2006/11/28号◆癌研究ハイライト「幹細胞移植後の新規固形癌リスク」「タモキシフェンとアナストロゾール生存率」他

同号原文

米国国立がん研究所(NCI) キャンサーブレティン2006年11月28日号(Volume 3 / Number 46)
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癌研究ハイライト

眼内黒色腫の眼球温存療法に有効な診断法

Ophthalmologyのオンライン版に11月15日付けで公表された試験から、眼部の細針吸引生検の使用は、眼内黒色腫患者に転移のリスクがあるかどうか判定するため、患者から遺伝子解析用に細胞を採取する上で全般的に安全かつ有効な方法であることが明らかになりました。

カリフォルニア大学のLos Angeles’ Jules Stein Eye Instituteにおける18名の各患者に対し、限局的な放射能による障害を受けた眼内に放射能性プラークを埋め込む手術(脈絡膜黒色腫の標準的治療法)中にその針生検を行いました。染色体3番の変異(モノソミー3)を伴う患者では、転移のリスクが高く、予後は不良となります。今日まで、このような遺伝子解析のために腫瘍細胞を採取する唯一の方法は眼球摘出でした。

研究者らは、「針生検で、18名中14名において脈絡膜黒色腫と診断でき、その結果、9名にて蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)分析用に生存可能な細胞の培養が可能になった」と報告しています。モノソミー3についての遺伝子解析の結果は、9名中4名で陽性でした。同研究者らは、「これらの所見は、脈絡膜黒色腫の約50%においてモノソミー3が認められるという文献と一致する」と述べています。

さらに、「我々の症例では、合併症(軽度かつ自己限定性の硝子体出血)が1例認められたのみであった」と報告しています。

また、「予後不良な眼内黒色腫患者を特定することで、初期段階で転移を発見でき、新しい治療法に関する臨床試験に最適な患者の選択にも役立つであろう」と付け加えています。

ナノ粒子はマウスで脳腫瘍に成功裏に薬剤を送達させる

Clinical Cancer Research誌に11月15日付けで公表されたミシガン大学の新しい試験では、マウスにおいて試験責任医師らによって光線力学的療法剤を血液脳関門を通過して脳腫瘍に成功裏に運ぶ標的化ナノ粒子を設計しました。

研究者らは、ナノ粒子が細胞表面上のタンパク質F3に結合するよう設計しました。その理由は、既報の試験にて、ナノ粒子はこのタンパク質に結合して癌細胞や周辺の血管に取り込まれることが示されたからです。光線力学的療法剤であるフォトフリンを運ぶように、ナノ粒子が設計されました。フォトフリンは光の存在下で酸素と反応し、毒性のある成分へと変化します。ナノ粒子に磁気共鳴映像(MRI)に反応する化合物を追加すると、腫瘍組織や血管が破壊されるのを直接観察することができます。

In vitro(試験管内)実験から、F3を標的としたナノ粒子が癌細胞に成功裏に取り込まれること、また、ナノ粒子を用いて4時間培養した後にレーザー光を併用(カプセル化フォトフリンを活性化させるため)すると、培養中の90%の細胞が死滅することが判明しました。非標的化ナノ粒子は同じ条件下で細胞死を引き起こしませんでした。

その後、研究者らは、脳腫瘍の最も一般的な型であるグリオーマのマウスモデルを用いて、ナノ粒子について試験を行いました。異種移植腫瘍を伴うマウスに標的化ナノ粒子とレーザー光を併用したところ、非標的化ナノ粒子あるいはフリーフォトフリンのいずれかをレーザー光と併用したマウスと比較して、生存期間が有意に延長しました。標的化ナノ粒子を投与したマウス5匹のうち2匹は、治療後も6カ月間は無病期間が続きました。

著者らは、「標的化ナノ粒子の使用には、光線力学的療法剤を全身に送達させる上で、正常組織への障害や光に対する長時間の皮膚曝露など多くの問題を伴う可能性がある」と述べています。

幹細胞移植後の新規固形癌のリスクが同定される

Cancer誌に11月27日付けで公表された試験では、血液癌に対して幹細胞移植を受けた高齢者では、移植数年後に固形癌を発症するリスクが高まること、また、女性ドナーから幹細胞移植を受けた患者も高リスクを伴うことが明らかになりました。

同試験は、バンクーバー総合病院が管理するブリティッシュ・コロンビア白血病/骨髄移植プログラムにて実施されました。記録分析は、1985~2003年に同種異系の幹細胞移植を同病院で受けた926名を対象としました。患者の年齢は12~65歳であり、中央値は39歳でした。

分析の結果、10年間の再発に関連する死亡率は27%であることが示されています。28名,全患者が移植前に骨髄機能除去を受けていましたが,処置後に,総計30の固形癌を発症し,最も多いものは皮膚、肺、および口腔でした。初回治療10年後に二次的に固形癌を発症した患者群における累積発症率は3.1%であり、ブリティッシュ・コロンビアの総人口における同発症率と比較して約2倍でした。

二次的な固形癌を発症するリスクは、40歳未満で1.9%であったのに対し、40歳以上では4.6%でした。幹細胞ドナーの性別も重要なリスクファクターであり、同リスクが女性ドナーで4.6%であったのに対し、男性ドナーでは1.6%でした。著者らは、「ドナーの性別および癌再発に関するこの考察は今までに文献で公表されておらず、詳細は不明である」と述べています。

試験にてタモキシフェンとアナストロゾールの組合せに対する生存率の有意性が示唆される

3つのランダム化試験の併合したデータをメタ分析したところ、ホルモン感受性初期乳癌の閉経後女性がタモキシフェンを2~3年間使用した後に術後補助療法としてアロマターゼ阻害剤のアナストロゾール(アリミデックス)を切り替えて投与を継続したところ、全生存率が有意に改善されることが示されました。

各試験では、タモキシフェンを5年間使用した女性群と、タモキシフェンを2~3年間使用した後にアナストロゾールに切り替えて2年間使用した群とを比較しました。薬剤の切り替えによって、局所的あるいは転移性の再発の頻度が減少しました。骨折のリスクを除くと、安全性のプロファイルは改善されました。

メタ分析を行った研究者が抱いた疑問は、タモキシフェンとアナストロゾールの組合せによる無事象生存期間の延長が良好な全生存率と同等であるかどうかということです。メタ分析によると、タモキシフェンを2~3年間投与した後にアナストロゾールに切り替えた患者群では、全生存率が29%改善されました。

ニュースリリースにて、ドイツ・ケルン大学のWalter Jonat医師(本試験の主任)は、「多くの人々が、アロマターゼ阻害剤により生存率が改善されるか否か知りたいと望んでいる。また、これらのデータで、タモキシフェンの5年間使用がもはや標準治療ではないことを多くの人々が確信するであろう」と述べ、さらに「ホルモン感受性初期乳癌患者に対する最善の治療法に、アロマターゼ阻害剤を加えるべきである」と付け加えております。

The Lancet Oncologyのオンライン版に11月17日付けで公表された本試験の結果は、いくつかの癌研究グループによる同患者集団の治療に関する推奨事項を裏付けることとなりました。また、米国国立癌研究所のCenter for Cancer Research(CCR) Medical Oncology BranchのJennifer Eng-Wong医師は「この結果は、すでに臨床で実施されている現状を反映している」と述べています。

また、同氏は、「多くの医師がアロマターゼ阻害剤を治療に取り入れており、同剤を用いて術後補助療法を開始するか、またはタモキシフェンを2~3年使用した後に同剤へ切り替えている」と述べています。

翻訳担当者 斉藤芳子 、、

監修 瀬戸山修(薬学)

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