of Symptom Research)のグループは、化学療法で誘発される末梢神経障害がメトホルミンによって緩和されるかどうか研究している。同グループによる最近の前臨床研究では、マウスにメトホルミンとシスプラチンを投与すると(プラセボとシスプラチンを投与した場合と比べて)四肢の感覚の喪失が有意に減少し、末梢神経終末が保護されることが示された。メトホルミンは癌の治療と予防で多くの利益が期待されるが、癌での使用は依然として研究段階だとNaing医師は警告している。現在行われているようなしっかりした臨床試験により、安全性と有効性を確認する必要がある。

 

メトホルミンを処方する際には、いくつか注意点がある。まれではあるが、特に腎臓に問題のある患者で、メトホルミンの使用によって乳酸アシドーシスが起こる。したがって、メトホルミンは腎機能または肝機能に異常のある患者、心不全の患者には推奨されない。また、画像診断の造影剤を投与する前にはメトホルミンを中断しなくてはならない。さらに、メトホルミンは他の薬物と組み合わせて注意して使用するべきである。

 

こうした禁忌にもかかわらず、その有害作用は通常管理しやすいため、メトホルミンは抗糖尿病薬として広く用いられている。下痢、悪心、嘔吐が最も高頻度である。「メトホルミンの良い点は、きわめて安全、安価であり、癌治療に容易に取り入れられることです」とSkinner博士は述べた。

 

【画像キャプション】メトホルミンは、細胞のシグナル伝達経路上の複数のポイントで直接的または間接的に影響を及ぼす。この理由から、メトホルミンはさまざまな癌種に対して有効である可能性がある。

 

For more information, contact Dr. Aung Naing at 713-563-0181, Dr. Heath Skinner at 713-563-3508, or Dr. Pamela Soliman at 713-745-2352.

FURTHER READING
Hajjar J, Habra MA, Naing A. Metformin: an old drug with new potential. Exp Opin Invest Drugs. 2013;22:1511-1517.

 

— Sunita Patterson

 

The information from OncoLog is provided for educational purposes only. While great care has been taken to ensure the accuracy of the information provided in OncoLog, The University of Texas MD Anderson Cancer Center and its employees cannot be held responsible for errors or any consequences arising from the use of this information. All medical information should be reviewed with a health-care provider. In addition, translation of this article into Japanese has been independently performed by the Japan Association of Medical Translation for Cancer and MD Anderson and its employees cannot be held responsible for any errors in translation.
OncoLogに掲載される情報は、教育的目的に限って提供されています。 OncoLogが提供する情報は正確を期すよう細心の注意を払っていますが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターおよびその関係者は、誤りがあっても、また本情報を使用することによっていかなる結果が生じても、一切責任を負うことができません。 医療情報は、必ず医療者に確認し見直して下さい。 加えて、当記事の日本語訳は(社)日本癌医療翻訳アソシエイツが独自に作成したものであり、MDアンダーソンおよびその関係者はいかなる誤訳についても一切責任を負うことができません。

翻訳月橋純子

監修廣田 裕(呼吸器外科/とみます外科プライマリーケアクリニック)

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