2012/10/16号◆各界のトピック「BRCA関連癌に特化したBasser 研究センター」

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NCI Cancer Bulletin2012年10月16日号(Volume 9 / Number 20)

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◇◆◇ 各界のトピック ◇◆◇

BRCA関連癌に特化したBasser 研究センター

開設したばかりのBasser Research Center for BRCA(BRCA遺伝子関連癌のための研究センター https://www.penncancer.org/basser/)は特異な使命を持っている。名前からわかるように、当センターはBRCA遺伝子に関連する癌(BRCA遺伝子関連癌)のみの基礎研究から実地臨床に特化している。当センターはフィラデルフィアにあるNCI指定のペンシルベニア大学アブラムソンがんセンター内にあり、Faith Basser氏(Mindy Gray氏の姉妹で、卵巣癌により44歳で死亡)の死を追悼してMindyおよび Jon Gray氏より設立当初の資金として2500万ドルの寄付を受けた。

BRCA遺伝子変異を有する人は、いくつかの癌、特に乳癌および卵巣癌を発症する危険性が一般の人よりも高い(下部の囲み記事参照のこと)。Basserセンターの研究者らはBRCA関連癌を予防または早期に発見する方法を確立することを目的としている。また臨床研究責任医師らは、この研究の大半が大きな影響を与えると信じている。

「われわれがリスク評価、予防、早期発見、および治療の観点から、BRCA 1/2遺伝子について学ぶことは、他の発生原因の乳癌や卵巣癌だけでなく、他の癌の治療にも応用できる可能性があります」と当センターの最高責任者であるDr. Susan Domchek氏は述べた。また「BRCA 1/2遺伝子変異を有する人において癌がどのように発症するのか、その結果、その癌の治療標的をどこにするのかを理解することにもなるのです」とした。

広い研究分野と深い専門性

Basser研究センターの強みの一つは、ペンシルベニア大学の臨床および研究資源を取り入れられることである。たとえば、乳癌や婦人科癌を有する女性は、それらの癌を専門にする施設で治療を受け、女性の癌に関するリスク評価を専門にするセンターで遺伝カウンセリングを受ける。Basserセンターでは、研究面に関する卵巣癌および乳癌の研究プログラム、トランスレーショナルリサーチ(基礎研究から臨床応用までの橋渡しをする研究)プログラムを実施し、個別化診断のセンター、細胞およびワクチン生産の施設を備える。

「当センターは広い研究分野と深い専門性を持っていることが重要なのです」とDomchek氏は述べ「基礎生物学については、両側乳房切除術を受ける女性がその理由を自分の14歳の子どもに説明するのと同じぐらい重要なのです」とした。

Basser研究センターでは、免疫療法、癌の遺伝学、分子イメージング、疫学、統計学、基礎科学および臨床ケアの専門家を集結することにより、技術革新に拍車をかけたいとアブラムソンがんセンター(NCIから一部の資金提供を受けている)のディレクターであるDr. Chi Van Dang氏は述べた。

「われわれは月例会議を開き、研究者全員がそれぞれの研究について報告します。それによりお互いに情報を得ることができるのです」とDomchek氏は説明した。そして特に有益なのは、臨床医と基礎研究者が定期的にお互いにやり取りをし、臨床医が直接、研究者に質問することができることだという。

また研究者の多くは以前から一緒に働いていたが、当センターの設立が人と人を結びつける「強力な接着剤」になったと述べた。

掘り下げた研究

Gray家からの資金提供により、研究者らは既存の研究分野をより深く追求することが可能になってきている。たとえば、ペンシルべニア大学には腫瘍組織と生体試料バンクがあるが、さらにこの新たな資金により、バイオマーカーの開発および評価に使用する血清および血漿検体のためのバイオバンク部門が設立されることになる。

「バイオマーカーや画像診断の恩恵による早期発見は、われわれにとって非常に重要です」とDomchek氏は強調した。現時点では、卵巣癌に関する効果的な検診方法はなく、最も一般的な予防方法は卵巣の除去であり、時には比較的若い年齢で除去することもある。BRCA 1/2遺伝子変異を持つ女性の多くは、乳癌を発症するリスクを軽減するために両側乳房切除術も行っていると述べた。

資金提供により、Basserセンターの研究者らは、最新の画像性能や免疫に基づいた治療戦略など、さまざまな新しい分野を掘り下げて研究することも可能になった。

「当センターには、病気の早期発見のための造影剤の開発を可能にする特定の標的分子を研究している研究者もいます」とDang氏は説明した。「その一方で、それと同じ分子を、われわれが操作する免疫細胞の直接の標的とする可能性もあります。最終的には将来、女性が手術をしないで済むようになるワクチンや画像技術を開発したいのです」と述べた。

