腎臓がん免疫機構の解明(2)

腎臓がん免疫機構の解明(1)続き―

免疫機能不全回路を断ち切る新たな治療標的を発見
一つ目の研究では、腫瘍とそれに隣接する非腫瘍組織から採取した164,722個の細胞を対象として単一細胞RNAシーケンシングと単一細胞T細胞受容体シーケンシングが行われた。これらのサンプルは、異なるステージ(早期、局所進行、進行/転移)の淡明細胞型腎細胞がん(ccRCC)患者13人から得られた。淡明細胞型腎細胞がんは腎臓がん症例の80%を占める。

ほとんどの固形がんにおいて、CD8+T細胞という特定のタイプの免疫細胞が存在することは良いことである。この細胞の存在は、免疫系が機能していることを意味する。しかし、進行したステージのがんでは、これらのCD8+T細胞が「疲弊して」、通常の機能を発揮できなくなっていることが研究者らにより発見された。

また、免疫系を抑制する白血球の一種である抗炎症性または「M2様の」マクロファージが、進行したステージのがんで増えていることも発見された。CD8+T細胞とマクロファージは互いに作用しあい「免疫機能不全回路」に陥っていた、と共同筆頭著者でありダナファーバーがん研究所腫瘍内科医およびハーバード大学医学部講師のDavid A. Braun医学博士は述べている。進行したステージのがんでは、マクロファージがCD8+T細胞の疲弊を助長する分子を産生すると同時に、疲弊したCD8+T細胞が腫瘍増殖を促進するマクロファージの生存に寄与する分子を産生する。

これらの発見は、「潜在的な治療標的に関する全く新しい展望を開く」という点でたいへん重要であるとBraun博士は述べた。「腎臓がんの免疫系経路のいくつかはすでに治療標的とされていますが、私たちの研究は細胞の機能不全をもたらす他の多くの免疫抑制経路を明らかにしました。さらに研究が進めば、これらの相互作用のすべてを調べ、免疫機能不全回路を断ち切る新たな機会を見出すことができます。目標は、免疫系の抗腫瘍効果を回復させ、最終的に腎臓がん患者の予後を改善することです」。

Choueiri医師とWu医師がこの研究「Progressive immune dysfunction with advancing disease stage in renal cell carcinomas」の共同統括著者である。

PD-1/PD-L1軸を超えた治療法の特定

2021年3月11日に発表されたもう一つの研究は、免疫療法施行中の淡明細胞型腎細胞がんで起きる腫瘍と免疫系の再プログラミングについて調べている。

淡明細胞型腎細胞がんに対する現在の免疫療法薬のほとんどは、免疫系によるがん細胞への攻撃を停止させるタンパク質を作る経路であるPD-1/PD-L1軸を標的としている。停止を解除すると、免疫系はがん細胞を攻撃することができる。

しかし、これらの免疫療法薬は淡明細胞型腎細胞がん患者の半数で有効であるに過ぎず、ほとんどの患者が最終的には免疫療法薬に対して抵抗性を獲得する。

「免疫療法薬に対する感受性または抵抗性に重要な役割を果たすPD-1/PD-L1以外の免疫回避機構があるのかもしれません」と、論文の共同筆頭著者であるダナファーバーがん研究所の計算生物学者Kevin Bi氏は述べた。

研究者らは、8人の腎臓がん患者(転移がん患者7人、限局がん患者1人)のサンプルから得た合計34,326個の細胞を単一細胞RNAシーケンシングにより解析した。5つのサンプルは、免疫チェックポイント阻害薬(ICB)または免疫チェックポイント阻害薬とチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の併用のいずれかで治療を受けた患者由来であった。免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けた患者は、いずれもPD-1/PD-L1軸を特異的な標的とする薬剤の投与を受けていた。

その結果、免疫チェックポイント阻害薬はがん微小環境を再構築し、がん細胞と免疫細胞の相互作用をいくつかの点で変化させることがわかった。

・治療に反応したがん患者の細胞傷害性T細胞サブセット(がんと闘うリンパ球)は、より多くの共抑制性受容体とエフェクター分子を発現している。
・治療を受けた患者の生検試料に由来するマクロファージは、インターフェロンに富む微小環境に反応して炎症性の状態にシフトするが、免疫抑制性マーカーの発現も増加する。
・免疫チェックポイント阻害薬で治療されたがん細胞には、血管新生シグナル伝達と免疫抑制性プログラムの亢進の点で異なる2つのサブポピュレーション(亜集団)があった。
・免疫チェックポイント阻害薬で治療された進行がん細胞では、がん細胞サブポピュレーションと免疫回避の指標となる遺伝子発現様式が、淡明細胞型腎細胞がんにおいて2番目に多い遺伝子突然変異であるPBRM1変異と相関していた。

PD-1/PD-L1軸とは異なる免疫経路について調べることの重要性をこれらの知見は示していると、この論文の共同筆頭著者でありハーバード生物物理学プログラム大学院生およびダナファーバーがん研究所Van Allen研究室員であるMeng Xiao He氏は述べた。

「注目しなければならないのは、単にCD8+T細胞だけではありません。マクロファージや他の免疫チェックポイントのいくつかにも目を向け、どれが治療標的となりうるかを評価する必要があります」とHe氏は述べた。「異なる疾患の免疫療法薬に対する抵抗性のメカニズムを理解しようとする試みはまだ始まったばかりです。より多くの人が反応し、その反応が持続するように、試行錯誤を続ける余地はたくさんあります」。

Choueiri医師とVan Allen医師が本研究「Tumor and immune reprogramming during immunotherapy in advance renal cell carcinoma」の共同統括著者である。

翻訳担当者 伊藤彰

監修 榎本裕(泌尿器科/三井記念病院)

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