非小細胞肺がんにおける免疫関連副作用と生存期間の関係

免疫療法を受けた非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象とした大規模なレトロスペクティブ研究の結果、患者が複数の免疫関連副作用を受ける可能性があり、これらの多臓器免疫関連副作用(irAE)と患者の生存期間延長との間に相関関係があることが明らかになった。実際、2つのirAEを発症した患者では、1つのirAEのみを発症した患者よりも、がん進行の遅延および全生存期間において良好な結果が得られた。研究者らによると、この新しい情報は、免疫療法によって生じる可能性のある免疫関連副作用の種類や生存期間への影響について患者と検討する際に有用である。

本研究結果は、10月29日付のJAMA Oncology誌オンライン版で発表された。

研究者らは、ジョンズホプキンス病院(メリーランド州ボルチモア)、イーストカロライナ大学(ノースカロライナ州グリーンビル)、オハイオ州立大学ジェームス総合がんセンター(オハイオ州コロンバス)、ペルージャ大学(イタリア・ペルージャ)、仙台厚生病院(日本・宮城県)の5つの学術医療センターの非小細胞肺がん患者623人のデータを解析した。

ステージ3またはステージ4の非小細胞肺がんと診断され、2007年1月から2019年1月までの間に抗PD-1または抗PD-L1免疫チェックポイント阻害薬(単剤療法または他の治療との併用療法)による治療を受けた患者が本試験の対象となった。623人の参加者のうち、148人(24%)が1つの免疫関連副作用(irAE)を発症した。最も多かったirAEは、肺、甲状腺、肝臓、皮膚のいずれかの炎症(それぞれ肺炎、甲状腺炎、肝炎、皮膚炎)の4つであった。58人(9.3%)の患者が2つの単一臓器のirAEを順次発症しており、「多臓器irAE」と呼ばれた。免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けた患者は健康状態のスコアが高く、全体的に健康状態が良好な患者ほど治療期間が長く、多臓器irAEを発症する可能性が高い傾向にあった。

「健康な人ほど治療期間が長く、irAEのリスクが高いことは理にかなっていますが、本研究は治療期間について説明するもので、irAEと生存期間との関連は統計的に堅牢なままです」とJarushka Naidoo医師は述べた。Naidoo医師は、ジョンズホプキンス・キンメルがんセンターの非常勤教授で、ブルームバーグ・キンメルがん免疫療法研究所の研究者でもあり、研究の時点では腫瘍学助教であった。

発症したirAEの数にしたがって患者の生存期間が徐々に延長したので、リスクが高いことは有益であるように見える。irAEを発症しなかった患者の生存期間は、診断後中央値で8.7カ月であったのに対し、1つまたは2つのirAEを発症した患者ではそれぞれ12.3カ月と21.8カ月であった。患者の無増悪生存期間(PFS)にも同様の傾向がみられた。無増悪生存期間とは、CTスキャンによる診断から腫瘍増殖までの期間である。無増悪生存期間中央値は、irAEを発症しなかった患者では2.8カ月であったのに対し、1つまたは2つのirAEを発症した患者ではそれぞれ5.1カ月と10.9カ月であった。

免疫療法は比較的新しいタイプの薬物療法で、がん細胞と免疫細胞との相互作用を標的とし、免疫細胞にがん細胞を死滅させる。これらの薬剤の一部が、免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれるものである。免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞および免疫細胞の表面に存在する特定の分子(本研究ではそれぞれPD-1とPD-L1)に結合する。がん細胞上のPD-L1が免疫細胞上の受容体分子PD-L1と結合すると、がんに対する免疫細胞応答が遮断される。抗PD-1およびPD-L1免疫チェックポイント阻害薬は、PD-1とPD-L1の間の伝達を遮断し、がんに対する免疫応答を再開させる。

免疫チェックポイント阻害薬は通常、標準的な化学療法薬よりも副作用が少ないが、一部の患者では複雑で管理が困難なirAEを発症することがあると研究者らは報告している。免疫チェックポイント阻害薬は、免疫系のブレーキを一時的に解除することで作用するため、この免疫応答の亢進により、健康な臓器や組織が攻撃を受けることがある。

「免疫関連副作用(irAE)は厄介で、予測不可能であることが特徴です。irAEは数日以内に発症することもあれば、何年も治療を続けた後に発症することもあるため、患者や腫瘍医は常に症状に注意を払わなければなりません」と、Naidoo医師は述べた。通常、ステロイド治療には良好に応答するが、慢性化することがあり、致命的な症状になることもあると、同氏は言う。「キンメルがんセンターでは、複数のirAEを発症している患者がいることがわかってきているので、その特徴を明らかにし、どのようなパターンが存在するのか、そして生存期間にどのような影響があるのかを知ることで、有用なことが学べるのではないかと考えています」。

重度の免疫関連副作用の発生率は、受けた免疫療法の種類や併用した免疫療法によって異なり、免疫チェックポイント阻害薬の単剤療法を受けた患者では約5~10%と低く、併用療法を受けた患者では35~40%にもなると、Naidoo医師は述べた。「進行がんの多くは予後が悪いことがわかっているので、通常は免疫チェックポイント阻害薬による治療が優先されます。しかし、患者が免疫関連副作用について知り、複数の免疫関連副作用を経験する可能性があること、および生存期間への影響を認識することが重要です」。

NSCLCは肺がんの中で最もよくみられるがん種で、症例の80%を占めている。また、男性に最も多いがんであり、世界の男女のがん死亡原因の第1位である。Naidoo医師によると、5~6年前までは、NSCLCと診断された人の平均生存期間は約1年だったという。標的療法と免疫療法という2つの新しい治療法により、これらの治療法が有効な患者の生存期間が劇的に延長された。

Naidoo医師に加え、本研究に参加している研究者は、以下の共同筆頭著者である:Bairavi Shankar, Jiajia Zhang, Patrick Forde, Josephine Feliciano, Kristen Marrone, David Ettinger, Christine Hann and Julie Brahmer of the Sidney Kimmel Comprehensive Cancer Center and the Bloomberg Kimmel Institute for Cancer Immunotherapy; Abdul Rafeh Naqash and Paul Walker of East Carolina University, Greenville, North Carolina; Biagio Ricciuti of the University of Perugia, Perugia, Italy, and the Dana-Farber Cancer Institute, Harvard Medical School, Boston, Massachusetts; Dwight Owen, Gregory Otterson and Sandip Patel of The Ohio State University–James Comprehensive Cancer Center, the Ohio State University, Columbus, Ohio; and Yukihiro Toi(戸井幸弘) and Shunichi Sugawara(菅原俊一) of Sendai Kousei Hospital(仙台厚生病院), Miyagi, Japan.

本研究は、ブルームバーグ・キンメルがん免疫療法研究所、米国国立衛生研究所、オハイオ州立大学臨床トランスレーショナルサイエンスセンター(Center for Clinical and Translational Science)による資金提供を受けた。

翻訳担当者 会津麻美

監修 小宮武文(腫瘍内科・Parkview Cancer Institute)

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