AIによるすい臓がん検診の実現に向けての進歩

膵臓がんは早期発見が命を救う上できわめて重要であるが、人工知能(AI)でその早期発見が可能となる見込みがある。2020年7月1日から4日まで開催の欧州臨床腫瘍学会(ESMO)世界消化器がん会議で発表される研究で、AIの可能性が示された(1)。

全体として、膵臓がんは10万人に12人の割合で発症する。この数字から、あらゆる人に検診を行うことは非効率的であり、不必要な検査を受けたり、副作用を発症するかもしれない危険に多くの人々がさらされることになると言える。患者の70~80%は進行期に診断されるため根治的治療にはすでに遅く、診断から5年後に生存する患者はわずか6%にすぎない。

検診は早期の、つまり治療が最も有効な時期のがん発見に有用であり、その結果生存率が向上する。検診には主に2つの必要条件がある。第一に、簡便に実施できて副作用が少ないこと、第二に、検診で利益を最も受ける高リスク集団を対象とすることである。例えば、乳がん検診には、50歳から71歳までの女性へのマンモグラフィ検査が含まれる。膵臓がんについては、非侵襲的検査が間もなく利用可能になるかもしれないとの有望な結果が複数示されており、検診で利益を受けられる高リスク集団の定義が切実に求められる中、AIがそれに対する答えとなるかもしれない。

膵臓がんを発症した患者は、膵臓がんを発症していない人々と比較して、診断の数カ月から数年前に、消化器系の問題や腰痛などの非特異的症状で一般開業医に相談する頻度が高いことが知られている。各患者において、これらの症状をきっかけにがんであるかをさらに調べることはほぼない。こういった非特異的な症状のうちどの組み合わせが高い膵がん発症リスクにつながるかを一般開業医が突き止めるのは困難と思われるが、AIであればこれを見つけられるかもしれないと研究者らは考えた。

この予備研究では、英国内の一般開業医診療の電子カルテを使用した(2)。2005年から2010年までに膵臓がんと診断された15~99歳の患者1,378人が解析に含まれている。各患者を、年齢と性別が一致した、膵臓がんに罹患していない4人とマッチさせた。診断前2年間の症状、疾患、投薬に関する情報をもとに、どのような人が膵臓がんを発症するのかを予測するモデルを作成した。

「われわれはAIに大量のデータを学習させて、どのような人が膵臓がんを発症するのか予測する組み合わせを探しました」と、研究著者のAnanya Malhotra博士(英国、ロンドン、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院、統計学研究員)は述べている。「このような大量のデータの中から発症傾向を識別することは人間の目では不可能です」。

本パイロット研究において、予測モデルは、60歳未満の人のうち膵がん発症リスクが高い人を診断の最大20カ月前から予測できる可能性があることが判明した。「われわれのモデルでは、膵臓がんから1人の命を救うためには、約1,500回検査を行う必要があると推定されています」とMalhotra氏は説明する。「これでは検診を実行可能とするには、まだ十分に縮小できたとは言えません。しかしこの結果は、検診をすべき人数を絞り込める能力をAIが秘めていることを示しています。膵臓がん患者と一般集団から選んだ対照群とを比較することで、一層大幅に人数を減らすことができるはずであり、それは次の研究で行う予定です」(今回の研究では、対照患者は他のがんを有していた)。

「この予測モデルに非侵襲的検診検査を組み合わせて、その後、画像診断や生検を行えば、相当な割合の患者の早期診断や、より多くの患者が膵臓がんを克服することにつながる可能性があります」とMalhotra氏は付け加える。

AIを用いて膵がん発症リスクが高い人々を最大20カ月早く特定できれば、それが生死の分かれ目となることもあろう。「これにより膵臓がん検診に十分な時間的余裕が確保できるはずですし、検診で陽性とされた患者の診断と治療が進められます」と、Angela Lamarca博士(英国、マンチェスター、The Christie NHS Foundation Trust、腫瘍内科学コンサルタント)は述べている。「膵臓がんを早期に診断すれば、治癒の見込みが最も高くなります」。

Lamarca氏によると、一般開業医がこのタイプの AI モデルを診療記録に利用すれば、高リスク患者を特定することができるという。誰に検診を行なうべきなのか、アラーム通知も可能である。Lamarca氏いわく「AIツールを日常診療に組み込んで、AIが特定した患者の検診の有益性を探る、より大規模な研究を行う必要があります。また、これら高リスク患者に適した検診方法を見つけるために、さらに調査を進める必要があります」。

参考文献
1. Abstract -SO-13 ‘Can we screen for pancreatic cancer? Identifying a sub-population of patients at high risk of subsequent diagnosis using machine learning techniques applied to primary care data’ will be presented by A. Malhotra during Session V: Molecular Screening; Imaging; Artificial Intelligence on Thursday, 2 July 2020, 18:50 to 20:21 (CEST). Annals of Oncology: doi.org/10.1016/j.annonc.2020.04.028
2. This study was funded by the Pancreatic Cancer Research Fund

翻訳担当者 佐藤美奈子

監修 泉谷昌志(消化器がん、がん生物学/東京大学医学部附属病院消化器内科)

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