2007/02/20号◆癌研究ハイライト「大腸内視鏡検査実施状況」「乳がんホルモン療法」「非喫煙女性の肺がん増加」他

同号原文

米国国立がん研究所(NCI) キャンサーブレティン2007年02月20日号(Volume 4 / Number 8)
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癌研究ハイライト

メディケア加入者の大腸内視鏡検査実施状況に格差あり

米国における大腸癌検診受診率は、治療の可能性がより高い初期に結腸直腸癌を発見することでその高い死亡率を大幅に低下させうるという研究結果が示されているにも関わらず、乳癌や子宮頸癌検診の受診率に比べて大きく遅れをとっている。Archives of Internal Medicine2月12日号に掲載された、イリノイ、フロリダ、ニューヨークに住む65歳以上のメディケア受給者約60万人を対象とした試験において、女性、非白人、低所得者あるいは教育レベルの低い人々の結腸癌検診受診は、男性、白人ならびに収入や教育レベルが高い者ほど多くないことが示された。

2年間で本試験群の男女の18.3%が結腸癌検診を受けたが、女性では大腸内視鏡といった侵襲性のある検査を受ける率が低かった。検査を受ける頻度はいずれの性別においても年齢に伴って低下したが、女性ではその傾向がより強かった。

本試験におけるほとんど(89.5%)の受給者が白人であった。黒人、ヒスパニックや他の人種・民族グループを非白人としてまとめて検討したが、彼らは白人に比較して、いずれかの検査の受診率が48%低かった。高卒者の割合が最も高い地域に住む受給者の検診受診率が52%高かった。一般的に、一人当たりの収入が高い地域(郵便番号で区分)の居住者で受診傾向が高かったが、収入が最も高いグループに属する非白人の受診は比較的少なかった。白人では収入が高いほど大腸内視鏡検査受診率が高かったが、非白人にはその傾向がみられなかった。

「観察された格差を縮小し、なくすための介入を行うには格差の原因を突き止めるさらなる研究が必要である」と、本研究の筆頭研究者であるミルウォーキー市、ウィスコンシン医科大学のDr. Ashwin N. Ananthakrishnan氏は記した。

ホルモン療法の切り替えによって乳癌の死亡率が低下

2件のランダム化比較試験を併せた研究結果が、Cancerへの掲載に先立ちオンラインで発表された。この結果によって、乳癌切除後にタモキシフェンを服用し、2、3年後にアロマターゼ阻害薬投与に切り替えた女性は、タモキシフェンによる治療をさらに2、3年継続する女性に比べて生存率が改善することが示された。

研究者らは、アロマターゼ阻害薬アミノグルテチミドを検討したGROCTA 4B 試験と、アロマターゼ阻害薬アナストロゾール(アリミデックス)を検討したITA試験の結果を統合した。これらデータの統合は、GROCTA 4B と同じ共同研究グループが実施したITA 試験のデザインに組み込まれていた。

GROCTA 4Bでは、研究者らは平均で3年間タモキシフェンを服用している女性を、同量のタモキシフェンをさらに2年間継続する群と、アミノグルテチミドに切り替えて同じ期間投与を行う群にランダムに割付けした。ITAの試験計画は、切り替える薬剤がアナストロゾールであることを除いて、GROCTA 4Bの試験計画と同様であった。

この統合解析では全死亡ならびに乳癌関連死とも、いずれかのアロマターゼ阻害薬に切り替えた女性で有意に改善した。この2試験は、登録者数が目標に達しなかったことを含めていくつかの制限があるものの、その結果は最近発表された他の試験結果と同様であると、著者らは述べた。「本データおよび、最近報告された他の薬剤切り替え試験の結果でみられる死亡に関する利点は、現在タモキシフェンで術後補助療法を行っている女性に対して、アロマターゼ阻害薬への早期切り替えの適応を支持するものである」と、彼らは記した。

喫煙歴のない女性で肺癌罹患率が高い

肺癌の主な原因は依然として喫煙である一方で、最近の報告では喫煙したことのない人々(非喫煙者)の肺癌罹患率が、男性に比べて女性で高いことが明らかになった。その試験結果は2月10日のJournal of Clinical Oncologyに掲載された。この試験は、主に死亡率に注目し、男性の肺癌死亡率が女性よりも高いことを明らかにした過去の試験とは異なっている。

