2012/03/06号◆特集記事「高レベルのディーゼル排気が鉱山労働者の肺癌死に関連」 | 海外がん医療情報リファレンス

2012/03/06号◆特集記事「高レベルのディーゼル排気が鉱山労働者の肺癌死に関連」

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2012/03/06号◆特集記事「高レベルのディーゼル排気が鉱山労働者の肺癌死に関連」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2012年3月6日号(Volume 9 / Number 5)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~
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◇◆◇ 特集記事 ◇◆◇

高レベルのディーゼル排気が鉱山労働者の肺癌死に関連

非金属鉱山の労働者を対象とする疫学研究の結果が長らく待たれていたが、これによると、ディーゼル・エンジンを用いた鉱山機械の排気に曝されると肺癌リスクが増大するとみられる。 この研究の対象となった地下鉱山労働者は、中等度のディーゼル排気に曝されただけでも肺癌死亡リスクがいくらか高くなったと、Journal of the National Cancer Institute誌3月2日号は報じた。(一次解析二次解析論説を参照のこと。)

結果が公表されたのは「ディーゼル排気の鉱山労働者への影響に関する研究(DEMS)」である。 NCIと米国労働安全衛生研究所(NIOSH)の研究者が1992年に始めたこの研究は、ディーゼル・エンジン排気への曝露と肺癌死亡リスクの関係を明らかにするために行われた。 DEMSでは、さまざまなレベルのディーゼル排気に曝された12,000人以上の鉱山労働者について解析が行われた。

DEMSのデータに基づいて、最も高いレベルのディーゼル排気に曝される地下鉱山労働者は、地上勤務の鉱員や、より低レベルのディーゼル排気に曝される地下鉱山労働者に比べても、肺癌で死亡する確率が高いという結論が得られた。

「DEMSの結果は、ディーゼル排気への曝露が増えれば増えるほど肺癌死亡リスクが増すことも示しています」と研究代表者で元NIOSHのDr. Michael Attfield氏は述べた。この現象は曝露反応関係と言われていると、同氏は説明した。

研究多くしてコンセンサス無し

ディーゼル・エンジン排気には微少粒子が含まれており、鼻や口から身体に入って、ときには肺に沈着する。しかし、肺癌リスクとディーゼル・エンジン排気の関係を調べた研究は35件に上るにもかかわらず、これまで確たる証拠はなかった。

大多数の研究は、排ガス曝露によって、顕著ではないものの一貫して肺癌リスクがやや増大することを示していた。しかしながら、これらの研究の多くには重大な限界があった。たとえば、排ガス曝露レベルを研究対象者の職種(たとえばトラック運転手など)に基づいて研究者が推論しているだけで、実際にどれだけ排ガスに曝されているか数量化されていない場合があった。

このような限界を克服するために、NCIの癌疫学・遺伝学部門(DCEG)のDr. Debra Silverman氏、Attfield氏らの研究グループは、DEMSにおいて2つの解析を行った。一次解析は、米国内の8つの非金属鉱山で働く12,315人の鉱員全体を対象に行われた。(この分析に金属鉱山労働者が含まれていないのは、金属鉱山ではラドンに曝されることが多いからである。ラドンは肺癌リスクを上昇させ、ディーゼル排気の影響と見分けがつかなくなるおそれがある。)

研究グループは、鉱業会社の記録簿や、8カ所中7カ所の鉱山で採取した大気標本など、さまざまな情報源から、鉱員ひとりひとりについてディーゼル排気への職業的曝露を示す定量的な推定値を算出した。さらに、各鉱山におけるディーゼル機械目録の記載事項、たとえば機械の使用開始年や経年の換気データなどを調べた。

全体の解析から、ディーゼル排気のレベルが上昇するにつれて地下鉱員の肺癌死亡リスクが有意に高くなることが、とりわけ5年以上の従事者において顕著に示された。

二次解析では肺癌で死亡した鉱員を選び出し、これと炭坑(機種)・年齢・性別・人種を一致させた対照症例を選び出して、ケース・コントロール研究を行った。すなわち、研究対象集団のなかで肺癌死した198人と、肺癌死をまぬがれた対照群について、喫煙歴や、肺癌高リスクと関連する職業への従事歴、癌以外の呼吸器疾患の病歴などの詳細な聞き取り調査を行った。喫煙その他の要因に関する情報は、鉱員の近親者に対する聞き取りから得る場合が多かった。

