2008/08/05号◆癌研究ハイライト | 海外がん医療情報リファレンス

2008/08/05号◆癌研究ハイライト

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2008/08/05号◆癌研究ハイライト

同号原文

NCI Cancer Bulletin2008年8月5日号(Volume 5 / Number 16)

~日経「癌Experts」にもPDF掲載中~

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癌研究ハイライト

・75才以上の男性はPSA検診を受けないよう米国予防医療専門委員会が推奨
・ラパチニブがマウスの乳癌脳転移の進行を抑制
・一般的なバクテリアを除菌することで二次胃癌リスクが低下
・腫瘍細胞骨格標的療法によって転移のプロセスが遮断される
・ホルモン不応性前立腺癌に対する安全で有効な薬剤
・遺伝子特性が肺癌の予後予測に役立つ可能性

75才以上の男性はPSA検診を受けないよう委員会が推奨

米国予防医療専門委員会(USPSTF)は本日発行した勧告の中で、75才以上の男性が前立腺特異抗原(PSA)を通常用いる前立腺癌検診を受けることに対して否定的な見解を示した。Annals of Internal Medicine誌に掲載された勧告によると、この年令層の男性がPSA検診の受診から受ける危険性は利点より大きく、検診で発見された前立腺癌を治療することによる恩恵はほとんどないという十分な科学的根拠が存在する。

委員会は75才未満の男性に対しては検診で発見された前立腺癌を治療することによる健康上の転帰の改善が、臨床で診断されて治療を受ける場合よりも良いとするだけの根拠はないと結論づけた。委員会は報告の中で、検診で前立腺癌を発見して治療を行う場合、勃起不全、尿失禁、消化管機能障害や死亡といった中程度から高度な障害を引き起こすという科学的に確かな根拠があると付け加えている。このような障害は特に重大である。なぜなら前立腺癌で治療を受ける男性患者の一部は、もし前立腺癌が発見されなければ生涯を通じて癌由来の症状がでることはないとみられるからである。

USPSTFは米国医療研究・品質調査機構に招集された独立した専門家からなる委員会である。この問題に関して泌尿器科医および前立腺癌研究者の意見は幅広く、75才以上の男性のPSA検診は彼らの命を救っているという意見もある。 NCI癌予防管理部の前立腺癌および泌尿器癌研究班の責任者Dr. Howard Parnes氏は、検診の危険性は十分なデータがある一方で、75才以上の男性または全年令層の男性で通常のPSA検診によって死亡率が低下するといった根拠はないと指摘している。

Parnes氏によると、これまでにわかっている根拠によれば、PSA検診で見つかった癌の治療から得られる恩恵は10~15年間は目に見えてはこないが、治療を受けたことによる有害な影響は即座に起こりうるのである。

しかし、たとえそうだとしても、Parnes氏はこの勧告が絶対ではないと強調している。臨床医および患者はPSA検診が取るべき最善の行動であると決定するかもしれない。「全ての臨床医は今のところまだ治療を個々の状況にあわせるべきであり、年齢を基とした差別もすべきではない」とParnes氏は述べた。

ラパチニブがマウスの乳癌脳転移の進行を抑制

NCIの分子薬理学研究室の研究者らは乳癌マウスで小分子の阻害剤であるラパチニブ〔lapatinib〕(商品名:タイケルブ〔Tykerb〕が血液脳関門を通過でき、大きなHER2陽性の脳転移を約50%阻害することを見いだした。この研究はJournal of the National Cancer Institute誌の7月29日号に掲載された。

トラスツズマブ(ハーセプチン)という薬剤はHER2というタンパク質を過剰発現する癌細胞を標的としている。この細胞は脳に転移する可能性が大きいが、トラスツズマブは巨大な抗体分子であるため、血液脳関門を通過できず、脳に転移する癌細胞には届かない。

ラパチニブは転移性乳癌の治療に承認されており、はるかに低分子の薬剤であり血液脳関門を通過できる。大きな脳転移の治療の臨床試験でラパチニブの効果は限定的であり、研究者らは癌がまだ小さい間にその成長を阻止する場合にはより有効なのではないか調べたいと考えている。

研究者らはHER2を過剰発現するように操作した乳癌培養細胞をマウスに注射した。マウスは、低用量または高用量のラパチニブ、または対照液を24日間1日2回投与された。ラパチニブを投与されたマウスにはいずれの投与量でも対照液を投与されたマウスと比較すると大きな転移は半分しか認められなかった。

