2006/12/05号◆癌研究ハイライト「BRCA1変異乳腺腫瘍にプロゲステロン活性低下薬」「ドキシル」「ケモブレイン」他

同号原文

米国国立がん研究所(NCI) キャンサーブレティン2006年12月05日号(Volume 3 / Number 47)
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癌研究ハイライト

プロゲステロン活性を減少させる治療薬がマウスで乳腺腫瘍の発生を予防

研究者らは、プロゲステロンというホルモンの活性を阻害することで、げっ歯類でヒトの乳癌遺伝子BRCA1に相当する遺伝子に変異を持つマウスに発生する乳腺腫瘍を予防できることを見出した。モーニングアフターピル(*サイト注:経口妊娠中絶薬。抗プロゲステロン活性をもつ)(ミフェプリストン[mifepristone]またはミフェプレックス[Mifeprex]としても知られている)であるRU486で治療を受けた変異マウスは、1歳になるまで乳腺腫瘍が発生しなかったが、治療を受けなかったマウスは8カ月までに腫瘍を形成した。

BRCA1遺伝子の変異を受け継いだ女性は、乳癌や卵巣癌に罹るリスクが高く、そのうちの多くの女性は、卵巣または乳房を手術によって取り除くことでリスクを減少させている。今回の新たな研究はマウスで行われたものだが、結果からは、プロゲステロンの阻害によって変異を持つ女性が乳癌に罹るリスクを減少させる重要な戦略となる可能性を示している。

高レベルのプロゲステロンは、乳癌のリスク増加と関連することが示されていたが、本試験研究ではその作用機序を提示している。アービンにあるカリフォルニア大学のEva Lee博士らは、正常なBRCA1タンパク質が、プロゲステロンに結合する受容体タンパク質の分解を助けることで、乳癌から身を守っている可能性を示した。

プロゲステロン受容体が破壊されなければ、ホルモンの成長促進信号は発信されつづけ、細胞の成長過多や癌化につながる可能性がある、と研究者らはScience誌の12月1日号で報告した。ホルモンの信号を減少させるために、研究者らはプロゲステロン受容体を阻害するミフェプリストンを用いた研究を行い、ミフェプリストンが乳腺腫瘍の発生を予防することを発見した。

この結果は、BRCA1の変異がある場合、乳癌の発生に、プロゲステロン受容体の機能が重要である可能性を示唆している。「これらの発見は、BRCA1タンパク質の組織特異的機能を明らかにし、抗プロゲステロン治療がBRCA1変異を持つ人の癌予防に有効である可能性を示している。」と研究者らは結論付けた。

過去の研究によって、腫瘍が発生する前に損傷したDNAを修復することで、正常なBRCA1タンパク質が腫瘍の発生を抑制すると言われていたが、プロゲステロン受容体レベルの調整がこのタンパク質のもう一つの役割となるだろう。

Lee博士は、ミフェプリストンがプロゲステロン以外の他のホルモンにも影響を及ぼすため、BRCA1変異を持つ女性の癌予防に長期間使用することは望ましくない可能性がある、と指摘した。その他のプロゲステロン阻害治療薬が現在開発中であり、それらの方が適している可能性もある。

細菌と化学療法の併用がマウスモデルにおいて有効性を示す

遺伝子組み換えをした細菌によって産生されたタンパク質が、リポソームという脂肪酸でできたカプセルに入った一般的な化学療法剤の腫瘍障害能力を増強させるようである。リポソーム製剤は体内に長時間とどまるため、より選択的に腫瘍を標的とすることができる。

Science誌の11月24日号に発表された研究によると、ジョンズホプキンス大学Sidney Kimmel総合がんセンターの研究者らが、C.novyi-NTという遺伝子組み換え細菌と、抗癌剤であるドキソルビシンのリポソーム製剤であるDoxilの併用療法を、結腸直腸癌モデルのマウスに対して行ったところ、投与したマウス全部で腫瘍が完全に消失し、3分の2のマウスは3ヶ月以上生存した。同様の結果が、抗癌剤であるイリノテカンのリポソーム製剤を用いた研究でもみられた。治療による毒性の徴候は特にみられなかった。

Bert Vogelstein博士の研究室に所属する、Ian Cheong博士らの同研究チームは、以前に、C.novyi-NTが低酸素領域で存在している腫瘍細胞を選択的に障害する一方でし、酸素が行き届いた腫瘍の「縁」は障害しないことを報告している。彼らのチームは、遺伝子組み換え細菌とDoxilの併用により、Doxil単剤独使用時より高濃度のリポソームの含有物を届けることができることを見出した。

