新たな術前併用療法がトリプルネガティブ乳癌患者の転帰改善に有望

多数の薬剤を検討する画期的な第2相乳癌試験であるI-SPY 2試験は、最初の薬剤の検証が終了し、有望な結果であることが明らかになった。12月10日~14日に2013サンアントニオ乳癌シンポジウムが開催され、I-SPY 2試験の結果が発表された。化学療法薬カルボプラチンおよび分子標的薬veliparibを手術前の標準化学療法に追加することにより、トリプルネガティブ乳癌の転帰が改善した。

化学療法が有益であると思われる乳癌患者には術前補助療法と呼ばれる治療アプローチで手術の前にその化学療法を実施することがある。この方法により、医師や研究者は腫瘍が治療に対してどのように反応するかがわかる。術前補助療法の終了後に、手術で切除した乳房組織およびリンパ節に侵襲性の癌の残存が認められない場合、その患者は病理学的完全奏効(pCR)を得たとされる。病理学的完全奏効が得られた女性の方が、得られなかった女性よりも長期生存の可能性が高い。

I-SPY 2(Investigation of serial studies to predict your therapeutic response with imaging and molecular analysis 2)試験では適応的デザイン(アダプティブデザイン)を採用し、どの患者にはどの治療の方が優れているかを試験の進行中に確認する。適格患者を無作為化により、標準的な術前化学療法(パクリタキセル投与後にアンスラサイクリンベースの化学療法)を実施する群と、新規薬剤とパクリタキセルの併用後、手術前にアンスラサイクリンベースの化学療法を実施する群とに割り付ける。登録患者が新規薬剤の投与群に無作為に組み入れられる確率は4対1であった。

「試験が進行するにつれて、腫瘍のさまざまなタイプが異なる新規薬剤にどのように反応するかが明らかになります。アダプティブデザインを用いることによって、一部の腫瘍タイプに対して優れた効果を示す治療にその患者を組み入れることができる確率が高くなります」とカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF) Helen Diller Family総合がんセンターの教授(内科学)で乳腺腫瘍学および臨床試験教育プログラムのディレクターHope S. Rugo医師は言う。

I-SPY 2試験の適応的統計的デザインは、I-SPY試験を統轄する試験責任者Laura J. Esserman医師とDon Berry博士の2人が開発した。Laura J. Esserman氏は、サンフランシスコのUCSF の教授(外科および放射線学)で、Helen Diller Family総合がんセンターCarol Frank Buck Breast Care Centerのディレクターである。経営学修士の学位もある。Don Berry博士は、テキサス大学MDアンダーソンがんセンター生物統計学科教授で、Berry Consultantsの設立者でもある。

Rugo氏は、現在までに検証した7つの試験薬群の1つと、同じ時に無作為に振り分けられた対照群の試験結果を報告する。試験結果では、トリプルネガティブ乳癌患者に対しては、veliparib(ベリパリブ)とカルボプラチンを標準療法と併用する方が、標準療法単独(対照群)よりも病理学的完全奏効が得られる可能性が有意に高いことが示されている。

Rugo氏は「この結果から考えると、第3相試験でveliparib+カルボプラチンのレジメンは、対照レジメンと比較して、トリプルネガティブ乳癌に対して優れた効果を示す可能性がきわめて高いと言えます」と話す。

I-SPY 2試験に登録するには、乳腺腫瘍の大きさが2.5cm以上、さらに70遺伝子を検査するMammaPrintによって乳癌の早期再発リスクが高いと判定されるか、MammaPrintの判定とは関係なく、トリプルネガティブ乳癌またはHER2陽性乳癌であるという条件を満たす必要がある。

I-SPY 2試験に登録した患者のうち71人が、適応的アルゴリズムに従って、veliparib+カルボプラチンをパクリタキセルと併用するグループに無作為に組み入れられた。このうち、38人がトリプルネガティブ乳癌、33人がホルモン受容体陽性でHER2陰性乳癌であった。同じ時点の無作為化によって、HER2陰性乳癌患者44人が標準術前化学療法(パクリタキセル投与後にアンスラサイクリンベースの化学療法)群に組み入れられた。

トリプルネガティブ乳癌患者において推定される病理学的完全奏効率は、veliparib/カルボプラチン+標準療法(パクリタキセル後にアンスラサイクリンベースの化学療法)群で52%、対照群で26%であった。HER2陰性乳癌患者では、この率はそれぞれ33%および22%であった。

研究者らはこのデータに基づいて、このトリプルネガティブ乳癌患者対象、300人規模のランダム化第3相臨床試験で病理学的完全奏効率をもとにveliparib/カルボプラチン+標準療法群の方が標準療法単独群よりも優れていることが統計学的に示されるベイズ予測確率を92%であると割り出した。この試験の登録患者がすべてHER2陰性乳癌患者であった場合、この確率はわずか55%まで低下すると考えられた。

「以上のデータから、I-SPY 2試験の適応的デザインは、第3相登録試験の原動力となる結果を生み出せることが示されました」とRugoは言う。「どの患者に奏効するかを特定することによって、試験の規模を縮小し、新薬開発を加速し、患者の大半で過剰診療を回避することができます。これが創薬の将来像です」。Esserman、Berryの両氏は、「I-SPY 2試験の画期的なデザインが機能している証拠が示されて興奮しています。今後は、従来よりも効率よく、効果的な試験が可能になります。結果的に試験の経済的負担も軽減されるでしょう」と話す。

I-SPY 2試験は、2010年にバイオマーカーコンソーシアムによって開始された。バイオマーカーコンソーシアムは、米国食品医薬品局、米国国立衛生研究所および主要な製薬企業を含む米国国立衛生研究所財団の官民協同体である。I-SPY 2試験は、現在は非営利団体QuantumLeap Healthcare Collaborativeによって支援され、ほかにも患者支援団体およびアメリカとカナダの20の研究施設のがんセンターが含まれる。I-SPY 2試験に対する無拘束資金が、Safeway Foundationをはじめとする非営利財団、製薬企業数社をはじめとする民間セクターおよび慈善献金によって提供されている。

Rugo氏は利益相反がないことを宣言している。

翻訳担当者 中村幸子

監修 原野謙一(乳腺科・婦人科癌・腫瘍内科/日本医科大学武蔵小杉病院)

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