「われわれのモデルの示しているものは、ラパチニブには、小さい転移性癌が成長して致命的な大きい転移性癌になるのを阻止する可能性があるということだ。」と、この試験の責任著者であるDr. Patricia Steeg氏は説明した。著者らは将来的には小さい転移性癌の成長を抑制する予防的治療が、脳外科手術や放射線治療といった大きな脳転移に対する標準的治療と併用されるかもしれないと述べている。

一般的なバクテリアを除菌することで二次胃癌リスクが低下

早期胃癌に対して治療を行った患者のヘリコバクター・ピロリを除菌することで、二次胃癌の発症リスクが2/3減少したと、日本の研究者らが発表した。彼らの研究結果はLancet誌8月2日号に掲載された。

ヘリコバクター・ピロリは全世界のほぼ半数の人の胃に感染しており、消化性潰瘍や癌といった胃疾患と関連性が明らかとされている。これまでの動物実験ではバクテリアの除菌には予防効果があることが示されていたが、ヒトでの試験結果には決定的なものはなかった。

Japan Gast Study Groupにより発表された最新の研究結果は、新たに胃癌と診断され内視鏡的切除術を予定されているか、あるいは、最近胃癌の内視鏡的切除術を受けた20-79歳の患者544人の非盲検試験によるものである。全ての患者にヘリコバクター・ピロリの感染が確認されていた。参加患者は、癌再発防止のために、ランソプラゾール(消化性潰瘍治療薬)、アモキシシリン、クラリスロマイシンの抗生物質を1日2回1週間服用する試験群と、抗生物質は服用せず標準治療のみの対照群に無作為に分けられた。

抗生物質の投与を受けた試験群の患者のおよそ75%と、対照群のおよそ5%は除菌がされた。試験群で注目すべき副作用は軟便と下痢のみであった。3年間の内視鏡検査により、試験群では9人、対照群では24人に二次胃癌が発症した。広く普及しているヘリコバクター・ピロリのスクリーニング治療の長所と短所が付随論説では論じられており、「世界的にみると、胃癌によって死亡する人は結腸直腸癌より多い。ヘリコバクター・ピロリを除菌することで、大腸内視鏡検査を行うよりも死亡率を減らすことができるというエビデンスがある。ハイリスク地域ではヘリコバクター・ピロリを根絶することで胃癌を予防することが優先されるべきである」としている。

腫瘍細胞骨格標的療法によって転移のプロセスが遮断される

体内の離れた器官に移動し、長期間休止した腫瘍細胞が最終的に転移性癌となるには周囲の環境因子の関与が必要であると、研究者らがCancer Research誌8月1日号に発表した。彼らが発見したこの休止状態から活動状態への変化は、細胞外基質(ECM)の細胞のすぐ外側にあるシグナリング分子によって誘導され、休止細胞内の細胞骨格構造の再編成によって開始される。細胞骨格を制御する分子経路を標的とすることで遮断できるかもしれない。

NCIの癌生物学・遺伝学研究室のDr. Dalit Barkan氏によって率いられた研究では、マウスモデルおよび、腫瘍内微小環境でみられるシグナル伝達因子を導入することができる三次元培養を使用した。

「われわれは、休止状態から増殖転移への転換は、ECMとの相互作用に強く影響されることを示した」と彼らは記している。ECMは細胞周囲にあり、他の細胞が分泌し、しばしばシグナル分子の役割をになうタンパク質を含んでいる。

研究者らは、細胞イメージング技術を用いて、ECMにあるタンパク質であるフィブロネクチンが、休止中の細胞内骨格の再編成を始めることを示した。この再編成は、休止から転移状態へ変換し、MLCキナーゼと呼ばれている酵素によって仲介されていた。マウスモデルと三次元培養では、休止から転移への進展はMLCキナーゼ活性を干渉することで抑えることができた。

「われわれの研究結果は、骨格細胞に影響を及ぼす経路を標的とすること…が、腫瘍細胞を休止状態から臨床的な転移への進展を阻害する重要な手法となるかもしれないことを示唆している。免疫療法と組み合わせることで、この手法は、全身に広がった休止中の腫瘍細胞による再発を減らすことができるかもしれない」と著者は結論している。

