不妊への不安が若年乳がん患者のホルモン療法の決断に影響

不妊への懸念は、若年の乳がん患者が治療法について下す決断に影響を及ぼすことが多く、ホルモン阻害治療を中止または延期する理由となっていることがダナファーバーがん研究所の研究者らによる新たな研究で明らかになった。

この研究結果は、2021年4月29日にCancer誌オンライン版に掲載され、医師が患者と妊よう性に関する優先事項について話し合い、その優先事項を治療計画に反映させる必要があることを強く示していると本研究の著者らは語る。患者の目標や希望は時とともに変わる可能性があるため、そのような医師と患者の話し合いは、治療開始時だけでなく治療の全過程において重要である。

「若い女性の乳がん患者は、不妊をめぐる問題をはじめ特有の課題に直面しています」と本研究の筆頭著者であるダナファーバーがん研究所のTal Sella医師は語る。「ホルモン受容体陽性の閉経前女性乳がん患者の多くは、長期的なホルモン療法(がんの増殖を促すホルモンを阻害する治療法)により治療中は妊娠や出産ができません。今回の研究では、ホルモン療法を受けるかどうか患者が決断するときに不妊への懸念がどの程度影響するかを調べました」。

エストロゲンやプロゲステロンというホルモンに反応して増殖するホルモン受容体陽性乳がんの若い女性は通常、手術後に化学療法を行い、がんの再発を防ぐためホルモン療法を少なくとも5年間受ける。ホルモン療法は再発のリスクを約50%減少させるという研究結果があり、術後(補助)療法の中で最も効果的な治療法である。

この研究のために、2006年から2016年にかけて乳がんと診断された40歳以下の女性1,300人以上を対象とした多施設共同研究であるYoung Women’s Breast Cancer Study(主任研究者はダナファーバーがん研究所のAnn Partridge医師・公衆衛生学修士)に参加した643人が調査された。参加者は全員がステージ1から3のホルモン受容体陽性乳がんで、診断時に病歴、現在服用中の薬、不妊への懸念、ホルモン療法の決断などの質問事項に回答した。その後3年間は6カ月ごとに、その後は1年ごとにフォローアップ調査が行われた。

診断後の最初の2年間、回答者の3分の1が、不妊への懸念がホルモン療法の決断に影響したと回答した。懸念を示した回答者の40%がホルモン療法を延期または中止を選択したのに対し、懸念を示さなかった回答者では20%が延期または中止を選択した。懸念を示してホルモン療法を選択しなかったまたは中止した女性のうち、66%がその2年間に少なくとも1回の妊娠または妊娠の試みを報告した。診断を受ける前に子どもがいた女性は、子どもがいなかった女性と比較して、不妊への懸念がホルモン療法への決断に影響したと回答する割合が低かった。

この結果は、若年の乳がん女性が妊娠や出産のためにホルモン療法を中断しても問題ないかを研究中のPOSITIVE試験の結果と合わせて有益となるであろう。POSITIVE試験の結果は数年以内に得られる予定である。

「今回の研究結果は、術後補助療法を最適化するのか、それとも近い将来に子供が欲しいという希望を満たすのかという、ホルモン受容体陽性乳がんの若い女性の多くが直面しているジレンマの解決への新たな糸口となります」と本研究の統括著者であるダナファーバーがん研究所のShoshana Rosenberg理学博士・公衆衛生学修士は語った。「医師は、患者の目標を理解してその要望を組み込んだ治療戦略を立てることで、患者を最大限にサポートすることができます」。

本研究の共著者は以下のとおりである。Philip D. Poorvu, MD, and Ann H. Partridge, MD, MPH, of Dana-Farber and Brigham and Women’s Hospital; Shari I. Gelber, MS, of Dana-Farber; Kathryn J. Ruddy, MD MPH, of the Mayo Clinic; Rulla M. Tamimi, ScD, of Weill Cornell Medicine; Jeffrey M. Peppercorn, MD, MPH, of Massachusetts General Hospital; Lidia Schapira, MD, of Stanford Cancer Institute; Virginia F. Borges, MD, of University of Colorado Comprehensive Cancer Center; and Steven E. Come, MD, Beth Israel Deaconess Medical Center。

本研究は以下の機関による財政支援を受けた。the Agency for Healthcare Research and Quality; the Pinchas Borenstein Talpiot Medical Leadership Program, Sheba Medical Center, Israel, and the American Physicians Fellowship for Medicine in Israel; Susan G. Komen; and the Breast Cancer Research Foundation。

翻訳担当者 松長愛美

監修 小坂泰二郎(乳腺外科・化学療法/医療社会法人石川記念会 HITO病院)

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