Stanford Comprehensive Cancer CenterのDr. Heather A. Wakelee氏らは、6件の大規模コホート(Nurses’ Health Study、Health Professionals Follow-Up Study、California Teachers Study、Multiethnic Cohort Study、First National Health and Nutrition Examination Survey Epidemiologic Follow-Up Study、Uppsala/Orebro地域のスウェーデン肺癌登録記録)から年齢40~79歳の非喫煙者、喫煙歴あり、喫煙者の肺癌罹患率をそれぞれ算出した。肺癌罹患率は人・年あたりの新規罹患者として算出した。

年齢40~79歳の非喫煙女性の肺癌罹患率の範囲は14.4~20.8/10万人・年であり、年齢40~79歳の非喫煙男性の罹患率の範囲は4.8~13.7/10万人・年であった。

研究者らは、非喫煙女性における肺癌罹患が多い根本的な原因を特定できていないが、彼らは次の因子を潜在的なリスク因子として同定した。すなわち、受動喫煙、職場におけるアスベストやクロミウムあるいはヒ素等に対する曝露、家庭内ラドン等への環境的曝露、室内汚染物質、過去の肺疾患、食事因子、家族歴、遺伝的因子である。

ダラスにあるテキサス大学Southwestern Medical CenterのDr. Adi F. Gazdar氏と米国癌学会のDr. Michael J. Thun氏は論説欄で次のように述べた。「明らかに、非喫煙者の肺癌に関与する因子への理解が十分でないことは私共が予防戦略を探りあてる前に解決しなければならない重要な問題である」。さらに研究者らが非喫煙者と喫煙者の遺伝子上の違いに加えて発見した肺癌組織型の違いは、肺癌の治療とその成績の改善に影響するかもしれない。

脳の発達に関与する遺伝子が腫瘍において役割を担う

新しい研究によれば、脳の発達において幹細胞成長のコントロールを助ける遺伝子が、生命に関わる脳腫瘍である悪性神経膠腫の成長の制御においても役割を担っているという。その遺伝子Olig2(オリゴデンドロサイト系転写因子2)は、神経系にのみみられ、ほかの遺伝子活性をコントロールするタンパク質を産生する。マウスの実験によって、このタンパク質が神経系特異的な治療法のターゲットになる可能性が示唆された。

ダナ・ファーバー癌研究所のDr. Charles Stiles氏とDr. David Rowitch氏が指導したこの試験はNeuron2月15日号に掲載された。神経膠腫を有する患者の腫瘍組織を用いて、研究者らはOlig2タンパク質が神経膠腫の成長に寄与する2種類の細胞、つまり癌幹細胞と前駆細胞に発現することを発見した。マウスを用いたさらなる研究によって、このタンパク質が腫瘍増大に関与する細胞過程や経路の制御を助けていることが示唆された。

過去の研究と併せ、この新たな知見は、Olig2が中枢神経系において正常ならびに悪性幹細胞の増殖に関わる重要な経路をコントロールしていることを示唆した。幹細胞研究がヒトの癌の理解に対して有益であることが、本結果によって強調されたと、筆頭著者であるダナ・ファーバーのDr. Keith Ligon氏は述べた。

研究者らはいくつかの理由から、Olig2を脳腫瘍進展の「入り口」遺伝子と表現する。まず第1にOlig2タンパク質は、特に中枢神経系において神経幹細胞ならびにその子孫細胞の発達に不可欠である。第2に脳腫瘍では、Olig2の活性のは制御されなくなっている。最後に、Olig2活性はある種の腫瘍形成に必要とされている。

脳腫瘍を発症するマウスのOlig2活性を研究者らが阻害したところ、マウスの91%は腫瘍を形成しなかった。「私共の知見は核となるこの転写制御因子を、抗腫瘍療法の重要な候補と確認しました」と、研究者らは結論付けた。

翻訳担当者 Okura 、、

監修 榎本 裕(泌尿器科)

原文掲載日 

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