BRCA 1/2遺伝子により産生されるタンパク質は、損傷を受けたDNAを修復する上で重要な役割を果たすことが知られているが、研究者たちは、BRCA遺伝子変異がどのように癌を引き起こし、なぜ遺伝子の特定の領域における変異が乳癌よりも卵巣癌の発症リスクを高めると考えられるのかをまだ完全に理解していないとDang氏は述べた。またDomchek氏は、このようなことを理解することが、BRCA遺伝子変異による癌の予防や治療の方法を見つけることの助けになる可能性があるとした。

検査の時期

Basser研究センターはGray基金を使い、支援活動、教育、共同研究にも力を入れている。この中には、Facing Our Risk of Cancer Empowered(FORCE)と呼ばれる、遺伝性乳癌および卵巣癌に罹患した人々の支援団体との提携も含まれている。当センターは一般の人々がBRCA遺伝子関連の癌に関する臨床情報や研究情報について要望ができるウェブページの作成もしており、多くの遺伝カウンセラーも置き、患者が地域での支援を見つけたり、臨床試験に参加したりすることができるよう支援している。

まさに、BRCA遺伝子変異の一連の検査は困難な問題を含んでいるとDang氏は指摘する。

「いつの時点で検査をし、いつその結果を患者に知らせるか、その影響はどのようなものなのか、またそれぞれの患者はどのような心理的影響を受けるのでしょうか」と同氏は述べ「この研究は、分子を基準にした重要性だけではなく、患者一人一人の心身の健康にとっても非常に重要なのです」とした。

Dang氏は、Basserセンターでは共同研究と技術革新に拍車をかけており、研究者らはより深くプロジェクトを追求していることもあり、より迅速に結果が出ることを期待しているという。 そして「3~5年の間に結果を出すのではなく、より短い時間枠内で情報を見つけるでしょう」との見通しを述べた。

資金によりBasserの研究者らは多くの新しい取り組みを行えるが、「私がこれまでに経験してきた中で最も重要なことは、当新センターがBRCA遺伝子変異を有する人々に実際に希望をもたらすということなのです」とDang氏は述べた。

— Virginia Hulme

【上段写真下キャプション訳】Dr.Susan Domchek氏はBasser研究センターで行われる研究により、BRCA遺伝子変異を持つ人々によりよい治療選択肢を提供できることになると期待している。(写真提供:Penn Medicine)

【下段写真下キャプション訳】Dr. Chi Van Dang氏は、Basserセンターで行われている研究は、より良い画像技術と免疫療法につながる可能性があると考えている。(写真提供:Penn Medicine)

NCI指定の包括的がんセンターとして、アブラムソンがんセンターは、Cancer Center Support Grant(P30CA016520)により一部の資金提供を受けている。

参考文献: 「BRCA1とBRCA2: 癌リスクと遺伝子検査

BRCA 1 /BRCA 2遺伝子について BRCA 1およびBRCA 2遺伝子が正常に機能する場合、それらが産生するタンパク質は制御不能な細胞増殖の抑制を促し、腫瘍形成を制御するが、時に、これらの遺伝子は、特定の癌のリスクを高める有害な突然変異を起こしている。 BRCA 1/ 2遺伝子変異を持つ女性は、乳癌および卵巣癌と同様に、子宮頸癌、子宮癌、膵臓癌、大腸癌、胃癌、胆嚢癌、胆管癌および黒色腫に対する高いリスクを持っている。これらの変異を有する男性は、乳癌、膵臓癌、前立腺癌、精巣癌のリスクが高くなる。BRCA遺伝子変異を有する女性は、遺伝子変異のない女性よりも乳癌を発症する可能性が5倍高い。遺伝性のBRCA遺伝子変異は、米国の白人女性の全乳癌の約5~10%、全卵巣癌の約10~15%を占めている。家族歴から有害なBRCA遺伝子変異を持つ可能性があるとされる人は遺伝子検査を受ける方が良いと思われる。有害なBRCA遺伝子変異を有する人には、癌を発症するリスクを低減する可能性のあるいくつかの選択肢がある。検診およびいくつかの監視方法、リスクを有する組織の切除手術、減量および身体活動を増加させるなどの行動変化、乳癌のリスクを低減することが証明されている薬の服用などが挙げられる。

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渉里幸樹 訳
喜多川 亮(産婦人科/NTT東日本関東病院) 監修 
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