二次解析の結果から、ディーゼル排気への曝露が高レベルの鉱員は、曝露レベルが最も低い鉱員に比べて、喫煙その他の肺癌リスク要因を補正した肺癌死亡リスクが3倍になることが示された。

数量化された鉱員の曝露レベルに基づき、喫煙等の交絡因子を補正後の肺癌死亡リスクの増大がディーゼル排気への曝露増大に相関するという統計的に有意な曝露反応関係を示した研究は、DEMSが初めてであると、著者らは記している。

「根拠となる非喫煙者の例が少数ではありますが、ディーゼル排気は非喫煙者に強い影響を及ぼすようでした」と、Silverman氏は言った。DEMSの対象となった非喫煙者では、肺癌死亡リスクが高レベルのディーゼル排気曝露によって、低レベルの曝露に比べ7倍になった。(喫煙者とディーゼル排気に関しては、下記囲み記事を参照。)

今回の研究は「ディーゼル・エンジン排気の危険性を証明する重要な研究です」と、インペリアル・カレッジ・ロンドンのDr. Lesley Rushton氏は、同時掲載された論説に書いている。また、国際がん研究機関(IARC)が今年、ディーゼル・エンジン排気と癌の関連性についてのエビデンスを検討する作業部会を予定していることから、時宜を得た研究でもある。1989年、IARCはディーゼル排気を「おそらく発癌性があるとみられる物質」に分類した。

環境曝露と都市部

このたびの研究成果は、鉱山労働者だけにとどまらず、職場でディーゼル排気に曝されている140万人のアメリカの労働者と何百万人もの世界中の労働者にとって、またディーゼル排気が高いレベルの都市に居住する人にとっても重要である、と著者らは記している。

都市部では、ディーゼル排気の最善の指標であるとされている元素状炭素の空気中濃度が高いために肺癌リスクが高くなるかも知れないことを、今回の研究は示唆している。Silverman氏らの推定によれば、排ガス汚染がひどい都市の住民が生涯にわたって受ける排ガス曝露量は、今回の研究対象のうち低レベルのディーゼル排気に曝された地下鉱員とほぼ同等である。

この報告やその他の研究結果を踏まえて、「ディーゼル・エンジン排気に関する厳格な労働安全衛生基準、とりわけ環境基準を定めて確実に遵守させることが、公衆衛生向上のために必要である」とRushton氏は書いている。

「ディーゼル排気への曝露を最小限にする社会的努力が必要です。ディーゼル・エンジン製造業者はすでに取り組みを始めています」とAttfield氏は述べた。しかしながら、概してディーゼル・エンジンは寿命が長いため、まだ何年にもわたって、多数の人が旧型エンジンの排気ガスに曝されるだろうと懸念される。

新世代のクリーンなディーゼル・エンジンが開発されてからまだ日は浅いと、Silverman氏は言う。「われわれの研究では、世界中で現在使用されている、つまり旧世代技術が大部分を占めるディーゼル・エンジンの排気が健康に及ぼす影響について調べました」と彼女は言った。

喫煙とディーゼル排気:不可解な相互作用ケース・コントロール解析の思いがけない研究結果のひとつは、最も高いレベルの曝露を受ける鉱山労働者において喫煙とディーゼル排気の相互作用があるらしいということであった。喫煙者では排ガス曝露による肺がん死亡リスクが低下し、逆に排ガス曝露者では喫煙による肺がん死亡リスクは低下する。「これは非常に興味深い」とSilverman氏は言った。そして、今回の結果はこのような相互作用に関する初の報告であり、別の集団において再現性を確かめる必要があると指摘した。高レベルのディーゼル排気曝露のもとで喫煙による肺癌死亡が減じられる理由について、研究者らはいくつかの可能性を挙げている。「喫煙者の方が非喫煙者よりも、ディーゼル排気の微粒子物質を肺から排出する率が高いからかも知れません」とSilverman氏は言う。

—Edward R. Winstead

 

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盛井有美子 訳
田中文啓(呼吸器外科/産業医科大学) 監修
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