ホルモン不応性前立腺癌に対する安全で有効な薬剤

英国の研究者らの報告によると、細胞のテストステロンの産生を阻止する試験段階の薬剤はホルモン不応性前立腺癌の男性にとって安全な治療薬であり、有望な臨床効果の兆候を示しているという。

Journal of Clinical Oncologyournal of Clinical Oncology誌オンライン版に7月21日に発表されたabiraterone acetate(酢酸アビラテロン)を用いた21人の被験者による第1相臨床試験から、この薬剤が安全であり、複数の被験者ではPSA濃度が90%も低下していることが示された。さらにこの薬剤を投薬した被験者の大部分で原発巣および転移巣のいずれも腫瘍が縮小していた。

この薬剤を開発した癌研究所のDr. Johann de Bono氏が実施した臨床試験では、進行性のホルモン不応性(去勢抵抗性とも呼ばれる)前立腺癌の男性が対象とされた。

複数の試験参加者は2年半にわたりこの薬剤を服用しており、abirateroneの継続使用により疾患をコントロールできて、副作用も少なかったと同医師はニュースリリースで述べ、「多くの患者が骨痛の緩和のために服用しているモルヒネをやめることができた」と続けた。

Abirateroneはこの臨床試験に資金を出したロサンゼルスに本拠を持つCougar Biotechnologies社にライセンス供与され、細胞がアンドロゲンやエストロゲンを産生するのを助ける重要な酵素であるCYP17の活性を阻害することで作用する。この薬剤は同じ被験者で実施している第2相臨床試験および第3相臨床試験により評価中である。

このような知見がメディア、特に英国のメディアから非常に注目された一方で、米国の複数の研究者らは注意を喚起している。「PSA値の低下や腫瘍の縮小は単なる薬理的活性の証拠でしかなく、適切に無作為化した臨床試験の必要性を意味している。」とアメリカ癌学会主席医師であるDr. Otis Brawley氏は述べ、「患者と一般の人にとって重要なのは生存期間の長さや、生活の質の改善などを評価項目とした無作為抽出臨床試験が必要なことである。」と続けた。

遺伝子特性が肺癌の予後予測に役立つ可能性

新しい研究は、肺癌の遺伝子活性のプロファイルを把握することが、医師や患者が治療方針を決定する一助となるという最も確実なエビデンスを提示した。一方で研究者らは、一般に肺腫瘍は遺伝学的に多様であり、全ての患者に確実に適応できるような一つの遺伝子特性を開発することは難しいと警告している。この知見は、オンライン版Nature Medicine誌7月20日号に掲載された。

NCI Director’s Challenge Consortium for the Molecular Classification of Lung Adenocarcinoma(NCI所長の肺腺癌分子分類のためのチャレンジ・コンソーシアム)では、転帰が判明している422人の肺腫瘍が分析された。これまでの研究により、肺腫瘍の遺伝子特性は、より積極的な治療によって恩恵を被る患者群を選別する可能性が示されてきたが、研究によってその遺伝子特性や結果が異なっていた。

このグループは、新しい遺伝子特性を開発し、この予後予測モデルは、患者の実際の転帰と相関したリスクスコアを生み出した。大部分のモデルは臨床データによる予測より成績が良く、早期肺癌の予後モデルには、前立腺癌や乳癌で行われたように分子生物学的情報と臨床情報の両方を盛り込むべきであるとの結論に導いた。

この研究は、ミシガン大学総合がんセンターのDr. David Beer氏とNCI癌診断プログラム部門のDr. James Jacobson氏によって行われたが、新しい遺伝子特性の成績を検証するために盲検法も試用した。

「私たちはこのグループをまとめ、分子学的特性を検証するための大規模な研究を行うために、そしてこれらの問題点を解決する方法を確認するために研究を開始しました」とJacobson氏は述べた。「この仕事は、どのようにしてこれらの研究を行うべきかの基準となるであろう。」

NCIやミシガン大学の他に、このグループには、H. リー・モーフィットがんセンター、スローンケタリング記念がんセンター、ダナファーバー癌研究所と、オンタリオ州癌協会の研究者らが参加している。

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関屋 昇(薬学)、Nogawa 訳

榎本 裕(泌尿器)、 後藤 悌(国立がんセンター中央病院 内科)監修

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