【ESMO専門家による指針】生存に影響を与えるがん治療を中止または延期すべきではない

COVID-19時代において、がん医療をどのように管理していくかという未解決の問題に応える包括的な欧州臨床腫瘍学会(ESMO)推奨事項をAnnals of Oncology誌で発表

COVID-19 パンデミック期のがん患者の診療方針に関する ESMO の医学専門家の合意声明が、Annals of Oncology誌に掲載され、全生存期間に影響を及ぼす可能性のあるがん治療を中止または延期しないように、世界中の腫瘍医に呼びかけている(1)。また、専門家らは、すべてのがん患者を新型コロナウイルス感染症になりやすいとみなすことは、不適切なケアや潜在的な負の結果につながる可能性があるため、そうした決めつけをやめるよう勧告している。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、新たに発見されたヒトのコロナウイルス(SARS-CoV-2)によって引き起こされる感染症で、まだ証明された治療法はない(2)。2019年12月に発生して以来、全世界で1,600万人以上の患者が報告され、60万人以上が死亡している(3)。

COVID-19の緊急事態において、コロナウイルスにさらされるリスクから患者を守りながら、質の高いがん医療を提供し続けるために、腫瘍内科の専門家は今も挑戦を続けている。今年初め、ESMOは、パンデミックががん患者の管理に及ぼす負の効果を軽減することを目的として、さまざまな腫瘍タイプに対するがんケアの多様な側面に優先順位をつけるためのガイドラインを作成した(4)。

コホート研究から得られた現在の臨床エビデンスを議論し、COVID-19時代のがん管理に関連した診断から手術までの重要な臨床上の未解決の問題について専門家のアドバイスを提供するために、ESMOによって国際共同体が設立された。専門家64人と投票権を持つ患者擁護者1人からなる学術専門家委員会は、28の声明に合意した。

「全般的なアドバイスは、がん治療は患者の全生存に影響を与える可能性がある限り、それを中止または延期すべきではないということです」と、合意声明の筆頭著者である欧州腫瘍研究所(IEO)のGiuseppe Curigliano教授(イタリア・ミラノ)は、パンデミック期にがん医療を提供する際の安全性とリスクに関する推奨事項についてコメントしている。今回の推奨事項は、免疫チェックポイント阻害薬、非細胞毒性標的療法薬、および一部の術後または術前全身化学療法の使用が有害である、あるいは原則として合併症や死亡率のリスク上昇に関連していることを示す説得力のある証拠はないことに基づいている。「もちろん、私たちがこれまでの研究で述べたように、感染リスクと腫瘍コントロールのバランスをとるためには、集学的チームによるケースバイケースの議論がきわめて重要であることに変わりはありません」と、Curigliano氏は述べている。

合意声明の中で、学術専門家委員会はまた、年齢、性別、腫瘍(亜)型、病期に関係なく、すべてのがん患者がCOVID-19に弱いと決めつけないように警告を発している。実際、パンデミックの初期(5-7)には、がん患者は新型コロナウイルス感染症に感染し、より重症な疾患を発症するリスクが高いと報告されていたが、今日までに収集された証拠によると、固形がん患者の多くは一般集団よりもCOVID-19が重症化しやすいわけではないことが示されている(8,9)。

「ヒトで観察されたことがなかった新規感染症の発生時には、がん患者に対して過剰な予防策をとることは理にかなっていましたが、今ではすべてのがん患者がCOVID-19に弱いという仮定から離れる必要があります。この影響は重要でした。なぜなら、一部の患者では、ここ数カ月間にわたり治療が延期または中断されたからです。この過剰な予防的アプローチの影響が今後出てくると思います」と、Curigliano氏は続ける。

COVID-19ウイルスとその結果に関して本当にリスクの高いがん患者とはどういう人たちなのかという重大な疑問に答えて、Curigliano氏は次のように締めくくっている。「現在のエビデンスに基づくと、複数の併存疾患があり、化学療法を受けている高齢患者のみが感染しやすいと言えます。この集団では、治療を開始する前に、患者がコロナウイルスに感染している可能性を排除するために、診断について現在のゴールドスタンダードであるリアルタイムRT-PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)を用いてCOVID-19検査を行うことを推奨しています」。

ESMOの主力誌に発表された一連の声明は、SARS CoV-2の生態、パンデミックの特徴、COVID-19に対するがん患者のリスクとその調節因子、そして最終的にはウイルスの存在下での最適ながんケアについてさらにデータを蓄積することで、より良い情報を得ることができるダイナミックな知識の宝庫として機能するように設計されている。

参照文献

1. Curigliano G, Banerjee S, Cervantes A, Garassino M, Garrido P, Girard N, Haanen J, Jordan K, Lordick F, Machiels JP, Michielin O, Peters S, Tabernero J, Douillard JY, Pentheroudakis G. Managing cancer patients during the COVID-19 pandemic: An ESMO Interdisciplinary Expert Consensus.

2. European Society for Medical Oncology (ESMO). What should oncologists know about COVID-19?

3. European Centre for Disease Prevention and Control. COVID-19 situation update worldwide, as of 23 July 2020.

4.European Society for Medical Oncology (ESMO). Cancer patients management during the COVID-19 pandemic.

5.Liang W, Guan W, Chen R, Wang W, Jianfu Li, Xu K, et al. Cancer patients in SARS-CoV-2 infection: a 446 nationwide analysis in China. Lancet Oncol. 2020 Mar 1;21(3):335–7.

6. Yu J, Ouyang W, Chua MLK, Xie C. SARS-CoV-2 Transmission in Patients With Cancer at a Tertiary Care Hospital in Wuhan, China. JAMA Oncol [Internet]. 2020 Mar 25 [cited 2020 Apr 8];

7. Miyashita H, Mikami T, Chopra N, Yamada T, Chernyavsky S, Rizk D, et al. Do Patients with Cancer Have a Poorer Prognosis of COVID-19? An Experience in New York City. Ann Oncol [Internet]. 2020 Apr 21 [cited 452 2020 Apr 25];0(0).

8.Kuderer NM, Choueiri TK, Shah DP, et al. Clinical impact of COVID-19 on patients with cancer (CCC19): a cohort study [published online ahead of print, 2020 May 28]. Lancet. 2020;S0140-6736(20)31187-9. doi:10.1016/S0140-6736(20)31187-

9.Conference Proceedings, ASCO Virtual Scientific Program 2020 Leora Horn, Jennifer G. Whisenant, Valter Torri, Li-Ching Huang, Annalisa Trama, Luis G. Paz-Ares, Enriqueta Felip, Vera Pancaldi, Alessandro De Toma, Marcello Tiseo, Pilar Garrido, Carlo Genova, Jacques Cadranel, Olivier Michielin, Anne-Marie C. Dingemans, Jan P. Van Meerbeeck, Fabrice Barlesi, Heather A. Wakelee, Solange Peters, Marina Chiara Garassino. LBA111 Thoracic Cancers International COVID-19 Collaboration (TERAVOLT): Impact of type of cancer therapy and COVID therapy on survival.

翻訳担当者 有田香名美

監修 佐藤恭子(緩和ケア内科/川崎市井田病院)

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