これらの併用療法により有効性が高まったため、研究者らはこの細菌がどのようにしてこの効果を引き出したのかについて研究した。その結果、彼らは、腫瘍内でリポソームの脂質膜を効率よく破壊することで、より多くの抗癌剤を腫瘍細胞に運ぶことを可能にさせる、リポソマーゼという、以前は未知であった酵素を発見した。

「実質的にどの抗癌剤でもリポソームで包み、「プロドラッグ」として使うことができるため、リポソマーゼは腫瘍に抗癌剤を選択的に届けるための多くの可能性を提供してくれる。」と研究者らは述べている。

脳スキャンが化学療法の構造的影響を示す

化学療法を受けた乳癌患者が示す、通常「ケモブレイン」と呼ばれる認知障害と脳の構造的変化との関連性を示す研究が、日本人の研究者らによって11月27日のCancer誌にオンラインで先行して発表された。

研究者らは高解像度の脳MRI(磁気共鳴映像法)を用い、手術後化学療法を受けた女性と受けなかった女性、および比較のためのコントロールとして健常人における、脳の灰白質と白質の分布を調べた。

化学療法を受けた51人の女性が、手術後1年目にスキャンをし、73人の女性が手術後3年目にスキャンをした。化学療法を受けなかった女性は、55人が手術後1年目に、59人が手術後3年目にスキャンをした。これらの女性は、注意力、集中力、視覚的記憶などの認知指数を測るためウェクスラー記憶検査の改訂版を受けた。

研究者らは、化学療法を行った最初の年の女性においては、化学療法を受けなかった女性と比べて、記憶力に関係している脳の右前頭前野と海馬傍回が狭く、この変化が認知機能の低下と関連していることを見出した。同様の縮小がみられた記憶力に関係するその他の領域は、上部および中部前頭回、帯状回、楔前部などであった。

対照的に、手術および化学療法後3年目にスキャンを受けた群では、このような構造的変化はみられなかった。このことにより、著者らは「術後化学療法に関連した脳容積の変化は、時間の経過に伴なって順調に回復する可能性」を示唆した。ある研究報告では、認知機能の低下が3年以上続くこともあると言われているが、彼らはそのような研究においても最終的には認知機能の回復をみたことに言及している。

禁煙サイトの利用およびその質に関する調査

インターネットを利用している喫煙者と、インターネット上にある禁煙支援サイト(WATI:Web-assisted tobacco intervention )の質に関する2つの研究が、Nicotine & Tobacco Research誌の11月1日号に発表された。この研究はそれぞれ、NCIのDCCPS(癌生存者対策局)内のタバコ管理研究部門(TCRB:Tobacco Control Research Branch )によって資金提供を受けた研究やTCRBによって開発されたプログラムについて主に言及している。
禁煙プログラムの開発者が内容や情報発信能の向上支援するため、一つ目の研究は、インターネットを利用している喫煙者と利用していない喫煙者を比較した。2003年のNCI健康情報全国傾向調査(HINTS)のデータを用いて、TCRBの科学者らが、728人のインターネット利用喫煙者と、516人のインターネット非利用喫煙者の特徴を比較した。

「われわれの研究結果は、インターネットを利用していない喫煙者に比べ、利用している喫煙者の方が、年齢は若いにもかかわらず、収入が高く、職に就いている傾向にあることを示しました。」とNCIの研究者であるJacqueline L. Stoddard博士とErik M. Augustson博士は指摘している。「インターネット利用環境にある喫煙者はまた、精神的苦痛が少なく、医療に対する障壁も少なく、より禁煙に関心があることも報告された。」

禁煙支援サイト(WATI)を利用していない喫煙者における、言及された最も多い理由は、インターネットの扱いに慣れていないことと、アクセスの煩雑さに対する不安であった。このグループではまた、家族や友人からの情報や忠告に高い信頼を置いているとの報告から、研究者らは、喫煙者の友人や家族をターゲットにしたキャンペーンで、禁煙目的でのインターネット利用を増加させることを提案した。

2つ目の研究では、WATIサイトを閲覧したことがある現在喫煙している人々と、以前喫煙していた人々を調査し、どのインターネット禁煙サイトが最も支持され、喫煙者がどのようにサイトの質を評価しているかを調べた。706人の米国人回答者が、133のウェブサイトを挙げた。「驚くべきことに、最もよく閲覧されたウェブサイト上位3位のうちの2つは、タバコ会社によって運営されていました。」とスイスのジュネーブ大学の研究者であるDr.Jean-Francois Etter氏は述べた。しかし、これら2つのサイトは、喫煙者にとって有用であるとはみなされていない、と報告している。反対に、米保険福祉省(HHS)のウェブサイト、Smokefree.govは、最も良い内容であるとの評価を受け、喫煙者が友人に最もよく薦めるサイトの2位であった。

翻訳担当者 Oonishi 、、

監修 大藪友利子(生物工学)

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原文掲載日 

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